本連載は、不動産の売買・交換、相続税、贈与税などの分野で積極的な問題解決を提案している税理士・鈴木高広氏の最新刊、『税額はこれだけ変わる!平成28年度税制対応 納税対策Q&A 不動産・相続編』(ビジネス教育出版社)の中から一部を抜粋し、不動産にまつわる税金対策の基礎知識をご紹介します。

目的は相続税の節税か、それとも収益に対する節税か?

Q.今回、わたしが所有する土地に賃貸マンションを建築する予定ですが、「わたし個人の名義で建築するか」、あるいは「新しく法人を設立して、その法人の名義で建築するか」、迷っています。友人からは、「法人で建築した方が節税になる」と聞きました。個人で建築した場合と法人で建築した場合のそれぞれのメリット・デメリットについて教えてください。

 

A.マンションの賃貸を「個人で行うべきか」、「法人で行うべきか」は、

 

●相続税の節税を目的とするか

●収益に対する節税を目的とするか

 

によって異なります。したがって、現状の相続税の見込額や所得の状況によって判断することとなります。

個人、法人どちらにもメリット・デメリットが・・・

<個人で建築した場合>

 

●メリット

 

①相続税の節税効果

 

個人でマンションを建築した場合には、相続税の節税効果があります。建物の相続税評価額は、固定資産税評価額(建築価格のおおむね60%)によります。賃貸用の場合には、さらに30%の評価減があります。

 

[例]2億円で建築したマンションの相続税評価額

2億円×60%×70%=0.84億円

 

したがって、約1.16億円(建築価格の約58%)の評価減が可能となります。また、敷地についても、貸家建付地として、約20%の評価減になります。結果として、もともとの相続税が高額になると見込まれる場合には、個人で建築することによって、大きな節税効果を生むことができることとなります。

 

●デメリット

 

①所得税の節税にはならない

 

マンション収益は、すべて個人に帰属します。したがって、他に大きな所得がある場合には、マンション収益は他の所得と合算され、所得税・住民税について、高い税率が適用される可能性があります。

 

<法人で建築した場合>

 

●メリット

 

①収益に対する節税効果と所得の分散効果

 

法人でマンションを建築した場合には、マンション収益に対する税金の節税効果と収益の分散効果があります。マンション収益は、法人に帰属しますが、マンション収益を、役員報酬(法人の経費)として、複数の個人に分散することで、法人の所得が減ることになります。

 

また、個人の側では、それぞれ給与所得として、給与所得控除を利用することができます。これにより、マンション収益に対する全体の税負担が減少します。また、所得の分散により、親族に財産(現金)を移転することができることとなります。

 

②将来の状況にあわせた収益の流れの変更

 

マンション収益は、そのマンションの所有者に帰属します。個人で建築した場合、収益を子や親族に移すためには、売買や贈与を通じて、そのマンションの名義を変更する必要があり、現実的とはいえません。法人で建築した場合には、役員を変更することで、役員報酬の支払先を変更することができます。

 

③相続時の名義変更が不要

 

将来、相続が発生しても、相続財産はその法人の株式なので、法人名義であるマンションについては、所有権移転登記の必要はありません。

 

●デメリット

 

①融資条件が厳しくなる場合も

 

借入金によって建築する場合、個人で借入れをするよりも、法人で借入れをする方が、融資条件が厳しくなることがあります。

税額はこれだけ変わる! 平成28年度税制対応 納税対策Q&A 不動産・相続編

税額はこれだけ変わる! 平成28年度税制対応 納税対策Q&A 不動産・相続編

鈴木 高広

ビジネス教育出版社

ゴール(目的)は同じでも、通る道によって途中でこぼれる税金は異なります。 本書では、「不動産の賃貸・売買」と「相続」に着目して、単に税法上の特例の解説ではなく、実例をもとに各種対策を紹介しています。 納税を有利…

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