なぜ「東京は儲からない」のか?金求める医師が地方へ飛ぶ奇妙

※本記事は医療法人南労会紀和病院理事長・佐藤雅司氏の書籍『地方勤務医という選択』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し、改編したものです。最新の情報・法令・税制等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

医師の場合は給料事情が世間一般と逆転する

◆地方勤務で経済的に余裕のある生活を実現

 

医師の収入にはかなり大きな地域差があります。厚生労働省が発表している「平成28年賃金構造基本統計調査の統計データ」によると、例えば東京都における男性勤務医の平均年齢は41.5歳で平均年収1040万円、女性勤務医の平均年齢は39.0歳で983.0万円です。

 

一方、平均年齢に違いがあるので一概に比較はできませんが、例えば宮城県の男性勤務医は平均年齢44.5歳で平均年収は1868.4万円、女性勤務医の平均年齢は38.7歳で1627.3万円となっています。同じく、お隣の山形県も男性勤務医の平均年齢は38.2歳で平均年収1351.7万円、女性勤務医は平均年齢31.3歳で1247.6万円となっていて、いずれも東京都を大きく上回っています。

 

一般的な企業では、都市部ほど給与が高く、地方にいくほど低くなりますが、医師の場合は逆だといわれます。実際に同統計データでその他の都道府県を比較しても、一部例外はあるものの、総じて都市部は低く、地方のほうが高い傾向にあります。

 

これは地方の病院を志望する医師が少ないため、給与を高くせざるを得ないという事情によって起きている逆転現象です。一方、物価や地価、家賃などは都市部に比べて地方にいくほど低くなります。したがって、経済的にゆとりのある暮らしを送りやすいのです。

 

逆転現象が起きている。
逆転現象が起きている。

 

◆地方で暮らす勤務医の衣食住

 

独り身の医師は自分の判断だけで勤務先を選べますが、結婚して家族がいる医師の場合、家族の意向も大切です。通常、地方の病院で勤務するとなると、田舎暮らしを覚悟しなければならないと構えてしまい、家族の反対によって断念する人もいます。

 

確かに、都市部で生まれ育った人にとって、地方の暮らしには見えにくい部分がたくさんあります。医師が自身のやりがいのために田舎暮らしを覚悟しても、家族が不安を訴えたなら、諦めざるを得ないかもしれません。

 

勤務医が地方に転勤した場合、暮らしはどのように変わるのか? 情報が少ないほど不安が募ると思うので、生活の様子を解説しましょう。

 

地方の買い物環境はエリアによって異なりますが、総じて言えば都市部に比べて少々劣ります。週末ごとに、車で数十分の距離にある大型ショッピングセンターへと買い物に行くのが一般的なエリアもありますし、小さな食料品店しか近隣にないという地域も珍しくありません。

 

しかし、最近はインターネットショッピングも充実しているので、ネット環境さえあればほとんど何でも購入できます。また食品については、JAが経営するショップや産地直送野菜を売る店など、品質が高く安心できる農産品を安価で入手しやすいというメリットもあります。

 

住環境は都市部に比べて充実しています。地価が低いため、敷地面積の広い住まいを安価で確保しやすいのは、地方勤務の大きな利点です。

 

また、自家用車を停めるスペースがたいていの住まいに複数台分付属しています。病院によっては医師用の住宅を用意しているケースが見られますし、賃貸住宅を利用する場合には手当が支給されることもあります。

 

また、地方での移動は車が基本です。バスや電車の路線が敷設されている地域でも、都市部に比べると便数が少ないので利便性が高いとはいえませんが、その分、通勤はかなり楽です。満員電車に乗る必要はなく、乗り継ぎを待つ必要もありません。大都市のすさまじい通勤ラッシュに巻き込まれなくてすみますし、地方の道路はほとんど渋滞しないので、自宅から病院まで10キロ程度の距離があっても、15分もあれば到着します。時間を節約できた分を休息や勉強にあてれば、仕事や生活はますます充実します。

家族を持つ医師の大問題「子供の教育」現場のリアル

◆選べる勤務形態でさまざまな暮らし方を実現

 

生活基盤を地方に移しにくい場合は、暮らしと勤務のパターンを工夫すれば、対応できることがあります。私の病院にも、地元に家族と暮らしている医師がいる一方、単身赴任や遠距離通勤などさまざまな暮らしと勤務の形を選択している医師がいます。

 

単身赴任:家族を都市部に残し、医師だけが病院のある地域で暮らす形態です。医師自身は病院の寮や病院近辺の賃貸住宅などに居住します。地方の賃料は安価ですし、病院によっては住居手当が出るので、経済的な負担はほとんどありません。

 

週末、あるいはGWやお盆、年末年始などには家族のいる自宅に帰れます。家族の顔を見る機会は減りますが、都市部で忙殺され、疲弊しきった状態で帰宅するより、良好な関係を築きやすいとも考えられます。

 

プチ単身赴任:気になる入院患者がいるときや、リスクのある手術をした日などだけ、病院の近所に宿泊するというパターンです。私の病院にも、自宅からの通勤には1時間を要しますが、実家は病院から近距離にあるという医師がいます。手術をした日などは呼び出される可能性があるので、実家に泊まって自主的に待機してくれています。

