なぜ、業務委託サロンが増えているのか
今、同じフリーランスでも、面貸しではなく、「業務委託サロン」で働くというスタイルが増えています。美容師が契約したサロンで、完全歩合制で働く仕組みのことです。
店舗の運営・集客はサロンが行い、美容師は業務を委託される形でお客様の施術を行います。サロンは正社員として雇用する必要がないため、人件費や社会保険料などのコストを抑えられます。美容師側は、完全歩合制なので、実力次第で高収入が望め、高いモチベーションで仕事をすることができます。自分で集客する必要もありません。アシスタントは使わないので、お客様からしてもマンツーマンで接客してもらえるという満足感があります。
美容師業界では、1年で約1万人の美容師が辞めています。そのため人材不足で、人が集まらない、育たない、辞めていくという負のスパイラルに陥っています。独立する人も多いですが、技術の勉強はしても経営者としての勉強をしておらず、見切り発車でオープンし、閉店していくというサロンが多いのです。1年以内に60%、3年以内に90%のサロンが閉店するという現状です。こうしたなか、雇用型よりも業務委託型のほうが、やる気のある良い人材が集まりやすく、美容師も高収入で働けることが分かってきました。
また、世の中の流れも雇用型サロンへの不満が増える一因になっています。働き方改革でワークライフバランスが浸透し、美容師業界の長時間労働がブラックと言われるようになりました。
さらにSNSが影響力を持つ時代となり、個人がインスタグラム、ブログ、ツイッター、フェイスブックで発信することが集客につながります。今はサロンブランディングから個人ブランディングの時代へと移行したのです。
業務委託サロンのメリットについては、(この記事の画像を見る)から確認することができます。
自分の頑張り次第では「年収1000万円」も可能に
「業務委託サロン」の特徴として大きいのは、売上げに応じた歩合(平均40〜50%)のため、頑張れば年収1000万円以上を稼げる人も出てくるという点です。「雇用型サロン」だと、固定給+歩合で、いくら頑張っても給料が一定以上は上がらない……となってしまい、「もっと頑張って稼ごう」という気持ちを失いがちです。
しかし、「業務委託サロン」は、本人の達成率が収入に反映されるため、「どうしたらもっと指名が増えるだろうか」と真剣に考えるようになるのです。同じフリーランスでも「面貸し」との違いですが、「面貸し」の場合、新規やフリーの入客がなく、集客はすべて自分で行わなければいけません。高い実力と人気があり、自分を指名するお客様が多くないと続けていくことは難しいでしょう。
一方、「業務委託サロン」は、サロン側が集客を行います。指名はもちろん、新規やフリーのお客様の入客があり、自分のお客様をサロンで増やしていくことができます。また、「面貸し」では、お客様への料金設定は自分で行いますが、「業務委託サロン」では、サロン側で設定された料金で施術を行うのも異なる点です(比較画像を見る)。
「業務委託サロン」はどうやって生まれたのか
私はまだ業務委託サロンが一般的ではなかった15年前から、雇用のスタイルをシフトチェンジし、名古屋の美容室のなかで最も早く業務委託サロンをスタートさせました。それがフランチャイズ店「コムズグループ」創立の始まりです。
もともとは、雇用型のサロンを経営しておりましたが、オープンして1年後に問題が起こったのが、業務委託に移行するきっかけでした。
そのサロンの店長は真面目で、社長の思いを達成するための努力を惜しまず、頑張っていました。しかし、ヘアスタイリストたちは明確な目標を持たず、ただラクをしてその日の仕事をこなし、給料がもらえればいいという働き方でした。店長が注意しても、改善できず、サロンの空気はとてもひどいものになっていったのです。
その結果、店長も「辞めたい」と言い出してしまい、私は「人一倍頑張っている店長がそう言うサロンに未来はない」と痛感しました。そこで、翌日ヘアスタイリストたち全員に辞めてもらい、閉店。一からサロンづくりを考え直しました。そのときに、どういった美容師を集めたいのかを考え抜いた結果、「美意識が高く、働く意欲のあるヘアスタイリストを集めたい」という思いだけが残りました。
理想の美容師を集めるために、通常月給が23万円程度のところを、業務委託という形態に変え、最低でも30万円の報酬にすると決めたのがスタートでした。
当時、業務委託サロンはほとんどなかったので、私もヘアスタイリストたちも戸惑いと不安がありました。しかし、頑張り次第で豊かさが手に入り、将来も見えてくる働き方があれば、絶対ヘアスタイリストは辞めない。そして大勢のヘアスタイリストが集まってくるはずだと確信していました。その確信は当たり、集まったヘアスタイリストは皆優秀で、今は全員がフランチャイズのオーナーとして活躍中です。業務委託者の中からオーナーになるケースも普通にあるということです。
現在、私のサロンはすべて業務委託サロンですが、発足15年で全国に111店舗、ヘアスタイリスト700人、年商70億円にまで成長することができました。ヘアスタイリストの年収も1000万円を超える人が多数現れ、なかには1500万円に手が届くヘアスタイリストも在籍しています。
薄給美容師が「月収40万アップ」に成功したワケ
コムズグループは、直営が8店舗あるのですが、最高年収は1424万円、平均年収は
780万円です。ある男性ヘアスタイリストの例を紹介しましょう。
30歳でお子さんがまだ小さいヘアスタイリストは、以前は給料が少ないため朝はアルバイトし、その後サロンで働き、サロンの休みの日は業務委託で働くという、トリプルワークをしていました。それでも月に30万円ほどにしかならなかったそうですが、私のサロンで働くようになって月に70万円ほど稼げるようになっています。
フランチャイズのオーナーですと、40歳で6店舗経営、年商5億円という人もいます。彼は私の店に2年ほど在籍して、すぐに独立しました。技術も接客もすばらしく、努力を惜しまない人物なので、成功したのでしょう。今から12年前の当初私たちのサロンは、インターネットやSNS等での集客に弱かったのですが、彼はフル活用することで半年にして集客率1位となりました。そこから周りのヘアスタイリストもインターネットやSNS等での集客方法を学び始めたのです。
そして全体的に店の売り上げが上がり始めました。彼は現在、コムズグループが昨年設立した「COMSビジネスアカデミー」のテクニカル部門の校長でもあります(コムズグループの年収分布を見る)。
田中 房五郎
コムズグループ 代表
※本連載では、名古屋を中心に100店舗以上のヘアサロンを展開している、コムズグループ代表の田中房五郎氏の著書『THE CAREER BOOK OF HAIRSTYLIST ヘアスタイリストのキャリアブック』から一部を抜粋し、解説します。