金融機関や不動産業者、保険会社などにとって、「資産家の相続案件」は明確なビジネスチャンスです。迷いや悩みに付け込み、高額な手数料の保険や投資信託を購入させる例は枚挙にいとまがありません。資産を喪わないためにはどんな点に注意すべきなのでしょうか。※本連載は、税理士法人エクラコンサルティング/株式会社エクラコンサルティング代表社員の田中誠税理士の著書『お金持ちのための最強の相続 改訂新版』(実務教育出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

地方に頻出!相続貧乏に陥りがちな地主の特徴

地方の地主のご自宅に伺うことがよくあるのですが、建物の外観や配置の多くが酷似していることに驚かされます。

 

1000坪ほどの広大な土地に、300坪ぐらいの瓦屋根の大きな家がどんと建っていて、近くの蔵には農機具や脱穀機などが無造作に置かれ、奥の離れのようなところに子どもたちの家、そんな光景をよく目にするのです。

 

確かに、自宅は相続時には評価減の対象になるのですが、敷地があまりに広すぎる場合、評価減の対象範囲を超えてしまいます。たとえば、小規模宅地等の特例を活用して評価減ができる範囲はおよそ100坪(330m²)。自宅面積の1/10しか評価を下げられません。これは節税の観点から見て、とても効率の悪い所有のしかたです。

 

土地には子どもたちの自宅も建てられていますから、売るわけにもいきません。こういうケースの場合、いざ相続が始まり、課税されると納税資金が足りなくなってしまうケースが非常に多いのです。せっかく広い土地を所有しているのですから、きちんと計画的に収益を生む体質にして、納税資金を計画的に貯めておいた方がよいでしょう。

 

共通点といっていいほど、地方地主は「将来、相続税資金に困る所有方法」をしている(※写真はイメージです/PIXTA)
地方地主は「将来、相続税資金に困る所有方法」をしがち(※写真はイメージです/PIXTA)

現金がどんどん減っていく「生命保険」の罠

納税資金に困る地主に、保険会社の営業マンが次のような甘い言葉をささやきます。

 

「生命保険の相続税対策なら、面倒な手続きは一切ありません。数枚の契約書に必要事項を書いて保険料を支払い、保険会社の承諾を得られれば、相続が発生してもすぐに納税資金を調達することができますよ」

 

多くの地主は相続財産の9割を土地で所有しています。現金をお持ちの地主はそう多くありません。不動産を買うのは面倒だけど、保険なら…と、二つ返事で加入されてしまう方も多いのです。

 

保険は相続の時に、現金として支払われるのでとても有効な相続対策の一つです。しかも、相続によって発生した生命保険金は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象になる一方、「受取人の固有の財産」とされるため、相続人の間で分ける必要がありません。このため、あらかじめ現金を受け取る人を指定できる相続財産として有効です。うまく活用すれば、納税対策や争続対策にも活用できます。

 

また、生命保険はみなし相続財産として課税対象となるため、非課税枠が活用できる点も見逃せません。相続人一人あたり、500万円までが非課税となります。このように、一見メリットが大きく見える生命保険ですが、実は保険料が意外とバカになりません。たとえば、相続で人気のある「一時払い終身保険」の場合、一回で数千万円もの高額な保険料を支払わないといけません。手元から数千万円もの現金が出て行くため、現金に困る地主も出てきます。現金の持ち出しを少なくできる保険もありますが、それでも年間数百万円程度の現金の払い込みが必要です。

 

いつ起こるかわからない相続のために土地という資産だけを持ち、まったく収入のあてのない地主が残り少ない現金を払い続ける。こうしたカラクリによって、生活費にまで困窮する「相続貧乏」地主が出てきてしまうのです。

次ページ9割の税理士は、相続となると「戦力外」
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