家を継ぐ独身長男「先祖の土地を守るのは自分の務め」
◆「跡取り」といわれ続けた長男はずっと実家住まい
50代男性のTさんは長男で、生まれてからずっと実家で暮らしています。幼いころからずっと「跡取り」といわれ続け、進学や就職も、自宅から通えるところを最優先としてきました。
幸い、大学も自宅から通えるところに合格し、卒業後の就職先も自宅から通えるように地方公務員になりました。同居する両親はそれを当然とし、また、安心してくれました。
◆80代の父親が亡くなり、相続が発生
80代の父親が亡くなり、相続の手続きが必要になりました。相続人は80代の母親とTさん、嫁いで家を離れた60代の姉と50代の妹の4人です。
父親は遺言を作成しませんでしたので、4人で遺産分割協議をしないといけません。そのため、どのように進めたらよいかアドバイスをもらいたいと相談に見えました。
Tさんはずっと独身で、今後も結婚の予定はないといいます。姉と妹は離れたところに住んでいるため、両親の面倒はTさんが看てきました。とくに父親の介護が必要になったときには、高齢の母親に任せるわけにはいかず、Tさんは介護離職しました。以降、父親が亡くなるまでずっと家で面倒を看てきたのです。
◆実家は代々の農家で土地持ち
Tさんの家は代々農家で、かつては財産の大部分が田畑などの農地でした。ところが、そうした農地も宅地開発が進み、現在ではすべての土地は家が建てられる地域の宅地となっています。
父親の相続財産としては、土地が2億5000万円、建物200万円、金融資産2億円、生命保険2000万円、負債はなく、合計4億7200万円となりました。葬儀費用がちょうど200万円ほどで、生命保険の非課税枠が2000万円ですので、課税対象の相続財産は4億5000万円です。
父親は常々、代々の土地を残したいといっていましたが、借り入れをしてアパートを建てることはせず、土地の一部は駐車場にしてきました。金融資産が多いのは公共工事のエリアに該当した土地を県に売却したからということでした。
◆「不動産はすべて長男、姉妹は現金2000万円」と提案するも…
Tさんが希望する遺産分割は、長男である自分は家を守ることを優先し、不動産は母親とTさんで半分ずつ相続して、姉と妹には現金を渡すというものです。
母親は健在ですが高齢であり、将来はTさんの負担も増えることが想定されます。姉と妹には不動産はなしとし、1人現金2000万円くらいでいいのではと安易に考えていたのです。
父親の四十九日の法要のあと、そのプランを持ち出したところ、姉と妹の反応はいまいちでした。昔の家督相続のように長男がひとりで抱えていく時代ではないというのです。
◆「長男=不動産」に姉妹は不満
今回は、母親の特例を活かすことが納税を減らすことになりますので、自宅をはじめとする不動産は半分まで母親が相続することでメリットが得られます。そのうえで家を継ぐ長男が不動産を相続するというのがTさんのストーリーでしたが、Tさんが多く相続すること自体、姉と妹は不満そうです。
姉は息子が2人、妹は息子1人と娘2人がいるため、Tさんには合わせて5人の甥姪がいます。不動産を自分が相続し、いずれは姉と妹の子どもたちへ相続させることを考えています。
◆姉と妹は「早めに財産をもらいたい」
姉と妹は今回の相続で、現金だけでなく、駐車場の土地をもらいたいという意見のようです。収入のある不動産であれば相続したいというのです。
筆者は、そうした希望を考慮して、ある程度は不動産も分けていくことが妥当だとアドバイスしました。
今の時代、ひとりで多くの不動産を抱えて維持するのは簡単ではなくなりましたので、早めに分けて、それぞれの家庭で活用するのが負担を減らすことにつながります。
Tさんもそうした方向もあるのかと納得され、相続手続きをスタートさせることになりました。
ポイント
以前は長男が家を継ぎ、土地を守っていくのが定番のスタイルでしたが、現代では、価値観も家族のありかたも変化しています。なにより、ひとりでは多くの土地を抱えきれません。ほどよく分けて活用することが必要になります。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士