「終活」という言葉が広く認知されるようになり、遺言書をはじめとした相続対策をする人が増えてきました。しかし、事務的なことを書くだけで、本当に伝えるべき思いを、遺言書に残さない人も多くいます。そこで本記事では、大坪正典税理士事務所の所長・大坪正典氏の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい 改訂版』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、解説していきます。

死後まで親を「恨み続ける」子供

弁護士事務所から紹介を受けた相談者に、40年以上、長男と断絶状態にあった方がいました。そのきっかけとなったのは、長男がある女性との結婚の意思を親に伝えたことでした。親としては、別の結婚相手を考えていたので反対したところ、怒った長男は家を飛び出して、揺らぐことなく自らの意思と女性への愛を貫きました。

 

しかし長男と親にとって不幸だったのは、長男が結婚した相手が3年後に病に倒れ亡くなってしまったことでした。長男は、親が結婚に反対したことと愛した女性の早すぎる死を、恨みを抱きながら心の奥底で強く結び付けてしまったのでしょう。以後、親と実家との一切の交渉を絶ってしまったのです。

 

父は何を願っていたのか(※写真はイメージです/PIXTA)
父は何を願っていたのか(※写真はイメージです/PIXTA)

 

結局、父親は長男と和解する機会を得ないまま、亡くなりました。その葬式の席にも長男は姿を現しませんでした。また、その遺産分割をめぐる協議が母親と次男や長女らとの間で行われましたが、そこにも参加しないという意向を長男は示しました。

 

「父親の遺産はいらない。協議がまとまったら必要な書類には機械的にハンコを押す」というメッセージが伝えられてきたので、遺産相続はもめごともなく、すんなりと終わったのですが、このケースで何よりも問題となるのは、いうまでもなく亡くなった親の気持ちでしょう。

 

この方の父親は亡くなる前に、私に遺言書を残すことについて相談していました。その際に「長男とは一度話がしたい。しかし、その機会が持てない……」という心のうちを私に漏らしてもいました。

 

恐らく、遺言書を通じて長男に対して自分の率直な気持ちを伝えたかったのでしょう。それは、「結婚に反対したことを後悔している」という謝罪の思いだったのかもしれませんし、あるいは「自分のことを憎んでいるのなら許してくれなくても構わない。ただ、母親とは和解してもらえないだろうか」というメッセージだったのかもしれません。

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