※本連載は、税理士法人エクラコンサルティング/株式会社エクラコンサルティング代表社員の田中誠税理士の著書『お金持ちのための最強の相続 改訂新版』(実務教育出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

巨大化する「相続ビジネス」怪しい業者がわらわらと…

2014年頃、テレビ番組や新聞、雑誌で相続特集が次々と組まれ、相続の実態が一般に広く知られるようになりました。金融機関のテレビCMで、タレントが自分の両親の相続について語り合うシーンがあったのを覚えている人もいるかもしれません。

 

「相続」という言葉自体は確かに身近になり、以前よりも相続について家族で話し合う機会も増えたと思います。それはとても良いことですが、一方で相続は、金融機関や不動産業者、保険会社などにとって「ビジネスチャンス」でもあるということを心に留めておく必要があります。

 

実際、相続は非常に高額のお金が動きます。2017年の国税庁調査では、相続額平均は被相続人一人あたり1億3962万円となっています。その多くは不動産であるにしても、億単位のお金が動く、近年まれに見るビジネスチャンスなのです。

 

このような相続税の改正によって生まれたビジネスチャンスに群がるのが、金融機関や不動産業者、保険会社の営業マンなどです。相続が発生すれば、さまざまな問題が起こります。だれに遺産を継がせるのかという問題はもちろん、相続税が課税されるのであれば節税対策の必要も出てきますし、納税資金を確保するために不動産を売る必要もあるでしょう。しかし、きちんと事前に対策を練っておかないと無用な「相続ビジネス」に巻き込まれ、残せる資産をムダに減らすことになりかねません。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

手数料1000万円で「サービスこれだけ⁉」が多発

現在、相続の悩みの駆け込み寺になっているのが、銀行をはじめとする金融機関です。相続というとプライベートなことというイメージが強いですが、相続を考えるためには自分の財産を明らかにする必要があります。しかし信用に足る人がどこにもいないので、止むに止まれず金融機関で相談するというケースが多いようです。

 

もちろん、相続について相談するだけであれば問題はないのですが、そういった方々は金融機関が販売している金融商品をよく検討せず購入してしまうケースが多いのです。なぜ、そのようなことになってしまうのでしょうか。実は、金融機関に存在する相続専門部隊が、相談者の財産状況を調べつくしているからです。相続専門部隊が収集した情報をもとに、金融機関の担当者がその人に合った商品をすすめてきます。

 

たとえば、遺言信託という商品。信託銀行を遺言の執行者として指定し、相続が発生した時に遺言執行者である信託銀行が、遺言書通りに執行するというものです。一見、相続に関する事項をすべて任せることができ、とても安心な制度のように思えますが、遺言執行に対する手数料が非常に高いのです。

 

たとえば3億円の相続財産の場合、執行手数料は1000万円にもなります。それ以上の財産であればさらに高くなります。それだけ手数料を取るのですから、さぞ十分なサービスが受けられると思ったら大間違いです。

 

実は、遺言信託によって信託銀行が遺言書の内容に関してできるのは、財産リストを作ることだけ。相続人の認知や排除など、身分に関することは一切行えません。さらに相続人の間で遺産分割紛争が起きている場合、もめごとに巻き込まれないように遺言の執行はできないようになっています。

 

そのため、一次相続時の遺言書の作成を行う時、多くの信託銀行はまず被相続人の配偶者にすべての財産を相続させるようです。その大きな理由の一つは、次の二次相続の際にも当然のように遺言書の作成に関わり、執行手数料を取ることができるからです。

 

もちろん、配偶者の非課税枠があるので、2億円くらいの資産であれば、一次相続は相続税なしで相続できるでしょう。しかし、二次相続で大きな相続税が課税される可能性があります。さらに、「煩わしいことはすべてお任せください」といっている遺言信託でも相続税の申告に関しては別途税理士に依頼する必要があり、その際、税理士報酬も必要です。つまり、遺言信託は、遺言書の作成のアドバイスくらいしか提案できません。財産を守るためには、結局のところ自分で動くしかないのです。

 

一方、金融機関は企業経営者にはどのような商品を勧めているのでしょうか。相続税対策の一つとして、「課税対象となる相続財産を減らす」方法がありますが、それを大義名分として不必要な借り入れをさせる商法が横行しています。金融機関が中心となって、高額な手数料の保険や投資信託を経営者に購入させているのです。

節税しても借金残る「アパマン節税」…本末転倒では?

