多くの親に共通する悩みは「子どもが勉強を嫌がること」でしょう。「勉強しなさい!」と頭ごなしに叱りつけ、机に向かわせることもできないわけではありませんが、そのようなやり方では子どもの勉強ギライは加速する一方です。ここでは、自ら意欲的に学ぶ子になる「科学的なコツ」を紹介します。※本連載は、中学受験専門塾「伸学会」の代表・菊池洋匡氏、「伸学会」開発部主任・秦一生氏の共著『「やる気」を科学的に分析してわかった 小学生の子が勉強にハマる方法』(実務教育出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

「子どもの行動計画を勝手に立てる」がNGなワケ

小学校では宿題が出されます。学年が上がるにつれて宿題はどんどん増え、塾に通い出したら、そちらの宿題もしなければいけません。さらにはピアノなどの習い事をすれば、自宅での練習も…。やることがどんどん増えていき、下手したら大人以上の過密スケジュールになりがち。それらの課題をすべてこなそうと思ったら、計画的にテキパキと行動していかなければいけません。

 

しかし、計画的に行動するには、まず良い計画を立てる技術が必要です。1週間でやるべきことを把握しておかなければいけませんし、それぞれにどれくらいの時間がかかるのかもわかっていなければいけません。なかなか、子どもにできることではありません。

 

そうなると、多くの保護者の方々がやることが「代わりに計画を立ててしまう」こと。そして、親が立てた計画通りに、マシーンのように動くことを子どもに求めてしまいます。

 

しかし、そこに大きな落とし穴があるのです。

強制すれば「勉強ギライ」、放置すれば「勉強しない」

人間には、根源的な欲求の1つとして「自律性」があります。人は自らの行動を選び、主体的に行動することを求めるというものです。自律性は私たちが考えている以上に、やる気や楽しさ、幸福感と強く結びついています。

 

この自律性を奪われた形で誰かに強制されるのは、勉強だろうと仕事だろうと面白いわけがありません。だから、よかれと思って親が計画を立て、その通りに行動させようとすれば、子どもは勉強や練習がどんどんつまらなく感じるようになります。そして、勉強ギライ、練習ギライの子ができあがるのです。それでは困りますよね。

 

では、「子どもには、自分でやることを決めさせなきゃ!」と思って、お子さんに自由に行動を選択させると、今度はまた別の問題が起こります。勉強や練習がまだ好きではない子が選ぶものを想像してみてください。テレビ、YouTube、ゲーム、マンガ…おお、頭を抱える親御さんの姿が目に浮かぶようです。

 

そう、子どもが自分から勉強を選ぶのは、もっと勉強が好きになってからの話です。勉強好きになる前に、いきなり自由に決めさせると“遊んでばっかり”という問題が起こるのです。

 

しかし、「勉強しない」という選択肢を選ばせるわけにはいきません。どうすればいいのでしょうか。

 

親が計画して強制すると子どもはつまらなくなる
親が計画して強制すると子どもはつまらなくなる イラスト:吉村堂

「自分で選んだ」という“感覚”が重要

そこで有効なのが、選択したような“感覚”を与えることです。参考になるのが、イェール大学の心理学者ダイアナ・コルドヴァとスタンフォード大学の心理学者マーク・レッパーの行った子どもの選択の感覚に関する実験です。コルドヴァらは、小学校4、5年生72人に、SFをテーマにしたパソコン用の算数学習ゲームを与えました。

 

実験者は、一部の生徒にだけ自分を表すアイコンを4つの中から選ばせ、宇宙船に好きな名前をつけられるようにしました。他の子どもも同じゲームを行いますが、アイコンや宇宙船の名前はコンピューターが自動的に決定しました。

 

その結果、宇宙船の名前やアイコンを選択できた生徒のほうがゲームを楽しみ、休み時間にもプレーを続ける傾向を示しました。それだけでなく、その後の算数のテストでも好成績を修めたそうです。選択対象が学習内容とは無関係でも、選択の“感覚”を与えるだけで自律性の欲求が満たされ、意欲が高まり、大きな成果に結びつくことがあるのです。

 

そのことを知っているので、私たちの塾では子どもたちにできる限り選択の機会を与えるようにしています。例えば、生徒の宿題を決めるときです。1週間の中でカリキュラムは決まっているので、「何をやるか」は私でも大きくは変えられません。

 

そこで、その宿題を「いつやるか」を、一緒に相談して決めさせたりしています。たったそれだけのことですが、子どもたちの自律性の欲求は満たされ、やる気が湧くのです。「いつやるか」を選択させることなら、ご家庭でも取り入れやすいでしょう。

子どものやる気を引き出す「選ばせ方」

「どうやるか」についても、「アレやれ! コレやれ!」という指示をできる限り減らし、子どもに自分で選ぶように仕向ける“演出”をいろいろ考えてみましょう。例えば、私たちは「実験」と称して、解き直しをする場合と解き直しをしない場合の成績を比較したり、途中式を丁寧に書く場合と書かない場合の計算ミス数を比較したりしています。

 

実際にこれらを繰り返した結果、小4の時にはノートに式を全く書かず、答えだけを書いていたK君は、今では途中式をとても丁寧に書く子になりました。勉強時間自体も大きく増えて、小4当時は偏差値40台だったのが今では60台になっています。行動が変われば結果も変わるものなのです。こういった比較実験も、ご家庭で取り入れてみてください。

 

他にも、勉強道具を選ぶことで意欲を引き出すこともできます。例えば、文房具が好きな子は科目ごとにペンの種類や色にこだわりがあったりします。それも、アイコンや宇宙船の名前を選ぶのと同じで、自律性の欲求を満たして意欲に繋がるでしょう。大人がジョギング用のシューズを買ったことで、やる気が湧くのと同じですね。これは学習に意欲を感じていない子への働きかけとして、活用できるでしょう。

 

「何をやるか」「いつやるか」「どれくらいやるか」「どうやってやるか」、お子さんに選ばせられるものはできる限り選ばせましょう。また、そういった学習の本質部分以外でも、道具を選ばせるなどさせましょう。そうすれば、子どもの意欲をうまく引き出せるのです。本人に無理やり「YES」と言わせるのは選択させたことにはならないので、その点にはくれぐれもご注意を。

 

できる限り子どもに「何を・いつ・どれくらいやるか」を選ばせる
できる限り子どもに「何を・いつ・どれくらいやるか」を選ばせる イラスト:吉村堂

 

【まとめ】

「何を」「いつ」「どれくらい」「どうやって」勉強するか、できる限り子どもに選ばせる。勉強道具なども選ばせると、学習意欲につながる。

 

 

菊池 洋匡
中学受験専門塾「伸学会」 代表

 

秦 一生
中学受験専門塾「伸学会」 開発部主任

「やる気」を科学的に分析してわかった 小学生の子が勉強にハマる方法

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