(※写真はイメージです/PIXTA)

2017年1月刊行の書籍『70歳からの住まい選び』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋したものです。最新の情報・法令等には対応していない場合がございますのであらかじめご了承ください。多数の高齢者の住まい選びがあるなかで、本記事では「自宅が全焼してしまった女性」の例を紹介します。

急に家を失ってしまったら…、一人暮らしの高齢女性

 

T氏:90歳 女性

入居前の住まい:一戸建て

入居前の家族構成:一人暮らし

 

<住み替えを検討したきっかけ>

3年前に自宅が火事にあって全焼しました。原因は未だにまったく分かりません。親が遺してくれた築60年の古い家でしたから、何があってもおかしくなかったのですが……。当時就寝していた私は、煙を吸って気絶し、気がついたら病院のベッドでした。お医者さんからは、特に大きなけがもなかったので目が覚めれば問題ないはずです、とりあえず1週間ほど入院して様子を見ましょう、と言われました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

火事の記憶はほとんどありませんでしたが、なんとか命があったことにほっとしました。でも、問題はあったんです。そこは救急病院なので、命に別条がなかった私は長くはいられません。だからといって家が全焼してしまった私は帰る場所がないのです。そこで1週間後には別の病院に転院することになりました。

 

その病院には結局3カ月入院しました。その間はずっと次に住む家探しです。幸運なことに病院の相談員が親切な方で、私の話を何時間も聞いていろいろ考えてくれました。

 

私は住むところにほとんどこだわりはありません。なぜなら戦争で焼け野原を経験しているからです。戦後は両親とバラックに住んでいて、昭和28年にやっと抽選が当たって今の家に住むことができました。そのときの経験から雨風がしのげるだけで感謝しなければ、と思っているんです。

 

だから相談員の方にはアパートでも老人ホームでも入れればなんでもいいとお願いしました。ただし、できれば都内の物件がいいと伝えました。私は東京生まれの東京育ちなので、やはり都内からは離れたくなかったんです。

多少収入があっても難しい「高齢者の物件探し」

<入居の決め手>

とはいえ、私のような老人の物件探しは大変だったようです。アパートは大家が嫌がる。(有料)老人ホームに入るにしても、あまりお金がありません。私は公務員を定年まで勤めました。だからある程度の年金収入はあります。それに焼けた家の隣に従妹が住んでいたので、土地は従妹に貸すことにしました。その家賃収入も少ないですがあります。それでも都内の(有料)老人ホームに入るには足りないとのことでした。

 

そこで相談員の方が紹介してくれたのがサ高住でした。当時90歳近かった私でも入れてくれるし、(有料)老人ホームのように最初に何千万円もいりません。なにより都会にあることがよかったんです。とりあえず予算に合うということで一番小さい1K(35㎡)の部屋を見せてもらって、すぐに決めました。

 

<入居後の感想>

引っ越して3年が経ちました。一度火事を経験しているので、災害に対して心配症になっていましたが、ここは高台にあるので地盤は強いようです。あとは火の元が不安でしたが、IHクッキングヒーターなので安心です。

 

それにマンションは、玄関の鍵一つをかければいいだけなので便利ですね。一戸建てに住んでいたときは、外出の前に家中の窓の鍵もかけなければいけなかったので大変でした。ほかには冬でも暖かいことに驚きました。やはり木造の一戸建てと鉄筋コンクリート造のマンションは違いますね。

 

あと、ここは都内なので、気軽に友だちが遊びに来てくれるところもいいですね。やはり立地にこだわってよかったと思います。ただ、実を言うとこちらの環境に馴染むまでには時間がかかりました。

 

入居した当初は、まだ火事のショックから立ち直っていなくて……。若い頃から住んでいたところが突然なくなったショックはもちろん大きかったのですが、同時に隣近所の家にも少なからず迷惑をかけてしまって、結構ひどいことも言われました。でも、本当に火事の原因は今も分かっていないんです。なのにどうしてそんなことを言われなくてはならないのかと本当に落ち込みました。

 

なので、ここに引っ越してから半年以上は誰とも話したくなかったんです。それにもともと両親が亡くなり一人暮らしを続けていた私は、無口になっていました。ご近所も60年住んでいると世代交代を繰り返して誰が住んでいるのか分からず、会話することはなくなっていたのです。

同世代と昔話ができる環境が嬉しい

そんな事情を周りの人たちは理解してくれていたようです。細かいことは聞かずに入居者もスタッフも毎日挨拶をしてくださいました。『おはよう』『いってらっしゃい』『おやすみなさい』。皆さんは当たり前に交わす言葉かもしれませんが、私にはうれしかったんです。

 

さらに隣の棟に住んでいる子どもたちも『おはようございます!』と毎日挨拶してくれます。これがかわいいんですよ。そんなことが続いて私は、この施設の一員として認められていることが分かってきました。

 

だから1年くらい経ってからでしょうか。自分からサークル活動に参加するようになったんです。折り紙、体操、オセロ、切子ガラス、フラワーアレンジメントなど自分でできそうと思ったことはなんでも参加しています。

 

サークル活動を通じてお友だちもたくさんできました。今まで戦争の話ができる世代の知り合いは本当に少なかったのですが、ここにはたくさんいます。話が合うんですよ。本当にここの一員になれてうれしい。自宅が火事にあってよかったと思うくらいです。

 

不幸と思える火事でも、あわなければここに来ることはありませんでした。運命って分からないものですね。今考えれば、80代までがんばって一人暮らしを続けることはなかったと思います。

健康寿命=健康上の問題で制限されず生活ができる期間

日本人の平均寿命は延び続けています。男性は80.79歳、女性は87.05歳(「平成27年簡易生命表」より)。

 

しかし、いくら長生きできても健康で活発に行動できなければ、100%満足できる生活とはいえないでしょう。健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を「健康寿命」といいます。日本人の健康寿命は男性71.19歳、女性74.21歳です。平均寿命との差はそれぞれ9.02年と12.40年。

 

この差が拡大すれば、日常生活に支障がある期間が延びるだけでなく、医療費や介護費も増加します。健康寿命を延ばすことは、自身と国の両方の経済的負担を軽減させることにもつながるのです。

 

[図表]健康寿命と平均寿命

出典:厚生労働省「厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会資料」
出典:厚生労働省「厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会資料」

施設での生活が機能回復の機会を奪う場合も

ところが高齢者向けの施設が、健康寿命を延ばすことを阻害することもあるようです。

 

たとえば車椅子の問題です。車椅子を使用するのは、必ずしも入居者が歩けないからというわけではありません。本人に歩く意思があったとしても、介護する側が安全で快適に暮らしてほしいと車椅子に乗せてしまうことも少なからずあります。

 

日本の介護業界は欧米と違って、どうしても「要介護者に楽をしてほしい」という傾向があります。

 

もちろん親切な気持ちからですが、これが機能回復の機会を奪ってしまっているかもしれないのです。

 

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    小山 健

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