英語教育において「子どもだから」という気遣いは不要
幼児向けの英語教育で最も大切なことは、子どもをある一定の時間、英語の生活環境に置くことです。私の英語保育園では、園内でのコミュニケーションはすべて英語、日本人の保育士も英語が話せますから、授業や園内での会話は、すべて英語で展開します。これこそが私のイメージした「日常生活が英語漬け」のスタイルです。
そんななか、私が外国人講師に繰り返し言うのは「子どもだからと容赦しなくていい!」ということです。私たちが日本語でなにかを教えるとき「この言葉はまだ子どもには分からないから、分かりやすい言葉に置き換えよう」と考えたりしますが、外国人講師はそうした気遣いはせず、普段どおりに話してほしいと伝えています。
会話の早さも同様です。特に早口でない限り、いつもどおりのスピードで話をしてもらっています。それが英語圏のノーマルだからです。
子どもであれ、大人であれ、語学を学ぶときに教える側が手加減をしては意味がありません。特に耳が成長段階である子どもは聞いたままを覚えていくので、ネイティブの大人が使う言葉にも、スピードにも対応できます。
自転車と同じ!一度身に付いた「英語力」は一生もの
こうして1日5〜6時間、週5日間、英語漬けの生活を送る子どもたちは徐々に英語慣れした耳が出来上がっていきます。半月も経たないうちに英語が口からついて出るようになり、1ヵ月を過ぎると、自宅でも「ママ、パークに行こう!」というように、英語と日本語の同時使いで話すようになります。
まだ幼い日本人の子どもが英語を話す様子を見ると、「この子は天才だ!」と思う家族もいるようです。そうした両親の感想を聞くたびに微笑ましく感じながらも「落ち着いてください。お子さんは天才かもしれない。でも、周りのお子さんもみんなそうなんですよ。毎日長時間、英語漬けの日々を送っていれば、必ず英語を聞き、話すことができるようになります」と伝えています。日常的に英語を聞くだけで自然と身に付く――語学習得とは非常にシンプルなものです。
また、よくされる質問の一つに「幼児期にせっかく英語を覚えても、小学生以降に英語から離れた生活をすれば、英語を忘れてしまうのではないか?」というものがあります。それについて、私の答えは「ノー」です。
英語保育園を卒園後、いわゆる普通の日本の小学生になった子どもたちでも、幼児期に何百、何千という膨大な時間を過ごし身に付けた英語の記憶は、脳にはっきりと残ります。もちろん、英語漬けの毎日から離れると、一時的に会話力は下がってしまいますが、再び英語に触れる機会が訪れると必ず思い出します。
脳科学研究者の柿木隆介教授によると、記憶の引き出しは脳の「海馬」という部分で処理されており、つつけば刺激によって、記憶が目覚め蘇るのだそうです。
こういった理由からも、ある一定期間、英語漬けの生活を送る経験は、バイリンガルを育てるためには非常に有益です。幼稚園や保育園は義務教育ではないため、長時間、英語に親しむ選択ができる時期でもあります。
留学でもしない限り、これほど英語学習に集中できる時間を、その後の人生で得ることは難しいでしょう。ましてや、語学にとって最も大切な「耳」が出来上がる時期です。英語漬けになるタイミングとして、これ以上の時期はありません。
英語と日本語を教えてどっちつかずにならないのか?
