日本の「木造住宅」が急速に腐りはじめている!? 原因は「健康住宅」をうたった、中途半端な断熱や気密の家が増えたことにあった……。 *本記事は、杉山義博氏の著作『“健康住宅”のウソ・ホント』(幻冬舎MC)から抜粋、再編集したものです。

木造住宅が「内部結露」で腐っていく…なぜ?

日本人が昔から親しんできた木の家。本来、木材はコンクリートや鉄よりも強度があり、耐久性に優れているといわれてきました。

 

しかし一方で、「高気密・高断熱住宅の木造住宅は腐りやすい」と主張する人もいます。これは正しくは、「高気密・高断熱住宅をうたっていながら、中途半端な断熱や気密の家は木材が腐りやすい」ということです。この原因は「結露」にあります。

 

家の中と外で温度差、湿度差が大きい住まいでは、室内で発生した水蒸気が壁の中に入り込み、壁や断熱材などの内側に結露ができる「内部結露」が発生しやすくなります。

 

窓の結露は水滴がつくため目で見えますが、内部結露は壁や木材に吸収されてしまうため見ることができず、すぐには分からないのでとても怖いものです。

 

そして木を腐らせる「腐朽菌」が繁殖し、住宅の主要構造部である柱や床、土台などの木材を腐らせ、家の寿命を著しく縮めてしまうのです。

 

柱や土台が腐ってしまったら、さらに大規模な改修をしなければいけなくなり、住宅ローンに加えて多額の費用がかかってしまうのが恐ろしいところです。

 

「内部結露」で「腐朽菌」が発生し……? (写真はイメージです/PIXTA)

 

また、日本の家の床下は、湿度が高くて通気性も悪く、木材が非常に腐りやすい環境にあり、ダニやシロアリが発生しやすい環境でした。

 

シロアリは木材をエサとする生物で、セルロースを分解する、人にとって有益な生物ですが、家に侵入すると土台や柱などの木材や断熱材を食べ散らかす恐ろしい存在です。暖かく、ジメジメしたところに生息するので、高気密・高断熱住宅は格好のシロアリの居場所になります。特に風通しの悪い床下や結露した場所に発生しやすく、一度住み着くと急激に増え、木材を食べつくしてしまいます。

 

シロアリが活動のピークを迎えるのは春(4月下旬〜6月)。羽アリの発生でその生息に気がつくのです。しかし高気密・高断熱住宅においては、暖かくてエサも豊富なので、一年中活動を続けているともいわれており、自然には生息できないはずの寒冷地(北海道など)でも確認されています。

 

短期間に数十匹〜数匹単位で発生するため、タイミングを逃してしまうとシロアリ被害に気づくことができず、知らないうちに被害が進行してしまうことも少なくありません。最も羽アリが発生しやすい日は、よく晴れていて蒸し暑く、あまり風の吹いていない日です。

 

シロアリの発生を防ぐための一般的な対策は、薬剤処理ですが、この方法では薬剤処理をした時を最大として、効果は年々減少し、処理後年以降の薬剤効果はほぼ認められなくなってしまいます。そのため、シロアリ対策として5年ごとに薬剤処理をする必要があるのですが、一度処理をすればもう必要ないと勘違いしてしまったり、うっかり忘れてしまい、シロアリ被害を拡大させてしまうことも多くあります。

 

また、薬剤に含まれる化学物質が、住んでいる人に健康被害をもたらすことと生態系への影響が懸念されています。この薬剤による人への薬害がシックハウスのはしりといわれており、生態系への影響としては特に蜜蜂の減少が問題になっています。

耐震性と耐久性を兼ね備えた「本当の木の家」は最強

地震大国の日本では、家の耐震性についてはよく話題になります。

 

しかし、耐久性についてはあまり気にとめられていないのが現状です。

 

2009年、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」ができました。長期優良住宅とは、長期にわたり良好な状態で使用するために「長期に使用するための構造および設備を有している」「居住環境等への配慮を行っている」「一定面積以上の住戸面積を有している」「維持保全の期間、方法を定めている」といった措置が講じられている住宅のことをいいます。長期優良住宅を建てると、住宅ローン控除など税制上のさまざまなメリットがあります。

