「土堤原則」。それは、河川管理施設等構造令第19条にある「堤防は、盛土により築造するものとする」というものだ。決壊する土堤を繰りかえし築造してきた日本。このままでは国家が疲弊し、国土崩壊が始まる。今こそ最新の科学技術をもって全産業をリードし、その最先端に立って建設イノベーションを起こさなくてはならない。 ※本記事は株式会社技研製作所・代表取締役社長である北村精男氏の書籍『国土崩壊 「土堤原則」の大罪』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

河川災害の根本的原因は「堤防の構造」にある

■堤防が決壊、崩壊する三つの主要因

 

降雨量は、短時間危険雨量でもせいぜい100~200ミリであり足首までの水嵩だ。一日の雨量が過去最大だ、と騒いでいるが500~600ミリであって大人の脛の高さである。

 

堤防が決壊、崩壊する三つの主要因
堤防が決壊、崩壊する三つの主要因

 

この降雨の集積場所が河川である。降雨面積と地形、流入場所、河川の水量収容容積、高低差、屈曲角などで河川の性能が決まるが、これらは全て構築前に決めるべき設計事項である。毎年のように起こっている河川による災害は、単純に低きに流れる水の性質を制御することができず、大災害を繰り返しているのである。

 

この原因は河川そのものの性能に帰するところが大きいが、根本的な原因は「堤防の構造」にある。堤防の決壊、崩壊の主要因として次の三つを挙げることができる。

 

[図表1]越水破堤

河川に集積した水が容積限界をオーバーして堤防を越えて溢れ出し、外側の土砂を削り取っていくことによって堤防の強度が落ち、その結果、堤防が内水圧に耐えきれなくなって破壊される。

 

[図表1]越水破堤

 

[図表2]浸透破堤

増水した河川の水が堤防の粗粒の部分に浸み込んだり、「蟻の一穴」と言われる虫や動物などが開けた穴が堤防の外側面を貫通して水道(水みち)となって徐々に拡大することによって堤防がもろくなり崩れる。

 

[図表2]浸透破堤

 

[図表3]浸食破堤

河川に集積した水の量が増えると流れが速くなり、それに伴って土砂や玉石、流木などが混ざる比率も高まるために水の質量が上がってエネルギーが増大する。大きなエネルギーを持った濁流が河川の内側を破壊し、堤防本体を浸食して破堤に至る。

 

[図表3]浸食破堤

 

■自然災害の威力に勝てる強固な防災施設を造ることが解決の道

 

どんな降雨に見舞われても、堤防が決壊しなければ大災害には至らない。そのために堤防は「責任構造物」として存在しているのである。壊れるものを造るから逃げる、という安易な方に傾き、逃げるからいつまで経っても解決には至らないのである。防災の専門家が言う災害のメカニズムや、自然界が異常だといくら文句を言っても災害は繰り返されているのだ。

 

それより、自然災害の威力に勝てる強固な防災施設を造ることが解決の道である。自然災害を防ぐのは、防災の学者や専門家ではない。「頑強な防災施設を造る専門家」が主役でなくてはならない。

土堤への妄信が河川の役割を妨げている

■「土堤原則」が大災害の要因となる天井川を拡大させてきた

 

「水は高きより低きに流れる」「海は水を辞せず」「水は低きに流れて海に至る」「水を制する者は国を制する」と昔から言われ、水の性質や役割、威力は周知のところである。海は流れ入るものを拒まない。流木でも家屋の残骸でも車でも家電でも黴(ばい)菌でも放射能でも、何でも受け入れる。

 

どのような大雨でも、記録的な豪雨でも海はそれを受け入れている。海が受け入れを拒んだが故に洪水を引き起こした、ということは未だない。河川には、集積した雨水を海に流して災害を防ぐという重要な役割がある。この役割を果たすためには、河床の高低差と集積面積に対する収容容積が適切でなければならない。

 

降雨面から集まった集積水が海に流入するメカニズムが物理的にバランス良く整っていないと河川の役割は果たせない。特に高低差に関しては、流れ始める「起点」から終点基準である「海抜」に向けて線を引きそれを河底にすることを基準として高地があれば掘り下げて流路を造り、人の住む生活基盤よりも河床の方が高くなってしまう「天井川」を造らないことが重要である[図表4]。

 

[図表4]天井川

 

堤防の構築に当たって古人は、近くの土を人力で掘り、それを人力で盛り上げて成型して完成に至った。そのため、堤防は三角錐の形をしている。

 

またその昔、堤体を造る材料として手軽に入手できるものは「土砂」しかなかったので、土砂を盛り上げていくと必然的に今の堤防の原型となったのであるが、紀元前の時代の構造体である。この土を盛り上げて造られた「土堤」を行政は河川堤防の標準形状としてきた。

 

堤防と言えば土堤でなければならず、これを「土堤原則」として政令で定め、その機能を「安全の守り神」と妄信してきた。言わば「土堤ラバー」である。

 

特に河川や海岸堤の責任を負う行政のトップクラスの者が「堤防の構造とは土堤」であると断言し、その補強工事の際に土堤に物を入れることすら頑なに拒んできた。そして次々と土堤を高くし、天井川の規模を拡大してきた。天井川の拡大は大きな事故になる要因を増幅させているのである。

科学的解明の遅れと無知、行政の前例主義の重大な誤り

河川は、海抜に向かって流れる高低差をつくりそれに沿って河床を設定し、天井川にしないことが原則である。現在では、河川を掘り下げる施工技術は全く問題ない。河川の容積を増やし、流速を速めるための新規技術の導入が急務である。

