今回は、税務調査の誘発リスクを考慮し、相続税の還付請求を見送った例をご紹介します。 ※本連載は、相続税の専門家として「相続税還付」に力を入れている佐藤和基氏の新刊で、2015年12月に刊行された『不動産の知識があれば相続税は取り戻せます!』(住宅新報社)の中から一部を抜粋し、納め過ぎた相続税を取り戻すノウハウなどをご紹介します。

還付請求によって税務調査を誘発する可能性も・・・

今回は、相続還付の失敗事例について見ていきます。

 

知人の紹介の紹介のさらに紹介でつながった地方の方のケースです。関係性もかなり離れていますが、物理的な距離も遠方であるため、まずは相続税申告書一式を郵送で送ってもらいました。当初申告で1億円を超える納税をされており、不動産の数も多いことから可能性はありそうだと思いながら着手しました。

 

しかし、実際に見直しをしてみると減額要素が少なく、わずかな不整形地補正や間口案分の失念など細かい減額要素しか見つかりません。不動産での評価減が少ししか見込めないため、他の財産についても検討しました。そこで見つけた減額要素は投資信託の評価でした。当初申告では基準価額で評価していましたが、実際の評価では信託財産留保額及び解約手数料、源泉所得税を控除して評価をします。

 

今回の投資信託では4%の解約手数料がかかる商品でしたので、それだけで数百万円の減額ができ、税額にして約100万円の減額となりました。土地の減額要素と合わせると、約170万円の還付の可能性が出てきました。減額要素があった点についてはよいのですが、逆にリスクとして、まだ税務調査が入ってなかったので、還付請求をすることによって税務調査を誘発して、かつ、逆に増額になることも考えられました。

手許現金名義預金には要注意

そこで、税務調査で一般的に指摘されやすい項目について説明させてもらいました。手許現金の額について直前に通帳から引き出している金額がある場合には、もっと手許現金があったのではないかと指摘される可能性があります。名義預金について、相続人の名義であっても、原資が被相続人である場合には名義預金として指摘される可能性があります。

 

一般的には過去の通帳の履歴を確認して調査をしてくることが多いため、その際にリスクになる項目がないかなど、念入りに説明をして確認をしてもらいました。相続税の見直しは長女からの依頼でしたが、通帳を調べてもらったところ、「もしかしたら長男が車を買ってもらっているかもしれない」とのことでした。車の購入資金について指摘されると還付の見込みの170万円とほぼ同額の増額が予想されますので、還付請求をしてもしなくても結果として変わらない可能性が出てきました。

 

また、もしかしたらほかにも把握していない項目で、何か指摘されるかもしれないため、税務調査の誘発リスクを考えて還付請求はしないこととなりました。税務調査が入っていないからといって全て保守的に還付請求をしないわけではないですが、今回のケースでは1億円以上の納税額に対して還付の見込みが約170万円と少額であったこと。通帳を確認して指摘されそうな項目が見つかったこと。以上の点から還付請求はしませんでした。

税務調査後還付請求では増額リスクはほとんどない

ただし、税務調査が今後入った場合には、税務調査後に改めて還付請求をすることもできます。税務調査では追徴課税を狙って増額要素について指摘をしてくるため、税務調査が終わった後であれば、増額リスクについてほとんど気にせず還付請求をすることができるようになります。

 

ただ、税務調査では減額要素について残念ながら特に指摘してもらえないのです。その点もお伝えしたため、とりあえず保留としています。失敗事例として紹介しましたが、今後改めて還付請求する可能性もありますので、正確には保留事例となります。

 

ところで、相続税還付を専門にしている税理士はほとんどいません。相続税に不慣れな税理士が手を出すと、増額リスクがあるにもかかわらず還付請求をしてしまい、逆に増額となって追徴課税されてしまうケースもあると聞いたことがあります。還付請求をすると、税務調査まではいかなくても高確率で税務署から税理士に連絡が来ます。慣れていない税理士の場合だと、税務署の反論に対してうまく反論できずに増額となってしまうのです。

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    本連載は、2015年12月9日刊行の書籍『不動産の知識があれば相続税は取り戻せます!』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    佐藤 和基

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