「なぜ、なんのために」働くのかを明確にする
そこで、私が非常に重要だと考えているのが、ビジョンを持てるかどうかということです。これはとても大切です。ビジョンというのは会社の中で出世するということではなく、なぜその仕事をするのか、何のために働くのかといったイメージです。仕事のゴール、つまり何を目指すかと言ってもいいかもしれません。その設定があるのかないのかで、「壁」を乗り越える力が違ってくる。ビジョンがなければ乗り越えられないということにもなります。
私の場合は人材ビジネスを通じてやりたいこと、自分なりの思いというものがまずありました。そうすると、新しい会社で不本意な異動や衝突があっても、まったく動じることがないんですね。ひとつの部署でうまくいかなくても、異動してやれればいいと思える。あるいは、スピンアウトしてもいいでしょう。この間、頭の中でイメージしているゴールは、実は変わっていないのです。
それは、所属している部署、あるいは会社の中でやれることなのか、それとも移って別のところで同じゴールを目指せるのかということです。登山にたとえると、頂上を目指す道はひとつではないということ。ひとつがダメだったら別の道を探していく。
そこがダメだったら、また別の道……と。でも、目指す山頂、自分にとってのビジョンは常に変わらないというのがとても大事だと思います。
そこで、読者のみなさんには、「あなたはビジョンを持っていますか?」ということを問いかけていきたいと思います。もし、いまなければ、ここを読んだこの瞬間から、考えるようにしてください。自分にとってのビジョンとは何か。自分はなぜ、何のために働くのか。本連載がそのことを考えるきっかけになればと思います。
私がいう「ビジョン」とは、転職業界でよく使われる「キャリアの一貫性」とは違います。世間で言うキャリアの一貫性は同じ業界、同じ職種で一貫してキャリアを積み上げるという考えですが、ビジョンというのはもっと深い、根源的なところでのアイデンティティと言ってもいいかもしれません。樹木にたとえると「幹」にあたる部分です。
幹は、年齢とともに徐々に太く大きく成長し、根っこは常に変わらず大地をとらえています。先にいくと枝が分かれ、さらに先には葉っぱが生い繁っている。幹は、業種、職種に関係なく一貫しており、枝や葉は、業種、職種によって変わってくる。そして、本来の「一貫性」は幹の部分にその本質があると考えます。
「仕事内容、給与、働く場所」が曖昧な日本企業
日本特有の新卒一括採用制では、採用後に具体的な仕事が決まるため、就職と仕事内容の結びつきが弱く、会社という組織に入る「就社」の側面が強くなります。
就職後に職業訓練を受けて仕事をする能力を養っていくので、現状の能力より、訓練を積めば仕事ができるようになる人かどうかが重視されます。
一方、外部労働市場制を採る欧米では、企業は「ジョブディスクリプション」(職務記述書)に基づいて求人をします。日本では「求人票」にあたるものです。何が書いてあるかというと、職務内容のすべてが詳細に記されています。そこに書いてあることがそのまま雇用契約書にもなるほど明確です。それによって採用された人は、書かれている通りの仕事をします。営業なら営業、管理なら管理と仕事の範囲、責任の範囲もはっきりしています。
あるいは、給与は成果給なのか固定給なのか、それはいくらなのか。達成したらボーナスがあるのか、ないのか。成果給であれば、「成果」の判断基準、評価基準も明記され、企業はそこに書いてある通りに判断、評価して給与を支払う。受け取った側は、それが正当な評価かどうかが誰にでもわかるようになっています。
だから、欧米では入社前から自分が何をするのかがわかっています。ですが、日本の会社は、入ってから仕事が決まる。ここが大きな違いです。「総合職」などという考えは、欧米の企業では見当たりません。
ただ、日本でも最近の若い人は、明確にこれをやりたという気持ちが以前に比べて強くなっていると思います。自分がやりたいことと違っていれば、やりたいことができる環境を求めて移っていく。昔は我慢して待っていればそのうちやりたいことができるようになるかな、といった曖昧さがあったと思うのですが、いまの若い人たちは待たないで行動する。
裏を返すと、かつてに比べて能力が高く、自信のある人が増えているのではないかという見方もできます。そこで、ひとつの選択肢としての転職、とくに異業種への転職ということが視野に入ってくるわけです。