生計者亡き後の家庭が対象「遺族年金」…受給条件は?
前回の記事『配偶者亡き後の年金手続き「もらえる権利があるお金」一覧』(関連記事参照)では、身内が亡くなった時の年金手続きを解説しました。本記事では、遺された家族が受け取れる年金について解説します。
■遺族厚生年金
亡くなった方が厚生年金に加入していた期間があり、一定の要件を満たすと遺族厚生年金を受給することができます。遺族共済年金制度と遺族厚生年金制度は2015年10月に一元化され、それ以降は遺族厚生年金として受給することになりました。一定の要件とは下記のうち、いずれかを満たす場合です。
〈遺族厚生年金の受給条件(亡くなった方の要件)〉
(1)亡くなった方が厚生年金の被保険者であった場合。
(2)厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に亡くなった場合。
(3)亡くなった方が1・2級の障害厚生(共済)年金を受け取っていた場合。
(4)亡くなった方の老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上あった場合。
遺族厚生年金の支給対象となるのは、亡くなった方に生計を維持されていた方で、妻(年齢制限なし)、子、55歳以上の夫、父母、孫、祖父母です。
「子、孫」の場合には、18歳到達年度の年度末を経過していない子・孫または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の子・孫が対象です。「55歳以上の夫、父母、祖父母」の場合には、支給開始は60歳からとなります。ただし、夫の場合は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できます。
遺族厚生年金の年金額は、受給資格期間を満たしている場合は、原則として老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3となります。受給資格期間を満たしていない場合には、被保険者期間を300月とみなして計算します。遺族厚生年金は受給者が亡くなるまで受け取れます。
受給手続きに関して、在職中に亡くなった場合は、最後に勤務した会社を管轄する年金事務所、退職後に亡くなった場合は、年金事務所または街角の年金相談センターに、下記の必要書類などを添えて年金請求書を提出します。
〈30歳未満の妻の場合〉
夫が亡くなった時に30歳未満で子がいない妻は、遺族厚生年金は5年間の有期年金になります。また、遺族基礎年金を受給できなくなった(子の養子縁組など)時点で30歳未満だった場合も5年間の有期年金となります。
〈65歳以上の方の場合〉
65歳以上の方は、自分の老齢基礎年金を受給すると同時に遺族厚生年金も受給することができます。自分の老齢厚生年金も受給する権利がある場合は、まず老齢厚生年金を受給し、遺族厚生年金のほうが高い場合はその差額が支給されます。
◆老齢厚生年金と遺族厚生年金を受け取れる場合
妻が65歳から老齢厚生年金と遺族厚生年金を受け取れる場合で、老齢厚生年金が100万円、遺族厚生年金200万円のときは、遺族厚生年金のほうが100万円多いので、図表2のようになります。
亡き夫が厚生年金加入者だった場合、妻が受給するお金
■中高齢寡婦加算
厚生年金を納付していた夫が亡くなり妻が遺族厚生年金を受け取る場合、下記のいずれかに該当すると、40歳から65歳になるまでの間、58万6,300円(2020年度年額)が加算されます。これを中高齢寡婦加算額といいます。
〈中高齢の寡婦加算の要件〉
●夫が亡くなったときに妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている「子」がいない場合(「子」とは18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子どもまたは20歳未満で障害者等級1級または2級の子どものことです)。
●遺族厚生年金と遺族基礎年金を受け取っていた子のある妻(40歳に達した当時、子がいて遺族基礎年金を受け取っていた場合)が、子が成長し遺族基礎年金を受け取ることかできなくなった場合。
■経過的寡婦
加算中高齢寡婦加算は、妻の年齢が65歳になった時点で受給が終了します。代わって妻自身の老齢基礎年金の受給が始まります。
ただ、妻の生年月日によっては老齢基礎年金の受給額が低くなってしまうので、それを補うために経過的寡婦加算が受け取れる場合があります。
経過的寡婦加算の額は、昭和61年4月1日において30歳以上の方が60歳に達するまで国民年金に加入した場合の老齢基礎年金の額に相当する額と合わせ、中高齢寡婦加算の額と同額になるよう決められています。
国民年金の「第3号」の被保険者は、変更手続きが必要
■国民年金の第3号被保険者の手続き
配偶者が亡くなった場合、国民年金の「第3号被保険者」であった妻(または夫)(前回の記事参照)は、第1号被保険者への種別変更の手続が必要です。住所地のある市区町村役場に、年金手帳とともに国民年金被保険者種別変更届書を14日以内に提出します。
第3号被保険者の間は、直接、保険料の納付は必要ありませんでしたが、第1号被保険者は国民年金保険料を自分で納付します。
収入がないなどの理由で保険料の納付が難しい場合は、保険料免除の申請を行うことも可能です(保険料免除制度・納付猶予制度があります)。
配偶者の死後に就職する場合は、70歳未満であれば勤務する会社の厚生年金に加入します。パート・アルバイトで勤務する場合でも、労働時問や労働日数、会社の規模などによっては厚生年金の被保険者となることもあります。
遺族年金なし・ひとり親家庭が対象の「児童扶養手当」
■児童扶養手当の手続き
遺族年金などの対象とならない場合でも児童扶養手当が受け取れる場合があります。
児童扶養手当とは、配偶者が亡くなったり、離婚したりしたことでひとり親家庭となった場合などに、自治体から支給される手当です。受給するにはー定の所得制限があります。遺族年金を受給している場合でも、その額が児童扶養手当の額より低い場合には、差額分の手当を受給することができます。
対象者は、父または母が死亡した18歳到達年度末までの子(障害等級1級・2級に該当する場合は20歳未満)を監護する母や父、または祖父母などの養育者です。
受給者や生計が同じ扶養義務者の所得が一定以上あるときは、手当の全部または一部が支給停止されます。
受給手続きは住所地の市区町村役場に、請求者と対象児童の戸籍謄本、世帯全員の住民票、預金通帳などを添えて認定請求を行い、受給の認定を受けます。また、毎年8月に現況届の提出が必要です。
川端 薫
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会足立荒川支部所属)