「トップスタイリスト」に憧れ、美容学校を卒業した若手美容師を待ち受けているのは、低い年収と長時間労働により、家庭を持つこともままならない現実です。そのため、理想とのギャップに苦しんで、美容師を辞めてしまう人があとを絶ちません。本連載では、名古屋を中心に100店舗以上のヘアサロンを展開する、コムズグループ代表の田中房五郎氏の著書『THE CAREER BOOK OF HAIRSTYLIST ヘアスタイリストのキャリアブック』から一部を抜粋し、解説します。

なぜ美容師として成功するのが難しいのか

「美容師になりたい!」と美容専門学校へ入学し、美容師免許を取得する人は、毎年2万人ほどいます。美容師になりたい理由は、「おしゃれでかっこいい仕事だから」「クリエイティブな力が発揮できるから」「人を喜ばせたい」「トップヘアスタイリストに憧れて」などさまざまで、誰もが夢を持って美容師を目指します。

 

技術を身に付け、お客様から指名されるようになり、自分の店を持つまでになる。そして店が繁盛すれば、美容師として成功していると言えるでしょう。

 

しかし、誰もがキラキラ輝く美容師になれるわけではありません。

 

誰もが夢を持って「美容師」を志すが…
誰もが夢を持って「美容師」を志すが…

 

多くの美容師は低い年収と長時間労働に耐え続けています。そのため、多くの美容師が夢を捨て辞めてしまうのです。なぜ美容師として成功するのが難しいのか。まずは業界特有のシステムと合わせて、美容師の“リアル”を覗いてみましょう。

なぜ、若手美容師の離職率が高いのか

【この記事の画像を見る】から分かるように、厚生労働省のデータによると、美容師の離職率は1年で50%、3年で80%、10年で92%です。高い離職率の原因として、①給料が安い、②長時間労働、③休日が少ない、④人間関係のストレス、⑤キャリアアップに時間がかかる、といった美容業界の問題点が挙げられます。

 

美容師の世界は、アシスタントとして平均3年は修業するのが決まりで、長い間、古い感覚が変わらない厳しい労働環境のままでした。最近でこそ、政府によって働き方改革が推奨され、美容師の仕事でも長時間労働は禁止されるようになりましたが、昔からの業界のやり方がすぐに変わるわけではありません。

 

美容師として優れた技術を持っていても、若いうちからしっかりとしたキャリアプランを描いていないと、40歳になって「やばい!将来が見えない」ということになりかねないのが美容師の仕事です。人生100年時代のなかで、皆さんが美容師としてどう生きるのか、人生をどう充実させるのか考えることが大切なのです。

アシスタント時代の給料は「手取り12万円」

美容師になるための一般的なコースは、高校卒業後、美容専門学校で2年間学び、20歳で美容室に就職するというパターンです。昔はインターン制度がありましたが、今はなくなり、美容師免許を取得した状態で入社することになります。今の時代は、長い修業期間を嫌がる人が多いため、3年ほどでアシスタントを卒業し、ヘアスタイリストデビューを目指します。

 

アシスタント時代の給料は、15〜18万円程度です。ここから、社会保険料などが引かれると手取りは12万円くらいになることも……。都会ではこの給料で暮らしていくのは大変で、アルバイトをする時間もないため、自宅から通えない人は、寮のあるサロンを選ぶことも多いです。この低収入に耐えられず辞めてしまう人もおり、「美容学校時代にやっていたアルバイトのほうが高収入だった」という話も聞きます。

 

しかし、アシスタントからヘアスタイリストに昇格すれば給料は上がります。売上げに対してのインセンティブがつくことが多いからです。それでも、【この記事の画像を見る】の通り、30歳での給料は25〜28万円程度が平均です。

 

このような数字から、美容師の年収は300万円と言われ、世間一般の30歳の平均年収である356万円に比べると、決して高いとは言えません。有名サロンでアシスタントを使っているヘアスタイリストの場合でも、40〜50万円もらえると良いほうでしょう。

 

