血糖値が急激に上下する現象「血糖値スパイク」
血糖値は食事や運動、排泄、緊張、休息、睡眠などにより、絶えず変化しています。血糖値の指標として一般的によく用いられるのは、空腹時血糖(FBS)とヘモグロビンA1c(HbA1c)です。空腹時血糖とは、早朝の食事前の血糖値です。ヘモグロビンA1cは、赤血球の色素であるヘモグロビンに糖(グルコース)が付着して起こす反応(糖化反応)のことで、ヘモグロビンの総数のうち、何パーセントが高血糖と付着したかを表わします。ただし、これは過去3ヵ月間の血糖値の平均値です。
実は、この「平均」がくせものなのです。血糖値の高いときと低いときがあっても、平均をとればその中間になります。平均値だけでは、本当の血糖値の上がり下がりはわかりません。
近年、血糖値には急激に上下する現象があることがわかってきました。落差が60mg/dl以上の場合、「血糖値スパイク」といいます。スパイクとは、「大きな釘」の意味で、急激に血糖値が上がり、その後、ストンと下がってしまう現象です。
実は、こうした血糖値スパイクの方が多くいることもわかりました。問題なのは、血糖値が下がったときです。急に血糖値が下がりすぎると意識を失ったり、脳の機能が損なわれて植物状態になったり、最悪の場合には死に至ることもあります。
血糖値スパイクは「老化」や「生活習慣病」の大元
ヒトが病気になったり老化する原因をご存知でしょうか。それは「糖化」と「酸化」の作用によるのです。
糖化は、血糖値スパイクにより引き起こされます。糖化とは、身体を構成しているタンパク質が体温と血糖値の変化によって変性してしまうことです。いわば、身体のタンパク質が「コゲ」た状態です。
そこに酸化が加わります。酸化とは、鼻から吸った酸素が代謝の過程で活性酸素に変わり、細胞やDNAを「サビ」させてしまう反応です。
代謝とは生命を維持するための営みです。簡単に説明すると、私たちは呼吸によって鼻から酸素を取り入れます。肺のなかで酸素は赤血球のヘモグロビン(血色素)と結合して、全身をめぐり、各細胞に酸素を送り届けます。
一方、口から入った食事は、消化吸収されて血液に入り、肝臓や筋肉のなかに貯め込まれます(ここでインスリンが作用します)。貯蔵された糖(グルコース)は、必要に応じて血液に入り、各細胞に届けられます。
細胞のなかの工場であるミトコンドリアは、ブドウ糖を酸素と結合させて燃焼させ、TCAサイクル(クエン酸回路)を通して、細胞が直接使えるエネルギー源ATP(アデノシン3リン酸)をつくります。
この代謝の副産物として活性酸素(O3)ができてしまいます(吸った酸素の5%)。この活性酸素が過剰になり、酸化を起こす要因になることを「酸化ストレス」といいます。この酸化ストレスが細胞やDNAを「サビ」させます。
活性酸素は身体に入ってきたウイルスや細菌を殺すといったよい働きもします。しかし、老化や生活習慣病の原因となったり、疼痛物質や疲労物質、ガン細胞のもとをつくるなどのよくない働きもいろいろとします。ちなみに、タバコはこうした酸化ストレスをつくる要素になります。
私たちの身体には、グルタチオン(ホルモン)、ビリルビン(ヘモグロビンが代謝されてできたもの)など、抗酸化力を持つ物質が多種あります。また、野菜や果物などの食材には、抗酸化力のあるものが多々あります。これらが身体の免疫力などの自然治癒力を高めてくれます。
健康を保ち、若々しさを保つためには、酸化ストレスと抗酸化力のバランスをとることが重要なのです。
脈硬化や脳梗塞などのリスクを高める「糖化ストレス」
糖(グルコース)は、私たちが生きてゆくために必須の物質です。しかし、血糖値スパイクのため、糖の代謝に異常が起こると、その一部が反応しやすいアルデヒド(R-CHO)となり(摂取した糖の0.1%)、体内のタンパク質を変性(コゲ)させてしまいます。これが「糖化ストレス」です。糖化ストレスは血管の壁を傷つけたり、動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞を起こしやすくします。
糖化ストレスには、段階があります。最終段階がAGEs(エイジス)という物質をつくり出すことです。私たちは、より早期の糖化ストレスを測定できる方法はないかと模索し、特殊な顕微鏡で血液を生きたまま観察することに成功しました。その結果、糖化の初期状態を見ることができるようになりました。