仕事のスタイルや仕事の進め方、センス、価値観は、性格と同じで自分では変えられない。しかし、場所を変えると評価は上にも下にも違ってくる。その理由は企業との「相性」が大きな要因だ。企業も個人の集合体、絶対に変えられない性格、つまり社風のようなものが確かに存在する。ここでは、「異業種」へと転職することで天職に出会えるためのノウハウを紹介する。本連載は、武元康明氏の著書『30代からの「異業種」転職成功の極意』(河出書房新社)から一部を抜粋した原稿です。

会社が社員のベンチャー設立を応援

武元 康明著『30代からの「異業種」転職 成功の極意』(祥伝社新書)
武元 康明著『30代からの「異業種」転職 成功の極意』(祥伝社新書)

世界のエクセレントカンパニーのひとつに数えられるトヨタ自動車も完全終身雇用制を採っています。これは日本人の精神構造、哲学、思想が変わらない限り、依然として続くだろうと思います。

 

要は、どちらか一方が伸びるのではなく、併存していくという流れです。終身雇用制の新たなパターンとして最近、私が注目している企業のひとつにサイバーエージェントがあります。サイバーエージェントというとバリバリのベンチャー企業で、完全実力主義の欧米型のイメージですが、必ずしもそうではないようです。

 

ベンチャーに集まる社員は、それぞれ起業家マインドも旺盛です。そこで、社内のベンチャー志望者を会社がバックアップする制度があります。失敗したらお払い箱かといえばそうではなく、その後も会社に残って再起を狙えるようになっているのです。

 

失敗したから評価が落ちるという感覚も、彼らにはありません。トライ・アンド・エラーでダメだったらまた次の企画を立てて、再トライすればいいじゃないか。そういうことを社内で何度も繰り返せる。実はこれは、新しい時代の新しい終身雇用のスタイルではないかという気がしています。

 

似たような動きが、ある老舗大手商社にもありました。この会社は毎年約100人近くの新卒社員を採用するのですが、1〜2年後には40人くらいが辞めていくという実態がありました。就職人気企業ランキングで常に上位に入るような会社なのに、なぜ半数近くの人が辞めていくのか。実は、辞めた人の何割かがベンチャーに挑戦しているんですね。

 

優秀な学生が多く集まる超一流商社ですから、起業して一獲千金を狙う人材がいてもおかしくありません。しかし、ベンチャーですから当然、リスクもあって失敗もある。そこで、会社が、辞めていった社員に打診をすると、かなりの割合の人が「戻りたい」と言っていることがわかったそうです。

 

この会社にはもともと社内ベンチャー制度があったのですが、成功して株式上場を果たしても上場利益の多くを会社が持っていく仕組みになっていました。そこを大胆に変えて、成功したときは本人の取り分を多くし、逆に失敗しても本人のリスクがなく、かつ会社に残れるような環境を整えていく方針を決めたそうです。

 

辞めてベンチャーを起こした人たちは、会社が嫌いで辞めたのではありません。社内の制度が、自分たちのやりたいことに対して障壁になっていたから辞めたわけです。その障壁を取り除き、環境を整えてあげれば、社員は辞める必要がない。社内ベンチャーが成功すれば、会社にとっても社員にとってもウイン・ウインの関係になれる。どうやらそのことに気づいたようなのです。

個性ある人材も会社色に染めたい日本企業

日本の大手企業はやはり、人材を囲い込もうとします。とくに労働人口が減少するなか、優秀な人材は外に出したくないという心理が働くのは理解できます。ただ、終身雇用制といっても昔と同じままではなく、外部労働市場との折衷などさまざまな働き方が模索されています。

 

日本型経営に根強い人気がある一方、一生を一社で勤め上げることがなかなか難しい時代を迎えつつあるのは間違いありません。「人材の流動」と「多様な労働」は不可逆的なものだと言っていいでしょう。

 

それこそ、かつては超安定企業だった銀行・メガバンクと言われるところでもリストラが始まるなど、勝ち組といわれていたところでも絶対に安心だとはいえません。企業が従業員に〝安心〟を提示できなくなってきているということです。いまの社会の構造的な問題と言っていいでしょう。

 

業界内での企業間競争に勝つため、純粋培養で育ててきた人材だけではもはや対応できないことも増えています。かつて基幹産業といわれた鉄鋼、重電などのオールドエコノミー企業からも、ヘッドハンティングの依頼があるほどです。

 

ただ、ここが非常に矛盾するところで、私がこの連載を書こうと思った動機のひとつでもあるのですが、日本の企業はどうしてもドライになりきれない。どんなに優秀な人材であっても、やっぱりうちの会社の色に染まってもらわなくては困る、という意識が非常に強く残っています。ないものねだりのようなもので、本当は停滞している現状を活性化するために個性ある人材を招聘(しょうへい)したのに、いざ来てもらうと「やり過ぎだ」ということになる。

 

企業側のこういう意識を見極め、どう折り合いをつけるかが、実は本連載で繰り返しお伝えしようと思っている異業種転職の重要なポイントのひとつです。

 

 

武元 康明
半蔵門パートナーズ 代表

 

 

 

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