40歳の勤務医「脱サラして開業医になる」莫大な資金のリアル

勤務医から開業医へと「脱サラ」するには、医師としての臨床経験、資金力、体力の面から、40歳がひとつの目安といえるでしょう。しかし、開業医は経営者であり、患者から求められる技能も勤務医とは異なります。そのため、クリニック運営の実現には乗り越えるべきハードルがあるのです。ここでは、開業を志す医師が、勤務医時代から見据えておくべきポイントを解説します。

40歳は「開業するか否か」の分岐点

「四十にして惑わず」とは孔子の言葉ですが、医師にとって40歳は開業するか否かという選択のしどころです。もちろん開業するのに年齢制限はありません。医師免許さえあれば20代でも開業できますし、勤務医として定年を迎えた後、60代で開業する医師もいます。

 

そんななか、私が40歳での開業を勧めるのは、医師のさまざまなステージを考えたとき、もっとも適している年齢だと感じるからです。医学部は6年制なので、ストレートで大学に入れば、24歳で医師免許を取得できます。その後2年の初期研修、3~5年の後期研修を経て、ようやく一人前の医師になるのは30代の前半です。

 

とはいえ、その段階では臨床経験がまったく足りず一人前の医師とはいえません。単身で当直している夜に、命に関わる重症患者が運び込まれたら──自信を持って治療にあたれる医師はどれだけいるでしょうか? 言葉は不適切かもしれませんが、医師は失敗も重ねながら育ちます。歳月を重ねる中で、患者に育ててもらうといっても過言ではありません。

 

さらに今後は開業医として成功する条件として、「訪問診療」と「地域連携」が必須であり、それを実現するためのスキルが求められます。勤務医時代に専門科の腕を磨くとともに、総合的な臨床力を高める必要があるのです。

 

もちろん個人差はあるので、なかには短い期間で必要とされる能力を身に付けられる医師もいるかもしれませんが、多くの医師は不惑の年を迎えて、ようやく自分の臨床力に自信を持てるのではないかと私は思います。

 

年齢には資金的な問題も関係します。開業するためにはある程度まとまったお金が必要です。30代では必要とされる自己資金を貯めるのが難しいうえ、金融機関の融資を受ける場合も、まだ医師としての評価が定まっていないので条件が厳しくなります。

 

とはいえ、開業のタイミングをできるだけ遅らせればいいというわけでもありません。診療科にもよりますが、医師の仕事は技量を高い次元で維持することが求められます。残念ながら、ある年齢を過ぎれば経年とともに衰えていくので、開業するタイミングが遅れればそのぶんだけ、地域で活躍できる期間は短くなります。

 

また、在宅医療の基盤となる地域連携は人と人との信頼関係に依存するものだけに、一朝一夕には成り立ちません。「あのお医者さんなら」と地域の人たちに信頼されるまでには、やはり開業して10年はかかると認識すべきでしょう。50代で開業して70歳で引退するとしたら、開業医として本当に活躍できる年数は10年にも満たない短さです。そういった要件を考慮すると、やはり40歳が開業に最適の年齢ではないかと私は考えます。

「資金」「開業医としてのノウハウ」「集患」

勤務医は公営あるいは民営の病院に勤め、勤務先である病院から求められる医療を提供する対価として給与を得るサラリーマンです。患者との関係においても、病院が定めた範囲の医療しか提供できない代わりに、最終的な責任は雇用主である病院が負ってくれます。

 

一方、同じ医師でも、開業医はいわば経営者です。個人もしくは法人の違いはあるものの、実質的には診療所のオーナーであり、他の医師や看護師、事務員などを雇う立場にあります。したがって、勤務医が開業医になるのは一種の脱サラといえます。

 

脱サラして事業を始めるには、主に3つのハードルがあります。資金と運営のノウハウ、そして集客です。同じく、勤務医が開業医になる際にもこの3つが主なハードルになります。

 

①資金

クリニックを開業するためにはまず、医院のスペースを確保して、診療に必要な機器や人材を揃えなければなりません。また、最初から患者が多数やってきて黒字になるとは考えにくいので、数カ月分の家賃や人件費をまかなうだけのお金も用意しておく必要があります。診療科やクリニックの規模にもよりますが、数千万円~数億円かかります。

 

開業には数千万円から数億円かかる…。 (画像はイメージです/PIXTA)
開業には数千万円から数億円かかる…。
(画像はイメージです/PIXTA)

 

②開業医としてのノウハウ

開業医は医師であると同時に経営者でもあります。ところが、医学の勉強には長い年月を割いているのに対し、経営については学ぶ機会がほとんどありません。そのため、資金管理や財務、スタッフの採用や教育など、一般的な経営者がこなしている実務をゼロから学ぶ必要があります。さらに勤務医と開業医では、医師として求められる技能も大きく異なるので、勤務医時代に、開業すれば必要になると思われる事柄をあらかじめ学んでおかねばなりません。

 

③集患

クリニックの経済的な基盤となる売上は、患者が来院してくれることで発生します。したがって患者集めは開業医として成功する上で、もっとも重要な事柄です。クリニックを開設する際には、毎月何人の患者が来院すれば経営が成り立つのか、シミュレーションを行った上で、その人数以上を確保するための策をあらかじめ練っておくことが大切です。

 

勤務医が開業医として成功するためには、しっかりとこれらの準備を整える必要があります。特に今後は「訪問診療」と「地域連携」が、地域の医療を支える開業医には求められるので、そんな時代に適した職能を勤務医時代に身に付けておくことで、それぞれのハードルを乗り越えやすくなります。

 

 

嶋田 一郎

嶋田クリニック院長

 

嶋田クリニック 院長

大阪市立大学医学部卒業後、大阪市立大学医学部附属病院第2内科に入局。その後、長野県佐久市立国保浅間総合病院内科にて内科医として地域医療に従事。さらに(旧)国立泉北病院・神経内科にて約10年間勤務を経て、1996年に嶋田クリニックを開院。
勤務医時代から通院できなくなった患者を訪問診療し、開院後はさらに医療と地域との連携を考えた医療を実践し続けている。
大阪市立大学医学部非常勤講師、大阪府保険医協会副議長・地域医療対策部部長、泉北医師協議会会長、「三つ葉の会」(堺市南区周辺の多職種連携推進の会)会長、大阪府介護支援専門員(ケアマネージャー)協会堺支部南区地区顧問、堺市認知症サポート医。高齢者の在宅医療、またパーキンソン病をはじめとする神経難病と認知症に対する専門診療・保健活動も行い、通院が困難な患者の訪問診療に注力している。
日本内科学会・総合内科専門医。日本神経学会・神経内科専門医。

著者紹介

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