ヘアスタイリストが選択できる「3つの働き方」
ひと昔前は、美容学校を出たあと、サロンに正社員として就職し、その後、別のサロンに転職するか、独立して店を持つ、という働き方しかありませんでした。
しかし、近年はフリーランスとして働く美容師も増えています。
フリーランスですと、美容室の空いているスペースを借りて仕事をする「面貸し」や、「業務委託」という形を取ることが多いでしょう。どちらも人間関係のしがらみが少なく、独立資金がなくても、独立感覚で働くことができます。
このほか、アシスタントを雇わず、お客様にマンツーマンで接する、一人オーナーサロンというスタイルもあります。結婚や出産、子育てなどで現場を離れた女性が、パートタイムで復帰するというケースも増えています。
今回は、「雇用型サロン」での働き方について詳しく見ていきましょう。
王道中の王道「雇用型サロン」で、技術を学ぶ働き方
美容専門学校を卒業したあと、ほとんどの人は美容室に正社員として就職して、アシスタントとなります。こうした雇用型サロンでアシスタントとして技術を学び、ヘアスタイリストを目指すことになります。
アシスタント時代は給与が低く(参照記事:10年以内に92%が離職…年収300万、美容業界の残酷な現実)、かつ固定給です。
一方、ヘアスタイリストになってからは、給料は固定給+歩合制となり、歩合次第で大きく変動します。固定給は少なめに設定しているサロンも多く、歩合に左右されると、正社員だからといって、安定した給料が保証されるわけではありません。
20万円+歩合10%の場合の月給
月間売上げが100万円→20万円(固定)+10万円(歩合)=月給30万円
歩合に反映されるのは「指名料」と「売上げ」
歩合に反映される一つは指名料です。サロンの予約をするとき、美容師に指名料がかかることがありますが、指名料の10~30%を歩合に還元することが多いです。美容師のランクによって還元率が上がることもあり、なかには100%還元というサロンもあります。
歩合に反映されるもう一つは売上げです。担当したお客様の売上げの10~30%が歩合に還元されます。サロンによっては、一定のノルマがあり、ノルマを超えたときに歩合が発生するということもあります。
売上げを伸ばすには、指名してもらうこと、高い単価のメニューを利用してもらうことが必要になってきます。また、ヘアケア商品など店内の物品を売った分が歩合に反映されるサロンもあります(【比較を見る】美容師が選択できる「3つの働き方」)。
ボーナスですが、厚生労働省のデータによると、理容・美容師の「年間賞与その他特別給料額」は7万1000円で、ほかの職業に比べると低いことが分かります。サロンの売上げが良い年は賞与も高く、売上げが低い年は賞与も低くなります。店長やマネージャーなどの役職がつくと、役職手当がつきます。サロンの店長クラスの年収は400~600万円くらいが一般的です。
「社会保険が完備されていないサロン」には要注意
美容師の業界では、正社員として入社しても、社会保険が完備されていないサロンもあるので注意が必要です(【比較を見る】美容師が選択できる「3つの働き方」)。理由は、離職率が高いので保険料を負担したくない、法人化されていない個人経営サロンで社会保険への加入が義務化されていない、社員の社会保険料を負担する余裕がない、などです。
業界全体で社会保険の加入率が低いので、入社のときにはチェックが必要です。会社が「健康保険」と「厚生年金保険」に加入していれば、従業員の支払い金額の半分を負担してくれますが、加入していない場合は、「国民健康保険」と「国民年金保険」を自分で払うことになります。特にアシスタントの低い給料のなかから支払うとなると負担が大きいでしょう。
東京、大阪の個人経営のサロンで働いている人の健康保険として、東京美容国民健康保険組合、東京理容国民健康保険組合と大阪府整容国民健康保険組合があります。これらの組合には個人で加入できます。国民健康保険の保険料が前年度の所得に応じて変動するのに対し、これらは保険料が一律ですし、国民健康保険よりもサービスも手厚いのが特徴です。
(【比較を見る】美容師が選択できる「3つの働き方」)では、雇用型サロンのメリット・デメリットや、雇用型サロンで働くヘアスタイリストの、1日のスケジュールについて確認することができます。
田中 房五郎
コムズグループ 代表
※本連載では、名古屋を中心に100店舗以上のヘアサロンを展開している、コムズグループ代表の田中房五郎氏の著書『THE CAREER BOOK OF HAIRSTYLIST ヘアスタイリストのキャリアブック』から一部を抜粋し、解説します。