2017年以降、富裕層に課税強化の流れ
国税庁の資料によると2017年から、富裕層専門のプロジェクトチームを全国税局等に置くなど、富裕層への課税強化に力を入れています。
国税局の富裕層専門担当者は、対象となる富裕層だけでなく、その関係個人や関係法人(富裕層グループ)の抽出を行ったうえで、富裕層グループに係る資料情報の集積と分析を行い、国際課税や複数の税目にわたる税務調査の企画をして調査実施担当部署へ引継ぎを行っているといわれています。富裕層の税務調査にあたっては個人だけでなく法人も調査対象になる可能性があるという心構えをすべきです。
収集・分析の対象となる資料情報としては、例えば、所得税確定申告書や法人税確定申告書、財産債務調書、国外送金等調書、国外財産調書などの資料のほかに、外国の金融機関等における金融口座情報(CRS情報)や租税条約に基づく情報交換によって得られる情報などがあります。特に海外に保有している資産の情報はこれまでに比べて収集しやすくなっているため、今後の税務調査のトレンドになることが予想されます。
「法人化して納税」のほうが節税策として効果的
今後の日本の税制の流れを見ていると、個人の所得税は上がっても、下がることはないと考えられます。一方、法人税は諸外国と比べるとまだ比較的高額なため、日本企業の国際競争力を高めるために税率を下げる傾向にあります。
現在でも、法人の実効税率(実質的な法人税や法人住民税等を合わせたもの)と個人の所得税率を比べてみると、節税には法人の方が効果的だということがおわかりになると思います。
法人税は、会社の規模によって変わります。資本金1億円以下の法人の場合、東京都のケースでは年間の法人所得が800万円までは法人税・地方税・事業税を合わせた実効税率が約23%、800万円を超える金額は約34%になります。
個人の所得税率では、800万円であれば税率は所得税率23%、住民税率10%。1000万円では所得税率33%、住民税率10%となります。法人化して法人税を払った方が、個人で所得税を払うよりも節税できるのです。
「将来の課税額の把握」こそ唯一にして最大のポイント
相続税を減らすポイントは、基本的にたった一つ。それは、自分たちがいまどのくらいの資産を持っているのかを知り、最終的にどのくらいの相続税が課税されるのかを把握することです。私は「相続税の債務」と呼んでいますが、それを把握することがとても重要になります。
例えば、事例でも出てきましたが、自社株の評価が高いケースや評価の高い不動産を複数所有しているケースです。これらのケースでは、相続がスタートすると相続税の課税額がとても高くなってしまいます。ですから、「相続が始まった時にどのくらい節税できるか」という観点から、相続税の債務を減らす努力をしてみてください。
例えば、自社株の評価を下げる場合、利益を圧縮するために社長に多額の退職金を支払う方法や、大きな設備投資をするなどの方法があります。
一方で、不動産の評価が高ければ、小規模宅地等の特例を活用するために自宅を売って都内に引っ越したり、アパートやマンションを建て、貸付地などにしたりすることで評価を下げる方法があります。相続財産全体の評価を下げることで、次世代に相続財産をスムーズに移転できるのです。
あわや「租税回避行為」認定…言いなりの節税策は危険
相続税の税務調査で、これまで認められていたような節税策が、最近否認されるケースが増えています。理由は、国税局が「租税回避行為」とみなし厳格に臨むようになったからからだと考えています。
例えば、ある中小企業に取引銀行が持ち株会社の株式を活用して節税するアイデアを提案したところ、税務署に認められませんでした。そのアイデアというのは、こうです。
中小企業社長は、A社とB社に100%出資しています。A社とB社はともに相続税評価額が高いので、まず取引銀行がA社の株式の買取り資金をB社に貸し付けます。次に、B社がA社を子会社化します。子会社化によって、B社がA社の株式を買い取ることになります。国税庁の通達に従うと、これによりB社の相続税評価額が大幅に下がります。
一方、A社の大株主である社長のところには、株の売却益が入ります。そこで、その売却益を保険や投資信託などで取引銀行が預かります。このようなスキームです。以前から金融機関を中心によく行われてきた節税案ですが、相続税が改正されてから、こうした株の評価減は租税回避行為と見なされやすくなりました。銀行や不動産業者、保険営業などの勧誘といった「沿道のヤジ」もほどほどに聞いておかないと、大きな損をしやすい情勢になっているといえそうです。
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