 

現存する堤防を安全の象徴としてきた土堤原則は、現実に自然の洗礼を受けて次々と崩壊している。これは全て科学で解明できる内容であり、不思議でも奇怪な現象でも想定外でもない。

 

災害のたびに、人命や財産を守る責任を果たすはずの堤防が崩壊している原因は、指導者の科学的解明への遅れと無知である。また、先進技術を取り入れない行政の古い体質である前例主義の重大な誤りが生んだ結果である。

土堤原則を頑なに守り続けて大災害を繰り返す大罪

■国民の命と財産を守るという堤防の本質が抜け落ちている

 

河川法に基づき制定された河川管理施設等構造令(政令)第19条に「堤防は、盛土により築造するものとする」とある。これが今の時代のものである。その理由は、①材料の入手が容易である、②構造物としての劣化が起きない、③地震によって被災しても復旧が容易である。このような単純な利点を挙げているが、肝心な堤防の骨子である「堤防の本質は国民の命と財産を守る絶対に壊れてはいけない責任構造物である」という主題が抜け落ちている。

 

世界の技術は秒進分歩である。その「技術の発展進歩」を置き去りにして紀元前のやり方を法律で固定するとは何事か、科学技術の進歩を法律で止めれば暗黒と悲劇の時代がいつまでも続くことは明白である。

 

堤防という国民の命と財産を守る一番大切な責任構造物を造るに際して、「材料の調達がしやすく劣化が起きないから、壊れた堤防を直しやすいから“土堤”とする」、このような単純な理由で最初から壊れることを前提にして、材料と構造と造り方を「政令」で決めている。この政令を決めた行政の責任者は極めて重大な間違いを犯しているが、このような単純な内容でできた政令を何の疑問もなく延々と踏襲してきた政治家や行政関係者の無知と無責任による政策踏襲は絶対に許しがたい大罪である。

 

この学習能力のなさによって毎年毎年同じ災害を繰り返し、多くの人命と蓄積財産が流出している。前例主義を踏襲することの恐ろしさになぜ行政関係者は気付かないのだろうか。国民の命と財産を守る大切な責任構造物である堤防こそ、「世界の最先端の素材と施工技術をもって構築すること」と政令で決めるべきである。

 

「建設は日々新たなり」の所以でもある。今の時代にこのような紀元前のやり方を法制化して頑なに守っていることの不合理に、数十万・数百万人いる行政や政治家、専門家等の関係者の誰か一人でも気が付く者はいないのか。

 

日本国は、決して防災先進国ではない。過去に300兆円以上の資金を注ぎ込んでいるが、防災構造物の積み立て貯金にはなっていない。造っては壊れ、壊れては造りを繰り返していて、堤防の本分である壊れない粘る構造体を造っておらず、昔から先輩がやってきたことの踏襲に固執する役人の古い体質が、毎年死者を出し国民に大損害と不安と恐怖を与え続けているのである。

既存の堤防・防潮堤は「砂上の楼閣」に過ぎない

防災構造物を代表する河川堤防の「土堤」は、古人が現場近くの土砂を掘って積み上げた土饅頭を三角錐型に成形した断面を構造物の原形としている。この土堤が受け持っている役割は、川の水が増水して水嵩が上がれば堤体の内部に生えている雑草が水をはじき、増水した全体の水のエネルギーは堤防の重量で受け持っている仕組みである。

 

構造物を地盤に載せただけのフーチング構造であって、延々と続く長大構造物であるが、延長方向に絡み合い結び合って引っ張り合う一体構造機構ではなく、土の上に手巻き寿司を伸ばして置いてあるような脆弱な構造体である。こうした構造を科学的に見ると、自然界の大きな威力を持った災害力に対抗するに足る原理的な機構を最初から備えていない。

 

重要な構造物を構成している材料を分析すると、土堤を構成しているのは「土砂」と「雑草」であって、地震波等の繰り返し起こる振幅運動や衝撃、また水に対しての抵抗力は弱く、地震時に地震波を受けると、土堤を構成している土砂は液状化して沈下し、原型をなくしてしまう。続いて水の攻撃を受けると、土砂は洗い流されて粘着力が奪われて崩れてしまう。

 

いずれも、長大構造物の形状を保つことは原理的にできない。また、フーチング構造の最大の弱点は、構造物を地球の上に載せている構造であるため、激流で底面が浸食されるか、壁体の裏側に水が回るか、水が壁体を貫通すると簡単に倒壊してしまう構造であり、責任構造物に求められる「粘る」ことができない。

 

土堤を原則とし、フーチング構造でできた既存の堤防や防潮堤は、構造体を形成している重要な原材料が、目的とする責任構造物には適合しておらず、構造物自体も地球の上に載せただけの長大構造物で、正に「砂上の楼閣」である。安定を求め、繰り返しの粘りを本分とし、絶対に崩壊してはならない責任構造物として使命を果たす原理を最初から持っていない。国民が信頼の絆とし、安全安心の砦としている既存の河川堤防や防潮堤は、科学的にも原理原則からしても信頼のおける構造物ではないのである。

 

※本記事は連載『国土崩壊 「土堤原則」の大罪』を再構成したものです。

 

 

北村 精男

株式会社技研製作所 代表取締役社長 

 

国土崩壊 「土堤原則」の大罪

国土崩壊 「土堤原則」の大罪

北村 精男

幻冬舎メディアコンサルティング

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