また、相続税対策を名目にして地主にアパートやマンションを建てさせようと考えている不動産会社の営業マンも多くいます。

 

融資によってマンションを建てる相続税対策は、金融機関にとっても悪い話ではありません。場合によっては、金融機関が不動産業者と一緒になってアパートやマンションの建築をすすめてくる可能性もあります。地主が遊休地にアパートやマンションを建てて節税するしくみは、一般的に次のようなものです。

 

たとえば、土地評価が5000万円の遊休地があるとします。そこに、金融機関から5000万円を借り入れてアパートを建てます。アパートを建てることで、遊休地は貸家建付地として評価が下がります。

 

たとえば、借地権割合が70%の地域の場合、70%×0.3=21%となり、5000万円の土地が21%減の3950万円にまで下がります。一方、建物の価格は固定資産評価額(建てた時価の6割ほど)で評価され、さらに借家権割合として30%が控除されます。

 

[図表]遊休地にアパマンを建てて節税するしくみ

 

この方法は、5000万円の借り入れで土地の評価が下げられることから、昔から定番の相続税節税テクニックとして人気があります。しかし、確かに現金などのプラスの相続財産が減ることで相続税対策にはなる一方、膨大な借金が残ることを忘れてはいけません。

 

大家業で最も重要なことは、入居需要の高い地域にアパート・マンションを建てて収入を得ることです。しかし、不動産会社の需給予測は見積もりが甘いことが多く、実際に運用してみたら、借金がなんとか返済できるくらいまでしか収益が上がらないケースも少なくありません。

 

つまり、相続税対策といっても、土地にアパートやマンションを建て、借金を増やして相続財産を圧縮することだけを考えていると失敗する、ということです。目の前の相続税だけでなく、その後の流れをきちんと見極めておく必要があります。

 

土地にアパートやマンションを建ててしまうと、土地の価値が大きく下がるため、結果として土地を売りづらくなります。この場合、預貯金のないケースでは、無用な借金をしてしまうことにもなりかねません。本当は土地の一部を売るだけで相続税の納税資金を確保できたのにもかかわらず…。

 

特に、昔からの地主は「先祖代々の土地を守り伝えていこう」という気持ちが強い傾向があります。そこを不動産業者につけ込まれ、先祖代々の土地を守るためだけに、駅から遠かったり、入居需要が少ないところにアパートを建築してしまうのです。

 

大幅に節税できるのですから、一見すると良い話に思えるのですが、電車が主要な交通網であるエリアで駅から遠い物件であれば、入居需要は大きく減ってしまいます。もちろん、入居者がいなければ家賃は入らず、莫大な借金だけが残るというわけです。

「サブリース」おいしい話などあるわけないのに…

不動産で確実に収入を得るためには、需給予測をシビアに行うことが大前提ですが、大家業を代行してくれるサービスを行う業者もいます。

 

ある不動産会社は、統一されたブランドのアパートを土地持ちの地主に建てさせることで有名ですが、資材は通常価格の何倍もするうえ、見た目はきれいでも安普請で、登るとギシギシ音がするような階段であるケースもあります。そのような物件では、入居者を募集するのもひと苦労です。しかも統一されたブランドなので、市場価格の何倍もの建築費用がかかるケースもあります。建築費用が割高になれば、その後の家賃収入にも影響が大きく出てきます。

 

そして、建築されたアパートはその不動産会社が全部屋を一括で借り上げ、地主と25年くらいのサブリース契約を結び、一定の家賃収入を保証するのです。

 

一定の手数料を不動産会社に支払うことで、入居者の募集から退去、入金や建物の管理までありとあらゆることを代行してくれます。一見、オーナーは何もしなくてすむと思うかもしれません。しかし、そんなおいしい話などあるわけがありません。

 

サブリース契約はだいたい2〜10年に一度見直されることが多く、建物の経年劣化によって、修繕費などの経費が多くかかるようになります。また、入居者が集まらなければ家賃を下げられてしまいます。また、金融機関からの借り入れが減れば、通常その分家賃の収益は増えるはずですが、余剰分の家賃収入はすべて、家賃保証の名目で不動産会社に取られてしまうのです。これでは、財産を守ることにはつながりません。

 

 

田中 誠

税理士法人エクラコンサルティング/株式会社エクラコンサルティング 代表社員

 

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