長期休暇中に腰を据えてじっくり考えたい「相続」の問題。2015年の税制改正以後に倍増した相続税課税対象者のうち、土地オーナーの多くが節税対策として「サブリース契約」によるアパート経営を選択しています。しかし、2025年をめどに契約見直しの時期に入り、賃料減額を迫られる可能性があります。本記事ではサブリース契約増加の経緯とその問題点を解説します。※本記事は、野村・多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士の書き下ろしによるものです。

不動産業界の「2025年問題」とはなにか

読者の皆さんは「2025年問題」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。2025年には、人口の4分の1が75才以上、3分の1以上が65才以上となる超高齢化社会を迎えます。そのため、医療、福祉、介護、社会保障などでさまざまな問題が発生する年といわれています。

 

じつは不動産業界においても「サブリースの2025年問題」として、恐れられている事象があるのです。

 

2015年の相続税法の改正で相続税の課税対象者が倍増したことで、相続税対策として「サブリースアパート」が大量に建設されました。2015年から10年を経過する2025年は、サブリース契約の賃料の見直しがはじまる時期になります。これが「サブリースの2025年問題」です。

2015年の税制改正以降、サブリースアパートが大増殖

2015年の相続税法改正で、基礎控除が大きく引き下げられました。たとえば、相続人が妻と子2人の3人で、遺産が8,000万円までの場合、それまでは相続税がかかりませんでした。しかし改正により、遺産が4,800万円を超える場合は相続税が課税されることとなりました。

 

相続税の対象者は、改正前は亡くなった人の約4%だったのに対し、改正によって約8%と倍増しました。さらに、東京国税局管内においては13%を超えるため、都心で戸建てなど土地を所有している人は相続税の対象者となる可能性が高くなり、一般の人にも相続税対策が必要との認識が一気に広がりました。

 

かねてより活用されてきた相続税圧縮のテクニックに、所有地への賃貸アパート建築があります。これにより相続税の評価額を大きく下げることができるため、相続税対策として有効です。相続税の課税対象となる土地オーナーに積極的なビジネスを展開したのがサブリース会社です。サブリースとは、簡単にいうなら「不動産会社が貸主から賃貸物件を一括借り上げし、入居者に転貸する」賃貸経営の形態のひとつです。

 

サブリース会社は、土地オーナーに「30年間家賃を保証します!」と積極的に営業をかけ、相手に建築資金がない場合でも、提携している金融機関から多額のローンを組ませる方法で、相続税対策としてのサブリースアパートの建設を勧めました。それにより2015年以降、この手のアパートが大量に建築されることとなりました。

 

サブリース会社は土地オーナーに「30年間家賃を保証します!」と積極的に営業をかけ、建築資金がない場合でも、提携している金融機関から多額のローンを組ませることにより、相続税対策としてサブリースアパートの建設を勧めました
「有効な相続税対策になる」と、契約する土地オーナーが相次いだが…

原則、オーナーは決められた家賃を毎月受け取るだけ

改めてサブリースの仕組みについて確認してみましょう。賃貸物件の管理方法には、大きく分けて3つあります。「自主管理」「管理委託」「サブリース」です。

 

「自主管理」とは、自分で不動産を管理し、家賃の回収から建物の管理までオーナーが行うというものです。オーナーが同じ建物、もしくは近居している場合は目が届くため、自分で管理することも可能です。自分で管理を行うため収益性がもっとも高い方法です。

 

「管理委託」とは、オーナーが不動産会社等に管理を委託する方法です。建物の管理等を行ってもらうため負担は少ないですが、管理手数料として3~8%程度の支払が必要となります。

 

「サブリース」とは、家賃保証型の場合、オーナーはサブリース会社に一棟すべてを貸しつけ、毎月固定された家賃を契約期間中受け取れるというものです。オーナーは一度契約すると、原則、毎月決められた家賃を受け取るだけとなり、基本的に何もすることはありません。仮に部屋が空室になったとしても、定められた賃料を受け取ることができます。このため、サラリーマンなど本業のある人でも副業としてのアパート経営が可能となるため、節税対策としてこの方式が広まることとなりました。

 

サブリース会社はオーナーから一棟借り上げ、自らが借主となる一方、貸主という立場で借主を募集し、家賃を受け取ります。受け取った家賃とオーナーに支払う家賃の差額(おおむね満室時の15%前後)が、サブリース会社の利益となります。いいかえれば、オーナーがサブリース会社に支払う手数料の額となります。

 

サブリースの特徴は、サブリース会社が「貸主」という立場だけではなく、オーナーからの「借主」という立場も持っていることであり、ここが重要なポイントです。

賃料減額請求により、ローン返済が行き詰まるリスクも

サブリースには、空室状況に関係なく毎月決まった賃料を受け取れるというメリットがありますが、家賃保証とはいうものの、当初の金額が永久に保証されるわけではありません。契約書には「空室状況により家賃を見直すことができる」との規定が入っているはずで、サブリース会社は「借主」という立場により、賃料の減額請求することが可能なのです。

 

10年も経過すれば、建物や設備も傷み、周辺の新築物件より家賃を減額しないと借主を見つけるのがむずかしいとの理由で減額を請求し、受け入れない場合、サブリース契約を打ち切り、今後管理しないなどといわれるケースもでてくると予想されます。

 

オーナーが「ずっと同じ賃料を受け取れるはず」との甘い見通しでローンを組んでいる場合は、賃料の減額で一気にローンを返済が厳しくなる状況も考えられます。とくにローンが「元利均等返済」の場合、最初の10年は利息の支払の比重が多いため、思ったほど借入金が減っておらず、万一返済に行き詰まってアパートを処分しても、借入金の返済がむずかしいといった状況になりかねません。

サブリース契約の相談窓口あり、不安なら早めに相談を

上記のとおり、2025年以降、サブリース会社から賃料の減額を要求されるオーナーが増え、借入返済ができずに賃貸経営が破綻するケースが増加すると予想されます。

 

不動産賃貸業の大きな流れとしては、超高齢化社会を迎える2025年問題とあいまって、少子高齢化と空き家率の増加により、賃貸需要は弱まることが見込まれます。都心で立地がよければまだましですが、人口の少ない地方都市にもサブリース物件が建てられまくったため、そのような物件は、借入で建築された場合、破綻する可能性も高くなります。

 

サブリースのオ-ナーは貸主である以上、解約がむずかしいなど立場が弱いのですが、最近は「かぼちゃの馬車」事件が世間を騒がせたこともあり、公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会(ちんたい協会)等ではサブリースの相談窓口も設けられています。また、金融庁・国土交通省・消費者庁による注意喚起もなされていますのでご確認ください。サブリース契約をしているオーナーで、将来の賃貸料の減額に不安がある方は、まず現在の契約内容を確認し、相談窓口に相談されてみてはいかがでしょうか。

 

 

宮路 幸人

野村・多賀谷会計事務所 税理士

 

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