3~6歳時代の「見守り方」が、わが子の人生に影響
子育てにも「予習」が必要です。前回の記事『3歳児が謎の行動…「うちの子、大丈夫かな?」真相を知り驚愕』(関連記事参照)では、モンテッソーリの「敏感期」という概念を解説しました。0~6歳の子どもには、一度だけ「能力が大成長する期間」が訪れます。子どもの成長に対する正しい知識がなくては、せっかくのチャンスを見逃してしまいます。
それでは、敏感期の一つ、「運動の敏感期」から予習していきましょう(『【画像】モンテッソーリの「敏感期」とは?』参照)。運動の敏感期は生まれてすぐから6歳まで続いています。しかし、3歳からその運動の中身が大きく進化していきます。
0~3歳までの子どもは、「自分の体を、思いきり動かす」ことが目的でした。「立つ、歩く、つかむ、つまむ、ひっぱる、刺す、はめる、通す」など、それぞれの運動自体を身につけることに一生懸命になり、動きをマスターすることに喜びを感じてきたのです。
しかし、3歳をすぎると、それまでにマスターした単体の運動を、組み合わせて、使いこなし、日常の生活に活かす段階に入ってきます。これをモンテッソーリ教育では「日常生活の練習」と言います。
日常生活の練習を繰り返すことで、小学校に上がるころには、身のまわりの日常生活のほとんどを、人の力を借りずに、自分でできるようになるのです。まさに、モンテッソーリ教育の最終の到着点である「自分の人生の主人公になる」に向かっていくのです。
だからこそ、子ども自身が大きく変化していくのに合わせて、私たち親の見守り方や、子どもを取り巻く環境を「バージョンアップ」していく必要があるのです。
わが子が何でも自分で決めて人生の主人公として生きていくのか、親に何でもしてもらわなければできない、言われた通りにしか行動できない「指示待ち」の人生を生きていくのか、それが3歳から6歳の3年間の親の見守り方で決まってしまうのです。
厳しい言い方になってしまいましたが、とても大切な分かれ目に立たされていると思ってください。
のりやハサミで「力加減の調整」を学ぶ…自律の始まり
モンテッソーリ教育における「日常生活の練習」は、さらに次の4つに分かれています。
①運動を調整できるようになる
②自分自身に配慮ができるようになる
③まわりの環境への配慮ができるようになる
④気品と礼儀を身につけるようになる
では、それぞれ見ていきましょう。
【①運動を調整できるようになる】
3歳までは力まかせに走り回ることで、自分の体が動くこと自体に喜びを覚えていました。3歳をすぎると、その動きを調整する段階に入ってきます。
ハサミで切る、のりで貼るなど、様々な道具を使うようになってきます。それらを、思い通りに使いこなすためには、「力加減の調整」が必要になるのです。自分の力と心を調節する。これが「自律」の始まりなのです。
たとえば折り紙をハサミで切って、のりで画用紙に貼るという活動を順を追って分析しながら見てみましょう。
1. 折り紙を片手に持つ
2. 反対の手でハサミを開き、刃を紙にあてる。閉じて切る
3. 自分の思い通りの形に切っていく
4. のりのふたをねじり開ける
5. のりのチューブを絞り、適切な量を指に出す
6. 指で折り紙にのりを塗る
7. 思い通りの場所に折り紙を貼る
8. はみ出たのりを拭きとる
9. のりが乾くまで、触らないで待つ
どうでしょう? たくさんの種類の動きが合わさっていて、子どもにとって、いかに「自分を律すること」が必要な活動かがおわかりいただけると思います。
このような活動を、集中し、繰り返すことで、どんどん上手くなっていきます。そして「自分の動きが洗練されていく」ことに喜びを覚えていくのが、3歳以降の運動の敏感期の特徴です。
このように、子どもの活動が複雑になり、レベルが上がっていくのですから、親の見守り方が大事になります。そのカギとなるのが「観察力」なのです。
たとえば先の折り紙の活動のように、それぞれの動きをバラバラに分析しながら見る練習をします。そうすることで、わが子が行き詰まっている部分も見えてきます。
ハサミの連続切りがまだできないとか、のりのふたが硬くて開けられないとか…。観察していくうちに、どう援助すれば、その問題をわが子が自分の力で解決していけるかが見えてきます。
ハサミのサイズは子どもに合っているか? もっと簡単なレベルのハサミの活動を提示してみるとか? のりをチューブ式ではなく、ボトル型に代えてみるとか?