有名サロンは立地が良いため、家賃が高く、役職給がついても給料がどんどん上がるということにはならないという面もあります。「年収300万円では結婚して家庭を持つのは難しい」と、結婚を諦める美容師も少なくありません。特に、家賃など生活費が高い都会では、年収300万円では生活するだけで精一杯で、貯金をするのも難しく、将来への不安も大きくなるでしょう。

長時間労働、休みなしの過酷なアシスタント時代

アシスタント時代は、21時に仕事が終わったあと、2時間ほどの勉強会を行うというのも一般的です。美容業界では残業手当の支給がない会社も多く、もちろんお給料には反映されません。ただし、現在は働き方改革のため、営業時間内で勉強会を行うサロンも増えています。営業時間外の勉強会を「労働基準法違反だ」と美容師が会社を訴えるケースも出てきました。

 

アシスタントは、営業が終わったあとに、先輩のためにカットモデル探しをすることも多いです。自分のためのモデルハントの場合もあります。営業が終わってから終電までの2時間の間に、自分がハントしたお客様を連れてきて、カットの練習をさせてもらう人もいるでしょう。休日に町に出て連絡先を伝えて、サロンに来てもらえるようお願いすることもあります。

 

【この記事の画像を見る】から読み取れますが、アシスタント時代は過酷で、プライベートな時間はほとんど取れないと思ったほうがよいでしょう。

美容師が持つ「人間関係の大きな悩み」とは?

人間関係のストレスも離職の大きな原因となります。お客様、美容師間、店長、社長との関係のなかでストレスに悩み、辞めてしまうのです。特に美容師は、業界だけの知り合いしかいないという人が多いです。

 

サロンの休日が土日ではなかったり、休みの日に技術を学びに行ったりしているため、美容師以外の人との関わりが少なくなるのです。狭い世界で気持ちの切り替えも難しくなり、疲れ果ててしまうのかもしれません。

 

アシスタント時代は美容業界特有の厳しい上下関係に苦労する人も少なくありません。また、ヘアスタイリストになると、同僚との売上げ争いなどで関係がぎくしゃくしてしまう、後輩を指導してもやる気を起こしてくれない……といった悩みもあるでしょう。

 

接客では、クレームはもちろん、年輩のお客様とのジェネレーションギャップもストレスになります。若い美容師には、言葉遣いや服装がお客様にフィットせず、指名になかなかつながらないという苦労もあるでしょう。

 

実際にどんな悩みがあるか、【この記事の画像を見る】から見ることができます。

いつまでたってもヘアスタイリストになれない!

現在、アシスタント期間は3年ほどのサロンが多いですが、先輩ヘアスタイリストの売上げが低かったり、サロンに集客力がないと、ヘアスタイリストデビューをしても、先輩が新規客を担当するため、なかなか入客(お客様を担当)させてもらえないといったことが起こります(【この記事の画像を見る】)。

 

また、アシスタントがすぐに辞めてしまうサロンでは、後輩が入ってこないため、自分がデビューしても、アシスタント業務から抜け出せないケースもあるでしょう。

 

東京の有名サロンですと5~6年はアシスタント、スーパーアシスタント(アシスタント不足のサロンで、技術があってもアシスタントをしなければいけない立場の人)なら7年ほどというケースもあります。また、単価の安いサロンでは、短い教育期間で早くヘアスタイリストデビューをさせ、技術はまだまだ伴っていないのに、とにかく数をこなさせるというところもあります。

 

このように、サロンの状況によって、アシスタントを完全に卒業できる期間は異なります。ですから、理想的なのは技術を磨くことができ、キャリアプランを考えてくれるサロンを選ぶことが大切です。

 

 

田中 房五郎

コムズグループ 代表

THE CAREER BOOK OF HAIRSTYLIST ヘアスタイリストのキャリアブック

THE CAREER BOOK OF HAIRSTYLIST ヘアスタイリストのキャリアブック

田中 房五郎

幻冬舎メディアコンサルティング

プライベートを充実させながら、もっと稼ぎたい!週休2日、残業ゼロで年収1,000万超え!古い常識を打ち破り、業界に革命を起こした凄腕経営者が伝授する、ヘアスタイリストの稼ぎ方。

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