身体の不調による「落ち込み」を「うつ病」と混同
東洋では古くから、人間は心身一如、つまり「身体と心はひとつ」という考え方がありました。本来、うつ病は心の病です。人間は、身体があって、心があります。身体は心に影響し、心は身体に影響します。
身体に不調があれば、誰でも不機嫌になりますし、落ち込みます。これは抑うつ反応といって、うつ病ではありません。しかし、今日、特にわが国では、抑うつ反応とうつ病を同じように扱い、患者さんをクスリ漬けにしてしまう傾向があります。これは医学的に正しくありません。
米国の精神医学会が出版しているDSM-V(精神障害の診断と統計マニュアル-5版:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は、精神科疾患の標準的な診断基準を示した書物です。それには、たとえば愛する人の死などショックなことが起きたとき、3年間くらい続く落ち込みは、うつ病ではないと明記されています。
うつ病の診断には、血液検査や心電図などの客観的な検査は必要とされません。医師と患者さんとの面接が行われ、医師の観察による印象で診断されます。ですから診断には熟練が必要ですし、それ以上に、医師によって差異が生じるのは当然のことでしょう。そうしたことを防ぐために、主に行動から患者さんを観察して診断に至れるよう、DSM‐Vがつくられたのでした。
心の病と誤診しやすい「身体の問題」
医師は身体の異常であっても、一般的な検査や画像診断では見つけられない「機能的病態」を苦手とします。医科大学では、機能的病態を積極的には教えないからです。医師国家試験にもあまり出題されません。
そもそも、一般的な保険診療で認められている検査法は、主に数値や画像で判断できる病気である「器質的病態」の診断には有用ですが、機能的病態は見つけることができません。むしろ、心理的反応が目立ってしまい、機能的病態は、よく心理的な病気だと誤診されます。
これを「身体因性偽精神病」といいます。つまり、身体の機能に問題があるのに、それを心の病だと誤診してしまうのです。
よく知られた例として甲状腺機能低下症(橋本病)がありますが、低血圧・低血糖もその代表です。そうした事例をひとつ、ご紹介します。