認知症になった義父を「長男の嫁」として見続けた
「労いの言葉くらい、あってもいいと思いませんか!?」
涙ながらに話すA子さん。親戚への憤りは、相当なものがありました。
A子…長男の嫁
Bさん…A子の夫・長男
C子さん…長女
D子さん…次女
父(義父)…B、C子、D子の父
母(義母)…B、C子、D子の母
A子さんがBさんと結婚をしたのは、いまから20年ほど前のこと。結婚の報告をしたとき「彼、地方出身で3人きょうだいの長男!? きょうだいで男は彼だけ……ちょっと面倒くさい感じね。跡取りとか、そういうのうるさくない?」と心配する友人もいました。
A子さんは「いまどき、そういうの古いでしょ」と答えたことを、昨日のように覚えています。
Bさんの出身が、都心から新幹線で1時間ほどという、絶妙な距離感も良かったのでしょう。友人の心配をよそに、義父母との関係は良好そのものでした。
しかし、子育ては大変でした。3人の男児に恵まれましたが、腕白な子どもに手を焼くこともしばしば。しかも思春期で大変な時期に、Bさんは関西に単身赴任となってしまいます。
そんな大変な時期も、三男の大学進学とともにひと段落。子どもたちはみな1人暮らしを始めたので、A子さんは寂しくもこれからは自分の時間をどのように使おうか、色々計画するようになりました。
しかし、その計画も実行に移されることはありませんでした。ある日、義母が他界。突然のことに、特に義父の動揺は言葉では表現できないほどでしたが、子どもたちには気丈にも「俺は大丈夫だから」と話していました。年老いているとはいえ、威厳を放っていた父です。きょうだいは「父さんのことだから、大丈夫だろう」と考えました。
そんななか、1人心配していたのはA子さんでした。
「私、先に母を亡くして、男の人(=父)が残される姿を見てきました……駄目なんですよね、男の人って、1人になってしまうと、急に弱々しくなって。結局父は、母が亡くなった3年後に亡くなりました。まだ70代も前半だったのに」
そんな経験から、気丈にふるまう義父が気になってしかたがなかったというA子さん。Bさんの単身赴任は続いており、C子さんもD子さんも地方に嫁ぎ、頻繁に来ることは難しい……。結局、義父の家に一番近くに住んでいたという事情から、A子さんは毎週のように新幹線に乗り、義父の様子を見に行くようになりました。
そんな日々が続いていくなか、A子さんは義父の微妙な変化に気づきました。
久々に単身赴任先から帰ってきていたBさんに、A子さんは気になっていたことを相談します。
「お義父さん、最近、物忘れが多くて……認知症、なんじゃないかしら」
その後、嫌がる義父を連れて病院に行ったところ、初期の認知症と診断されました。そして3きょうだいとA子さんをまじえて、話をする機会を設けたといいますが、そのときの衝撃を今でも忘れられないといいます。
C子「一番近くに住んでいるのがA子さんだから、これまで以上に様子を見に行ってくれるかしら」
A子「えっ!?」
D子「私たち嫁いだ身だから、こちらはこちらで忙しいのよ。わかるでしょ、A子さんなら」
A子「はぁ……」
C子「長男のお嫁さんなんて、そんなもんよ」
A子さん「……」
Bさん「俺からも頼むよ。義理の、とはいえ家族なわけだし」