「コロナ離婚」で、相談者が増えてきた
多くの弁護士事務所ではふだんから男女・家族に関する相談は多いのですが、このところ、「コロナ離婚」の相談者が増えてきました。
「コロナ離婚」といっても、「四六時中同じ空間にいたら息がつまる」とか「何もしないのに3食出さなければならないのが負担」といったものではありません。実際に弁護士事務所に足を運ぶ人は、以前から火種はあったけれど、今回の件が「1つの大きな踏ん切りになった」というものがほとんどです。
相談の中でも多いのが「外出自粛といわれているのに、配偶者が異性のところに行ってしまう」というものです。目をつぶろうと思っていたが、もしこれで配偶者が感染してウイルスを持ち帰るようなことがあったら…、という内容です。これ以上、ガマンしていても仕方がないという感じです。
これを機に別居を考える方も増えていますが、引っ越し先の確保、引っ越し業者の手配、引っ越し時の不安などの問題も交錯し、なかなか一筋縄では行かない様子です。
最も深刻なのが「コロナDV」
より深刻なのが、外出自粛、休業要請下での「コロナDV(ドメスティック・バイオレンス)」の増加です。世界的に問題となっており、日本でも懸念されていましたが、徐々に現実のものとなってきました。
単に家にいる時間が長いということに加え、加害者側の失業・休業による精神的ストレス、在宅中の飲酒量の増加など、心のひずみが増大していることが原因です。
これを受けて、内閣府も「DV相談窓口(DV相談ナビ/0570-0-55210)」に加えて 「DV相談プラス(0120-279-889)」を設けて対応するとともに、DV被害者に対する相談支援や一時保護を都道府県に呼び掛けています。
通常のルートでは「DV被害者からの電話や面談等による相談」→「婦人相談所(東京では『東京都女性相談センター』)における一時保護の要否判断」→「民間シェルター等の一時保護委託契約施設の受け入れ」となりますが、感染防止が徹底されることを前提に、民間シェルターの保護の拡大が実施されています。
「特別定額給付金」を配偶者に受給されたくないなら…
新型コロナウイルス対策として、国から「国民1人あたり、一律で10万円を給付する」ことが決まりました。これは、「2020年4月27日の住民票に基づいて、住民票上の世帯主がまとめて申請、まとめて支給」を受けるものになっています。
つまり、DVにあっている方、そうでなくても家庭の事情で別居中であり、別居先を知られたくないからといって住民票をもとの住所のままにしている方は、このままだと世帯主がすべてを受給することになり、本人は支給を受けることができません。
このような場合、総務省は配偶者からの暴力を理由に避難しているなど、事情により令和2年4月27日以前に実際に住んでいる市区町村に住民票を移すことができない人に向けて、住民票の所在にかかわらず、実際の居住先で受け取れるための手続きを設けました。
要件は、以下の通りです。このいずれかを満たしていることが必要です。
(1)DV防止法上(配偶者からの暴力の防止および被害者の保護等に関する法律)第10 条に基づく保護命令が出されていること。
(2)婦人相談所による「配偶者からの暴力の被害者の保護に関する証明書」(地方公共団体の判断により、婦人相談所以外の配偶者暴力対応機関が発行した確認書を含む)が発行されていること。
(3)住民票秘匿措置の対象となっていること。
この中で(1)の保護命令は、事前に暴力事例について警察への相談記録があること(裁判の申し立てには個人情報保護法に基づく警察の相談記録の開示を受けていることが必要)を前提に裁判所が認めるものですが、比較的要件は厳格で、今から申し立て、裁判所に認めてもらうのはハードルが高いです。
(3)をとるには、もともと警察への相談、同じように相談記録の取得が必要になっていますから、時間的にも厳しいかもしれません。
そうすると、(2)の「婦人相談所」(東京の場合、東京都女性相談センター)の証明書が最も使いやすいと思います。ただ、相談センターへの相談の殺到、証明書の発行までの時間のロスなどが心配ではあります。
なお、申請期間は4月24日から30日までとされていますが、30日を過ぎても手続きは可能のようです。
弁護士への相談記録も「確認書」に含んでほしいが…
今回の給付金の(2)について「地方公共団体の判断により、婦人相談所以外の配偶者暴力対応機関が発行した確認書を含む」とあるように、ここが弁護士への相談記録でもよければいいのに…と思います。
例えば、弁護士が相談を受けて「世帯主とは事情があって別々に暮らしている事情」を聴いて報告し、世帯主には受け取らせず、個別に受け取らせてほしい旨の確認書を発行するなどの措置を取らせてもらえると、負担が少し軽減されると思います。
今回の給付金にかかわらず、これは今までもあったことです。
離婚までの協議・調停の中で別居になり「住民票はまだ分けていない」という場合で、児童手当の給付において、あくまで住民票ベースでしか判断できないから「世帯主にしか児童手当を支給できない」となることは、よくあります。
そのような場合、弁護士から別居中の配偶者に対し、支給された児童手当分を送金してもらうよう求めることがあります。先方からの送金が期待できない場合、行政に対して弁護士から相談するしかなく、自治体によっては、それで事態が打開されることもあります。
今回の「特別定額給付金」のことを通じ、行政からの給付がそれぞれの家庭の実態に応じ、受け取りやすいものになればよいと思います。
水谷 江利
世田谷用賀法律事務所 弁護士