「日本語もおぼつかない幼児期に英語を学んで、日本語も英語も中途半端な子どもになってしまいませんか?」と保護者からよく質問されます。
同じ言語でも、日本語と英語は脳のなかで処理される部分が異なります。言葉を聞いて理解する部分が違うのです。これは他の言葉でも同じ。スペイン語でも、フランス語でも、中国語でも、複数の語学を身に付けようと考えたとき、脳は異なる場所を使って情報を処理します。ですから理論的には、言語がぐしゃぐしゃに、どっちつかずになってしまうことはないのです。
ただし、幼児期は持っている語彙が少ないため、混在してしまう傾向があります。「このミュージック楽しい!」「次のトラベルはどこに行くの?」など、英語を学び始めた3〜4歳までの子どもたちは、日本語と英語を交ぜて話すことが多くなります。これは単純に語彙数の問題です。ミュージックやトラベルを英語で分かっていても、日本語でなんというかが分からない場合にこうした言い方になることが多いようです。
この1点に注視して、「母国語を理解してから外国語を学ぶべきだ」と言う学者がいますが、そうだとしたら多国語を使いこなす欧州の子どもは皆、言語がぐちゃぐちゃで混乱しているでしょうか? そんなことはありません。
幼児期に複数の言語を学んでも、決して言語が無秩序に混ざり合うことはありません。ただし、いくつかの言語を同時に学んでいる子どもたちは、それぞれの言語習得が苦手だということは事実です。バイリンガルの子どもたちは、日本語のみで授業をする通常の幼稚園の子どもに比べると日本語力が劣り、英語だけを学んでいる子どもに比べると英語力が劣ってしまいます。
しかし、そこを我慢して2つ以上の言語を使い続けていると、中学生くらいで逆転するといわれています。幼いときから、日本語と英語それぞれの捉え方ができる子どもたちは「日本語ではこう言うけれど、英語ではどう言うんだろう?」「英語のこの表現は日本語に置き換えるとなにになる?」と疑問を持ち、自ら聞いたり調べたりします。結果、語彙力が広がるのです。
いくつかの論文には「多言語を学んでいる子どもは母国語力も高い」とも記されています。間違いなく、英語ができる子どもは日本語も、日本語ができる子どもは英語もできるのです。
ただし、インターナショナルスクールに入って、どちらかの言語を諦めてしまうと、この方程式は成り立たなくなります。いずれの言語も学び続けることで、中学生になるころに逆転する、と認識してください。
また、2ヵ国語ができる人は、3ヵ国語目を覚えるのも早いといわれますが、これは正しいようです。理由は、言語の音域が脳にインプットされているから。特に5歳くらいまでに、2つ以上の言語を学び始めている場合に言えることです。とりわけ、日本語と英語の音域をカバーできる耳を持っていれば、その中間に入ってくるフランス語もドイツ語も中国語も覚えやすいということが言えます。
その他、各種論文によると、バイリンガルの子どもたちは「学力が高い傾向にある」「IQが高い傾向にある」と発表されています。その理由はいまだ明らかになっていませんが、2つ以上の言語を使いこなす際、脳の複数の箇所が働くことに関係があるのかもしれません。単純に考えて、1つの言語を話している子どもより、脳の多くの部分が長時間働いていることになるからです。
英語の「なまり」を気にする必要はあるか?
英語は国際的な共通語。ゆえに英語を母国語としない国ではネイティブ並みの語学力を備えた人が、講師として英語を教えるケースもあります。私の英語保育園を例に取れば、現在、外国人講師は約300名。国籍は40カ国以上にわたります。
ネイティブではない講師の英語は若干母国語のなまりが入ることもありますが、ネイティブでも出身国によって英語の発音が異なります。担任が毎年変わるので、耳のいい子どもたちは「去年はアメリカ人の先生だったけれど、今年はイギリス人だ。隣のクラスの先生はオーストラリア人だ、カナダ人だ」と気づきます。
子どもたちがそれぞれの発音の違いに気づくのは素晴らしいことです。これに、ネイティブではない先生も加わって、子どもたちが学ぶ英語は色とりどり。世界中のさまざまな国の先生と触れ合うことで、英語のみならず世界各国の文化を学ぶこともできるのです。
以前、保護者にグローバル感覚がさほどなかったころは「キンダーキッズで学べるのはイギリス英語ですか? アメリカ英語ですか?」と聞かれることがありました。私はそのたびに「お母さん、子どものオシメのことをなんと言いますか? 私はオムツと言っています。でも、オシメでもオムツでも紙パンツでも同じものを想像しますよね? 言葉にもそういうところがあるんです。むしろ、さまざまな英語を耳に慣らすのはとても良いことですよ」と伝えていました。
こんなこともありました。ある保護者が「担任は英語圏の白人の先生がいい。黒人やアジア人は困ります」と言うのです。私は「なんということ! 私たちは日本人でアジア人なのに、それをリスペクトするならまだしも、肌の色や国籍で講師を差別するような人は、私が目指すグローバルとは違う。インターナショナルスクールで子どもを学ばせる資格はない!」と大いに憤慨しました。
もちろん、それは心のなかで思っただけで口には出さず、その親御さんの子どもに罪はないと考えて入学していただきましたが、そうした偏見に満ちた価値観は、即刻変えていただかなければいけません。偏見に満ちた親に育てられた子どもの多くは、その価値観を受け継いでしまいます。それでは国際人として通用しません。私たちが教えているのは、英語だけでなく、グローバルな価値観であり、国境を越えてさまざまな人々と認め合うことのできるダイバーシティなのです。
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