 

この長期優良住宅には、「大規模地震力に対する変形を一定以下に抑制する措置」という耐震性の評価はあるものの、耐久性の評価はありません。かろうじて「劣化対策」の評価がありますが、木造については「床下点検口の設置」「床下点検を行うのに十分な高さを確保すること」とされているにすぎず、本当の意味での耐久性とは異なります。

 

それなのに、工務店やハウスメーカーが「うちは長期優良住宅ですよ」という宣伝文句で、裏づけもないのに耐久性もしっかりしているように見せかけている現状に、私は首をかしげざるを得ません。

 

耐震性と耐久性は全く別なものと捉え、両方を兼ね備えている住まいが本当の意味で安全・安心な住まいといえるのだと思っています。だからこそ、耐震性を考え、柱などの木材(軀体)にも優しいオール外断熱+換気空調の組み合わせが最良の選択ではないかと思います。

 

よく「地元の木材で家を建てたほうがいい」といわれますが、これは正論です。全国の神社や仏閣が1000年以上も当たり前に残っているように、その土地の木材が最も適しているからです。地元で育った木は、家の材料になっても同じ気候の中で長きにわたり生き続けることができるといわれています。

 

それに加えてオール外断熱の家は、基礎から屋根までが断熱材で覆われているため、柱などの木材をはじめ、設備配線や配管が外部環境の急激な温度変化や湿気にさらされず、さらに、紫外線からも保護されているので家の長寿命化を維持できるのです。

柱と壁の直下率は耐震性能に大きく影響する

これまで述べてきたとおり、地元の木材を使った木の家を建てることには、一定のメリットがあります。ただし、当然ですが、木の家であればどんな家でも良いというわけではありません。いくら丈夫な木材を使用して、耐震基準を満たしていたとしても、構造上のバランスが悪ければ、地震に弱い建物となってしまいます。

 

実際に、2016年4月に発生した最大震度7の熊本地震では、耐震基準を満たしているにもかかわらず、地震によって7棟の木造住宅が倒壊、棟が大破する事態となりました。たしかに大きな地震ではありましたが、国の基準をクリアした住宅がこれだけ倒壊することで、大きな話題を呼びました。

 

そこで問題となったのが「直下率」です。直下率とは簡単にいうと2階建ての住宅における1階と2階の柱や壁が同じ位置にある割合のことをいいます。具体的には、「2階の柱のうち、その真下に1階の柱がある割合」のことを柱直下率といい、「2階間仕切りのうち、その真下に1階間仕切りがある割合(建具も間仕切り線とみなす)」のことを壁直下率といいます。極端な話、1階と2階の間取りがまったく同じであれば、柱直下率、壁直下率はともに100%となります。

 

家の強度を考えた際、1階と2階の柱や壁の位置がバラバラの家より、同じ家の方が丈夫だといえます。しかし、熊本地震が発生した時点で、国が定める耐震基準には直下率の割合は含まれていませんでした。そして、この点が大きな問題となったのです。

 

一般的に、理想的な家の直下率は、柱直下率が50%以上、壁直下率が60%以上といわれています。実際にはこれを下回る住宅も建てられています。

 

なぜこのような住宅が建てられるようになったかというと、理由はさまざまありますが、一つにはデザインを重視した家を建てたいと願う施主に対して、施工業者や設計士などが構造的な検討を十分に行わないまま進めてしまっていることが挙げられます。たしかに、施主にとっては、一生ものの家づくりなので、「普通じゃつまらない」「個性を出したい」という想いを家のデザインに反映したい気持ちは良く分かります。しかし、そこに対して家づくりのプロたちがしっかりと「できること」「できないこと」を説明しなければなりません。

 

家づくりのプロであるはずの人たちが、「形式上、基準をクリアしていればいい」という考え方をしているため、このような事態を招いてしまうのです。私の会社を含め、大多数の施工業者や設計士はきちんと直下率に考慮した提案をしていると思いますが、依頼の際にはこのような点にも十分注意したほうが良いでしょう。

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