今回は、承継対策によって医療法人の持分評価の引き下げに成功し、スムーズな承継に成功した理事長の事例を見ていきます。

「MS法人」の設立で医療法人の利益体質を解消

医療法人の理事長であるDさんには、医学生の一人息子がいます。妻と息子以外に相続人はいないし、息子は医療法人を承継するつもりでいてくれるので、「うちは相続でトラブることはない」と思っていました。

 

Dさん55歳[医療法人・総合内科]

 

●家族構成・・・Dさん(院長)、妻、長男(医大生・24歳)

●相続財産・・・合計20億円(相続税評価額)

●内訳・・・医療法人の持分、自宅の土地、金融資産、現預金

 

Dさんは何事も早めに計画を立てて実行するマメな性格です。55歳になったDさんは、70歳で理事長を引退する人生プランを立てており、今のうちから承継対策を練っておこうと考えました。

 

そこで病院の顧問税理士に相談したところ、持分評価が10億円を超えていると聞かされます。「引退までの15年で、どんな対策をすればいいだろうか」と意見を求めたのですが、これといって有効な策を示してはくれません。顧問税理士は医療法人の承継については、あまり詳しくなかったようです。

生命保険と贈与を活用して持分評価を引き下げる

Dさんの相続対策のポイントは以下です。

 

①MS法人活用による財産の分散

 

対策:MS法人を設立し、配偶者や子への財産の分散をはかる

 

②持分評価の引き下げ

 

対策:生命保険と贈与を活用し、持分評価を下げる

 

Dさんの場合は、引退まで15年という時間的余裕があるため、確実にコツコツとしたやり方で、医療法人の承継を進めることができます。

 

まず、MS法人を設立し、妻と長男を役員にし、役員報酬という形で利益分配をします。こうして医療法人の利益体質を断ち切っておけば、今後、持分評価が膨張するのを予防できます。

 

さらに医療法人では、妻と長男を受取人にした生命保険を契約し、解約返戻率が下がったタイミングを狙って、少しでも持分評価が下がったときに贈与するなど、コツコツと長男に生前贈与していきます。

 

息子は今、医大の6年生で、国家試験にパスすれば来春から晴れて医師です。医師デビューのお祝いに、持分を親から贈与されればよい記念になるのではないでしょうか。そして、これから少しずつ持分が増えていくに従って、息子の中で「後継ぎ」としての自覚と覚悟が固まっていくはずです。

 

15年後、Dさんが70歳を迎えた折には、立派な後継者としてバトンタッチができることと思います。

本連載は、2014年11月29日刊行の書籍『開業医の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策

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藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

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