「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
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老親が暮らす家は「借地権」付の建物で…
「うちの実家は土地を借りて家を建てているんですが、地主さんから〈期限が来たから建物を解体してください〉って連絡があって…。先生、これに応じないといけないのでしょうか? 解体費用もかなりかかるみたいなんです…」
ご高齢の親御さんが暮らす実家が、実は土地を借りて建てたものであるケースというのはとても多いのです。とくに近年、このような借地関係の相談が非常に増えています。土地を借りて家を建てた物件を「借地権」付の建物といったりします。「借地権」とは、建物所有を目的に土地を借りた賃借権のことです。
建物とは別に「借地権」自体に価値が付く
本記事でまずお伝えしたいのは、建物とは別に「借地権」自体に価値が付くということを、多くの方がご存じないという点です。たとえば、1億円の土地を地主さんから借り、1億円の木造家屋を建てたとします。そうすると、本来、土地は借りているだけなのですが、1億円の家屋に、借地権として5,000万円の価値が付くこともあります(※数字はわかりやすく単純化しています。そもそも借地権はいくらの価値が付くか、評価自体が難しいものなのです)。
さて、これが何十年も経過するとどうなるでしょうか? ケースバイケースではありますが、建物の評価はおおよそ耐用年数を超えるとゼロに近い金額になっていきます。たとえば、40~50年経過した木造家屋などは、財産的価値はゼロに近いといってもよいでしょう。ただし、「借地権」の価値自体は残っています。
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相続などと絡んだ相談が増えている「借地権」付建物では、「借地権」の価値は残っているけれども、建物の価値がゼロのケースが多いのです。この「借地権」の価値を理解しているかどうかで、その後、天国と地獄にわかれることになります。
売却できることを知らず、解体費等を払う人が多すぎる
「借地権」自体に価値があるといっても、本来は借りているものですから、期限が来れば返さなければなりません。その際、建物は原状回復しなければならないので、借主の側で解体費用を負担するというのが原則です。期間を延長するには「更新料」の支払いを約束しているケースもありますし、建物を建て替えるにも「承諾料」を支払う必要があります。
これら地主さん側の要求は、契約書等の定めがあればすべて正当なものです。本来は、地主さんのいう通り、住まないのであれば、解体費用を負担して土地を返さないといけないのが原則です。
しかし、「借地権」の価値を理解していると、別の出口が見えることもあります。それは、「第三者に借地権自体を売ってしまう」という方法です。
実際に、地主さんから「更新料」の請求を受けたものの払えない、というケースがありました。そのご家族は、家を解体して土地を返さないといけないと考えていたようです。そこで筆者が「借地権」にかんするアドバイスをしたことで、「借地権」自体に何千万円もの価値が付くことを知りました。そして地主さんと交渉の末、借地権付の建物を第三者に売却することができました。
当初の状況では、
①更新料約500万円を払う
②解体費用約200万円を払ったうえ、おじいちゃんの住む家がなくなる
という、ふたつの選択肢しかなかったのです。しかし「借地権」についてその価値を理解し、かつ、地主さんとの交渉・細かな調整を行うことにより、第三の選択肢として、
③借地権付建物を売却して、そのお金で息子さんたちのご家族の近くに引っ越す
という道が拓かれました。
本来であれば数千万円の値がついたものを…
しかし、「借地権」には価値が付く、ということを知っているだけでは、通常の不動産のように簡単には売れません。不動産屋に相談しても「借地権」は扱っていないといわれる場合も多いのです。借地権を売却するためには、地主さんと「譲渡承諾料」という金銭の交渉をしたり、買い受けてくれる不動産ディベロッパーなどと細かな条件面の調整が必要だからでです。上記のケースでは、事前に専門家に相談することで「借地権」の価値を理解し、正しい手順で売却、第三の選択肢が生まれました。
ちなみに噂程度ではありますが、今回の相談者の方のご近所にも、同じように借地権付建物のトラブルを抱えているご家族がいらしたそうです。こちらも同じ地主さんから借りた土地だったのですが、解体費用を払ったうえで土地を返してしまったとのことでした。法的には何ら間違った対応ではありませんが、本来であれば数千万円の値がついたものをみすみす手放し、さらに持ち出しで解体費用まで払ったというのですから、どちらの家族の対応がよかったかは明らかでしょう。
「借地権」についてはよく知らない方も多く、また、不動産業者をはじめとする専門家であっても、扱いを知らない方が一定数います。今回、どちらの結論がよかったかは火を見るよりも明らかです。もし今回の相談事例を読んで「うちも借地だ」と思い当たる方は、ぜひお近くの専門家へ相談してください。本来であれば解体費用を負担しなければならない家屋に、とてつもない価値が眠っているかもしれません。
(※守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)
山村 暢彦
山村法律事務所 代表弁護士
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