金融機関や不動産業者、保険会社などにとって、「資産家の相続案件」は明確なビジネスチャンスです。迷いや悩みに付け込み、高額な手数料の保険や投資信託を購入させる例は枚挙にいとまがありません。資産を喪わないためにはどんな点に注意すべきなのでしょうか。※本連載は、税理士法人エクラコンサルティング/株式会社エクラコンサルティング代表社員の田中誠税理士の著書『お金持ちのための最強の相続 改訂新版』(実務教育出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

9割の税理士は「相続税の素人」という事実

相続できちんと財産を残すために、相続専門税理士に依頼する必要があるのには、二つの理由があります。

 

一つは、税理士にも得意分野、不得意分野があるということです。

 

通常、会社や個人と契約している顧問税理士は、主に法人税と消費税、それと所得税を中心に担当しています。会社や個人に代わって中間申告書や期末ごとの決算書や確定申告書を作成したり、年末調整を行ったりします。長年、企業の顧問税理士をしてきたベテラン税理士にとっては、法人税や所得税の計算やアドバイスは得意分野です。ただし、これまで見てきたように、相続税の分野になると話は変わってきます。

 

相続税に関わる業務では、相続財産の評価に始まり、遺産分割についての話し合いでアドバイスしたりして最終的に資産の有効活用を見すえ、相続税の申告書を作成します。相続税は税務調査が多いことで知られていますが、その立会いも行います。ですから、不動産取引に関する知識だけでなく、民法、会社法など相続税以外の法律にも精通していないと対応できません。だからこそ、得意な(専門の)税理士に任せるのと、不得意な(専門外の)税理士に任せるのでは、雲泥の差が出てしまうのです。

 

もう一つは、相続の実務経験の少ない税理士が多いということです。

 

現在の税理士試験の必須科目は、所得税法と法人税法。相続税法は実は選択科目なのです。そのため、相続税法をしっかり学んでいないという税理士はいまだに多くいます。

 

そうした傾向に拍車をかけているのが、相続税の年間申告件数の少なさです。しかも、申告件数は少なくても、事例によって毎回申告のしかたが異なるケースが多いので、場数を踏んで経験を積んでいくことしか、専門家になる道がないという状況もあります。専門学校では、試験のために資産評価の方法は教えるものの、相続争いを解決し、さらに節税までアドバイスする方法までは教えられません。

 

世の中の税理士の多くは法人税や所得税をメインに扱っているため、仕事が忙しい税理士ほど日常の会計業務で手いっぱい。決算期などの繁忙期になれば、とても相続税の申告に捻出できる時間はありません。必然的に場当たり的な対処法になってしまい、相続人が満足できる申告業務になっていないケースが散見されるのです。ですから、まずは相続専門税理士に出会うことからスタートしてほしいのです。

不動産評価に詳しい税理士が少ないワケ

相続税の相談では、必ずと言っていいほど不動産に関する知識が必要になります。

 

その一番の理由として、相続財産のほとんどが不動産で占められているという事実があります。特に地価の高い大都市圏では、財産の9割以上が不動産であることも珍しくありません。それにもかかわらず、不動産評価の方法に熟知している税理士が圧倒的に少ないのです。ベテランの税理士になればなるほど、自分の守備範囲である法人税のプロになってしまい、不動産の知識は最低限の知識でいいと考えてしまう傾向があります。

 

最近は相続税が注目されていることもあり、不動産の知識を増やそうとセミナーなどで勉強している税理士を見かけます。確かに税理士業界全体のレベルを向上させるためには、そうしたセミナーも必要です。

 

しかしながら、不動産の実務をセミナーや独学で学んだだけでは、実際の相談の役に立ちません。私もかけ出しの頃は、教科書通りのやり方で不動産を評価していました。しかし、その不動産の時価を見ると、思いもよらない価格がついていたりするのです。

 

1億円の評価額を出したのに市場では7000万円でしか売れなかったり、逆に5000万円の評価をしたものに1億円に近い金額がついたり…。

 

しかし、リアルな不動産取引を何度も経験していくうちに、不動産の勘というものが身についてきて、登記簿を見ただけで物件の概算評価額が割り出せたり、現地に行っただけで大体の市場相場がわかるようになりました。

 

現地に行けば、前面道路が狭い(道路幅が4m以上ないと資産価値が下がる)ことや、斜面がある(不整形地などでは資産価値が下がる)など、不動産評価を下げるポイントが目につきます。そういった経験に基づいた知識があれば、役所で書類を調べる時にもあらかじめ要点を絞った調査ができるというものです。

 

そうした資産に関する知識を土台として、相続人に会えば節税につながるアイデアをいろいろと出すことができます。

 

相続人の将来のためのプランや、節税のためのプランなどありとあらゆるアイデアが瞬時に浮かんでくるのです。相続税の申告は、相続発生後から10ヵ月以内と決められています。節税のための特例を活用するためには、申告の時に合わせて申請が必要です。ですから、スピーディにアイデアを実行に移す必要があるのです。

追徴税額300億円超…キーエンス創業一家に起きた悲劇

自動制御機器メーカー大手、キーエンス。2016年9月、創業一家の長男が大阪国税局の税務調査を受け、贈与された資産管理会社の株式をめぐり1500億円を超える申告漏れを指摘されました。

 

今回、税務調査の対象となった資産管理会社は、キーエンスの発行済株式の17%超(約7800億円相当)を保有する創業者である滝崎家の資産管理会社ティ・ティ社の株を現物出資して新たに創設し、その株式を長男に贈与しました。

 

事業承継の場合、非上場株の評価額は、業種や事業内容が類似する上場企業の株価などをもとに算定するように、国税局から通達があります。長男は、通達に沿って新会社株を評価。そこで贈与を受けました。

 

ところが、新しく創設した資産管理会社がティ・ティ社を通じ、大量のキーエンス株を間接保有しているということから、国税局は評価が過少だと待ったをかけたのです。結局、追徴税額は過少申告加算税を含めて300億円超になったそうです。

 

私はこの件を知って、取引相場のない株式の法人税相当額を控除して、資産を圧縮させる節税対策をとったのだろうと思いました。「取引相場のない株式を純資産価額で評価する場合、簿価よりも評価額の方が大きい時は、その評価差額から法人税等相当額を控除することができる」という通達があります。この適用を子会社であるティ・ティ社の株価算定だけでなく新会社株式の評価でもしてしまったのでしょうか。しかし、国税局はそれを認めませんでした。

 

 

税理士法人エクラコンサルティング/株式会社エクラコンサルティング 代表社員

税理士

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