それぞれに、メリットとデメリットがあると考えられていますが、ヒューマンエラーを防止するという観点からは、ダブルタスクは奨励できません。その理由として、人は物事を処理する時、使用する脳の専有域を自らが自由にコントロールできるものではないからです。
別のタスクを並行して実行している途中で、その並行したタスクに問題が発生すれば、本人の意志とは無関係に、確実に思考は問題の内容に傾倒します。その結果、もう1つの事柄に対する思考が疎かになります。これは、誰にも避けられない事実です。
業務を行う上で、2つの事項が同時に行われる恐れがある場合、その可能性がある状況では、シングルタスクが維持できるようにマネジメントすべきだと思います。
これは、職場の中に潜むダブルタスクの問題です。ヒヤリハットだけではなく、実際に発生した事故・不具合にもヒヤリハット作成、事務局による聞き取り調査を基にしたm-SHEL(エラーの原因を視覚的にわかりやすく示したもの:図表)分析の検討は有効です。
不注意による「うっかりミス」を無くすために
“崎”と“﨑”のように人名に使う字には、間違いやすいものが多くあります。それについて、関わりのある組織はどこもその対策マニュアルを用意していると思います。
今回の事例は、そのマニュアルの確認を怠った(行動スリップ)か、知ってはいたけれども脳の中で行われる記憶との照合ミスによるものだと考えられます。この事例の場合、木村めぐみの教育をあなたが担当していました。そのため、彼女は判らないこと、疑問などがあれば当然、あなたに聞きます。その時点で、あなたの行うべき仕事が2つになりました。
木村めぐみの質問内容は、かなり考慮すべきものだったのでしょう。そのために、思考のウエイトがそちらに偏りすぎたため、通常では犯さないミスを犯してしまいました。しかし、ここでは更に考えてください。
今回の事例が起こった時点では、あなたと木村めぐみとは、個々に窓口業務をこなしているはずです。本来なら、あなたはあなたの業務に専念しなければなりませんでした。そこで問題となったのが、あなたの責任感です。木村めぐみの教育は自分の責任であるという自負が問題を引き起こす発端になってしまいました。この時、本来の窓口業務と教育担当者との気持ちの切り替えが、正しくできなかったのです。
対策として、気持ちの切り替えを確実に行う術として、“声掛け”が採用されました。職務を他人に引き継ぐ時、少しの間だけ替わってもらう時など、確実にバトンを渡すための言わば儀式です。ほんの些細なことですが、この儀式の採用により次の作業への気持ちの切り替えや他のメンバーへの責任(権限)委譲が明確にできるようになりました。
※本記事は連載『ヒューマンエラー防止対策』を再構成したものです。