モンテッソーリ教師は、常に子どもの活動を観察し、行動を分解して、解決策を考えるトレーニングを徹底的に積んでいます。しかし、それは特別な学校に通わなくてもできることです。
「日々の生活の中で、手を出し、口を出してしまう前に、わが子を観察してみよう!」、そう決めるだけで、わが子の本当の「今」が見えてくるのです。
「自力での着替え」が、小学校への入学準備になるワケ
【②自分自身に配慮ができるようになる】
自分の人生の主人公になるためには、身のまわりのことを自分でできることが第一歩になります。このことをモンテッソーリ教育では「自分自身への配慮」としています。
自分のことが自分でできるようになって初めて、自分以外のものや人に目が向いていくのです。たとえば、朝起きてから、登園するまでの活動を観察してみましょう。
1. 朝、自分で目覚めて、床から起きる
2. 顔を洗う
3. 食事をする
4. 歯を磨く
5. 排泄をする
6. 着衣を着替える
7. カバンを肩にかける
8. 上靴を履く
それぞれの活動には、様々な「運動の調整」が必要になります。たとえば、服を着るところで行き詰まっているのはなぜなのでしょう? ボタンがはめられないことが原因であっても、朝の忙しい時間に、服を着たまま、ボタンのはめ方を教えるのはとても難しいものです。
落ち着いた時間帯にボタンの大きな、はめやすい服を机の上に置いて、ゆっくりとやり方を見せてから、机の上でボタンをはめる練習をします。
このように、難しい活動を部分的に取り出して、ゆっくりその活動だけを繰り返すことで、自分一人でできるように援助していくのです。こうしてマスターしていくことを、モンテッソーリ教育では「困難性の孤立化」と言います。言葉はちょっと難しいですが、子どもの動きを観察する力がつけば、ご家庭でも活用できるテクニックです。
こうした身のまわりの活動が一つずつできるようになることが、小学校へ通うまでの準備になっていきます。「一人でできるように手伝う」、この言葉を心に刻んで見守ってまいりましょう。
【③まわりの環境への配慮ができるようになる(4歳から)】
自分自身に配慮ができるようになって初めて、「世の中は自分だけではないんだ」と気づくようになります。これが年中さんくらいです。それまでの子どもたちは自己中心的で当たり前だと心得ましょう。まわりの環境に配慮するとは、たとえば、
1. 動物、植物のお世話をする
2. 食事の準備をする、片づけをする
3. 掃除を手伝う
4. お茶を入れて、人に差し出す
など、世の中には自分以外にも人や生物がいることを知り、その環境に自分が働きかけ、その環境に自分が変化をもたらすことを経験します。
お手伝いなどで、感謝される。自分は社会の役に立つことができるんだという「自己有用感」が、将来の自己肯定感の土台になっていくのです。
周囲の大人から「社会のルール」や「思いやり」を学ぶ
【④気品と礼儀を身につける(4歳半から)】
日常生活の練習を通して、運動が洗練されます。また、自分自身やまわりの環境にも配慮ができるようになっていきます。
そして、自分が生活するコミュニティのルールを知り、日常生活でのたしなみや礼儀を覚えます。そして、自分を適切に表現することから気品は生まれます。
気品と礼儀の入り口は挨拶です。世界中の国々には、それぞれの挨拶があります。子どもは生まれた地域の挨拶の言葉を学ぶだけでなく、どんな時に、どのようなタイミングで言えばいいのかを習得します。
私たち大人の所作すべてがお手本になります。子どもは見て学び、真似をする天才です。ぜひ、この敏感な時期に、適切で気品に満ちた所作を伝えたいものです。
また、他人のことを思いやる気持ちの芽生え、社会の道徳を学ぶのもこの時期です。公共の場や交通機関でどのようにふるまうのか? どのような時には大きな声を出すべきではないのか? 様々な社会のルールを学んでいきます。
<ポイント>
●3歳以降は「日常生活の練習」で成長する
●自分の人生の主人公になるか、指示待ちの人生を送るか? 大きな分かれ目
●親の観察する目が大事
●自分が社会の役に立つことを知り、「自己有用感」を感じる
杉原 杏璃 氏登壇!
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
(入場無料)今すぐ申し込む>>