 

遠距離通勤:家族と一緒に都市部で暮らし、毎日、少し時間をかけて地方の病院まで通勤するパターンです。一見大変そうですが、都市部の病院勤務では、部長以上など役付きでないと難しい車通勤を地方の病院では誰でもできます。私の病院にも遠方から自家用車で通勤している医師がいます。車好きにとっての車通勤は、楽しみの一つであり気分転換になっているようです。

 

◆子供の教育における地方勤務医のメリット

 

家族を持つ医師にとって気掛かりな問題の一つに、子供の教育があります。地方は都市部ほど教育施設が充実しているとは断言できません。ピアノや英語を教えてくれる私塾や学習塾なども都市部に比べれば少ないのが現実です。

 

しかし一方で、都市部になくて地方にあるのが、豊かな自然とのんびりとした環境です。山や川、海など自然に触れる機会は都市部ではなかなか得られません。学校教育においても過度な競争がなく、子供たちは心に余裕を持って成長することができます。どのような子供時代を過ごさせてやりたいかは一人ひとりの親が判断すべきことですが、心豊かにすくすく育てるには、最適な環境といえます。

 

地域によりますが、都市部にはない個性的なフリースクールなどを開設しているエリアもあります。橋本市にも独創的な教育で有名なフリースクールがあり、全国から生徒が集まっているようです。高校教育についても、奈良県にある有名私立高校の通学エリアとなっていて、スクールバスでの通学が可能です。

 

同校は有名国立大学へも毎年多数合格している受験校なので、学力の高い子供の受け皿については心配ありません。橋本市に限らず気になるエリアがあれば、少し探してみるとよいでしょう。魅力的な教育施設がしばしば見つかると思います。

偏差値65以上が必要な医学部受験の世界。我が子は…?

◆子供を医師に育てるための地方勤務医のメリット

 

医師が子供の教育について語る際には、「医師になってほしいかどうか」という話題がしばしば取り上げられます。医師は人気が高い職業であり、一般の人を対象としたアンケートでも、「子供に就いてほしい職業」として常に上位にランクされています。

 

すでに医師として働いている人には、やりがいや安定した収入などを理由として、子供を医師にしたいと考える人が少なくありません。また、開業医や開業医を目指す人の場合には、医院を継いでほしいという思いから、子供を医師にしたいと考えるケースもあります。

 

もちろん、子供には子供の人生があるので、職業は彼らの希望により選択させるのが望ましいでしょう。ただし医師という職業を誇りとし、やりがいを感じているのであれば、幸福感の大きな人生を送る手段の一つとして、医師になるよう勧めたくなるのは自然な人情でしょう。子供を医師という職業に導くためにはまず、親が魅力的な働き方を見せる必要があります。生き生きと働き、やりがいを語る親の姿を日常的に目にする子供は、自分もそんなふうになりたいと感じるものです。

 

都市部の病院で仕事に忙殺され、長時間勤務に疲弊しきっている親を見て育つ子供たちは、医師という職業に憧れを感じにくいでしょう。働き方にゆとりがある地方の病院で、患者や家族としっかり向き合いやりがいのある仕事をしている親のほうが、より「なりたい大人」の理想像と感じられるはずです。

 

もちろん、憧れだけでは医師にはなれません。子供たちが医師になるにあたっては、医学部受験という関門があります。近年は子供を医師にしたいという人が増えていることもあり、どこの大学も合格ラインが急激に高くなっています。名の通っているとはいえない私立大学の医学部でも、偏差値65以上が必要といわれており、隔世の感があります。

 

そのため、幼少期から教育環境を整えなければならないと考えがちですが、一概にそうともいえません。医学部合格を目指す子供は今や多浪が当たり前となっており、医学部受験に特化した予備校を利用するケースが大半です。医学部予備校の多くは全寮制なので、家がどこにあるのかはあまり関係ありません。

 

今後医師に最も求められるだろう全人的スキルの形成を考えると、むしろ子供時代をのびのびと過ごすことにこそ、大きな意味があるのではないかと考えています。患者の大半が高齢者となる時代の中で子供を医師に……と望むのであれば、地方ならではのメリットも小さくないと知っていただきたいものです。

医療法人南労会紀和病院 理事長

1984年、奈良県立医科大学卒業後、同大の研修を経て紀和病院に30年間勤務。2011年、理事長に就任。呼吸器を中心に内科一般を診療。地域密着病院として、命の輝きを大切にする医療・介護を行うという理念と目標を掲げ、いつでも、どこでも、誰もが安心できる良い医療と福祉の実現を目指し、患者に寄り添いながら日々治療に当たっている。日本医師会認定産業医および社会医学系指導医。日本内科学会、日本職業・災害医学会、日本透析医学会所属。

著者紹介

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地方勤務医という選択

佐藤 雅司

幻冬舎メディアコンサルティング

都市部に多い大規模な急性期病院での勤務は激務といわれています。時間をかけて治療をすることで、患者のQOL(生活の質)を改善できると分かっていても、効率を最優先した治療を選ばざるを得ないケースも少なくないでしょう。 …

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