「終活」という言葉が広く認知されるようになり、遺言書をはじめとした相続対策をする人が増えてきました。しかし、事務的なことを書くだけで、本当に伝えるべき思いを、遺言書に残さない人も多くいます。そこで本記事では、大坪正典税理士事務所の所長・大坪正典氏の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい 改訂版』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、解説していきます。

相談を受けてから1週間後に、なんと…

いずれにせよ、父親が伝えようとした思いを長男に伝える機会は、文字通り永遠に失われてしまいました。

 

父親は結局、遺言書を残さないまま亡くなってしまったからです。

 

私が相談を受けてから1週間後に、思いも寄らぬ事故に遭い、この世を去ってしまったのです。

 

恐らく、その人の頭の中では長男の顔は、最後に会った40年前と全く変わっていなかったことでしょう。子供の時に映画やテレビで目にした俳優がいつまでも若いままのイメージであり続けるのと同じように、昔の息子の姿を思い描きながら、父親の胸には「今はどんな顔になっているのだろう」「立派になっただろうな」などと様々な思いが去来していたはずです。

 

もしかしたら、何らかの奇跡が起きて息子と和解する、そんな光景さえ想像していたかもしれません。しかし、自らの突然の死によって、和解はおろか、遺言書で息子に思いを伝えることすらできなくなってしまったのです。

 

人間は死の瞬間、それまでの人生が走馬燈のようによみがえってくるといいますが、そのとき、脳裏に浮かんだ息子の顔は、最後に目にしたその若い頃の表情のままだったのでしょうか。

 

その顔を目にしながら、遺言書をつくれなかったこと、思いを伝えられなかったことを、父親はどのように感じていたのでしょうか。せめて、遺言書を残すことができていたら、この父親が死の瞬間に感じていた思いは違っていたのではないかと、私は考えずにはいられません。

 

このような痛ましい事例に限らず、本来、伝えておけば遺族が喜ぶに違いない、心を揺さぶられるに違いないような言葉を、遺言書に残さないままにしてしまう人がいます。しかし、果たして本当にそれでよいのかは、遺言書を作成するときに真剣に考えておく必要があるのではないでしょうか。

 

私の父の友人であり、私が尊敬していた方が、突然の病で倒れました。その方の奥様は本当に甲斐甲斐しく看病されていたのですが、夫のために精魂を傾けすぎたためか、最後には自分まで倒れてしまい、夫と同じ病院に入院してしまいました。

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相続争いは遺言書で防ぎなさい 改訂版

相続争いは遺言書で防ぎなさい 改訂版

大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

最新事例を追加収録! 「長男だからって、あんなに財産を持っていく権利はないはずだ」 「私が親の面倒を見ていたのだから、これだけもらうのは当然よ」……。 相続をきっかけに家族同士が憎しみ合うようになるのを防ぐ…

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