日本株の需給動向を確認する

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●先物下落で裁定買い残が急減し裁定売り残が急増すれば、ネット裁定残高は大幅なマイナスも。

●コロナ・ショックで5月25日のネット裁定残高は、約8億8,500万株の記録的なマイナス幅になった。

●ただ、マイナス幅は縮小しつつあり、この先、日本株の歪んだ需給が解消に向かう余地はあるとみる。

先物下落で裁定買い残が急減し裁定売り残が急増すれば、ネット裁定残高は大幅なマイナスも

今回のレポートでは、「ネット裁定残高」に注目し、日本株の需給動向を確認します。ネット裁定残高とは、①「裁定買い残」から、②「裁定売り残」を差し引いたものです。①は、裁定業者(主に証券会社)が一時的に割高となった先物を売り、同時に現物を買う(裁定買い)取引における、現物の買い残高です。②は、これとは逆に、一時的に割安となった先物を買い、同時に現物を売る(裁定売り)取引における、現物の売り残高です。

 

先物が大きく下落した場合、裁定買いを行っていた業者が、その取引を解消すれば、先物を買い戻して現物を売ることになるため、裁定買い残は減少します。一方、裁定売りを行っていた業者が、その取引を継続すれば、先物を買って現物を売ることになるため、裁定売り残は増加します。先物の下落が、裁定買い残の急減と、裁定売り残の急増につながるようなケースでは、ネット裁定残高が大幅なマイナスになることがあります。

コロナ・ショックで5月25日のネット裁定残高は、約8億8,500万株の記録的なマイナス幅になった

では、ネット裁定残高について、実際の動きを確認してみます。2020年1月6日時点において、裁定買い残は約3億3,500万株、裁定売り残は約2億9,300万株で、ネット裁定残高は、約4,200万株のプラスとなっていました(図表1、図表2)。その後、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、各国の主要株価指数が急落するなか、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)は、現物、先物とも、大きく値を下げる展開となりました。

 

日本株先物の下落は、裁定買い残の減少と、裁定売り残の増加につながり、その結果、ネット裁定残高は大きくマイナス圏に沈みました。5月25日時点において、裁定買い残は約2億4,200万株、裁定売り残は約11億2,700万株で、ネット裁定残高は、約8億8,500万株のマイナスとなりました。ネット裁定残高のマイナス幅は、データが取得できる1991年12月13日以降、過去最大です。

ただ、マイナス幅は縮小しつつあり、この先、日本株の歪んだ需給が解消に向かう余地はあるとみる

ただ、ネット裁定残高のマイナス幅は、5月25日以降、徐々に縮小し、5月28日時点で約7億6,200万株となっています。また、日経平均株価は昨日、22,000円台を回復して取引を終え、本日午前の取引でも、22,000円台前半で底堅く推移しています。これは、海外投資家による先物の買い戻しを機に、裁定売り取引の解消(先物売り、現物買い)などが進み、現物が上昇して、ネット裁定残高のマイナス幅が縮小したものと推測されます。

 

ネット裁定残高が大幅にマイナスとなるような需給の極端な歪みは、基本的には解消されます。例えば、ネット裁定残高は、2019年9月9日に約7億8,000万株のマイナスとなりましたが、その後、年末にかけてプラスに転じ、現物も上昇しました。今回、必ずしも同じ動きになるとは限りませんが、日本株の需給はまだ歪んだ状態にあり、解消の余地はあると思われます。

 

(注)データは2020年1月6日から5月28日。 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]日本株の裁定買い残と裁定売り残 (注)データは2020年1月6日から5月28日。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

(注)データは2020年1月6日から5月28日。 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]日本株のネット裁定残高 (注)データは2020年1月6日から5月28日。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『日本株の需給動向を確認する』を参照)。

 

(2020年6月2日)

 

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト

 

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 シニアストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介


調査部は、総勢25名のプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場について運用会社ならではの高度な分析を行い、それぞれの見通しを策定、社内外に情報発信しています。三井住友DSアセットマネジメントの経済・金融市場分析面での中枢を担っている他、幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、活動する機会や媒体は多岐にわたります。年間で約1,000本の市場レポートを作成し、会社のホームページで公開中(2018年度実績)。

著者紹介

連載【市川雅浩・シニア ストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

【ご注意】
●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものです。特定の投資信託、生命保険、株式、債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。
●当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、三井住友DSアセットマネジメント、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
●当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
●当資料は三井住友DSアセットマネジメントが信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
●当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
●当資料に掲載されている写真がある場合、写真はイメージであり、本文とは関係ない場合があります。

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