約3坪!激狭うどん屋はチャーミーになぎ倒された…
なめ茸(@c___i___b)のツイート
【ドリフうどん屋】台風24号により倒壊した杉並区高円寺の立食い蕎麦店。台風の爪痕の象徴のように翌朝のTVニュースでも取り上げられるが、どちらかと言えばその薄すぎる敷地と“立て掛けただけ”のような佇まい、ドリフのセットのような倒れ様がお茶の間に印象を残す。#クソ物件オブザイヤー
【どんなストーリー?】
2018年の台風「チャーミー」は、その可愛らしい名前とは裏腹に日本全国各地で観測史上最大の瞬間風速を記録し、高円寺にある立ち食いうどん・そば屋さんの「うどん・そば桂」を店舗ごとなぎ倒した。
登記簿によると「うどん・そば桂」の敷地は約3坪。多分日本で一番小さい立ち食いそば屋さん。そら杭を打つスペースもないわな。
【解説】小さいうどん屋さんの店舗が台風で転んだ話だけでも勉強になる
僕らね、一生懸命探しました…見つかりませんでしたよ…ドリフうどん「うどん・そば桂」の建物登記簿…未登記建物やんけ! ならばここで「不動産登記規則」を見てみよう。
第111条 建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない…うどん屋の建物未登記もやむなし。
さて、もしあんたが「うどん・そば桂」をあの小さなお店借りてやっとる店長やったらこう思うかもしれん、「おい! 大家! わしの店の経営どないしてくれるんや! わしはあの店借りてるんやぞ、はよ新しい店を建て直してわしが店できるようにせんかい!」と。
ほなここで、民法が2020年4月1日から改正されたんやけど、新たに新設された条文見てもらおか。
(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)第616条の2 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
勉強になるやろ? 不動産屋は笑てるだけやないんや。
以前から、強い風が吹くとミシミシ音がしたんですよ
【真相を追跡!】舞台セットのような店舗建物がコントさながらに崩れ落ちた
2018年9~10月に日本を襲った台風24号は、沖縄から東北にかけて広範囲に及び、記録的な暴風となった。関東でも暴風が猛威を振るう中、八王子市で風速46.2mを観測し、2008年の観測開始以来、最大を記録。大規模な停電が起きたり、首都圏では倒木で鉄道の運転見合わせが相次いだりするなど、台風24号は甚大な被害をもたらした。
そして10月1日未明、そんな台風が直撃したのが〝ドリフうどん屋〟こと、高円寺駅北口の立ち食いそば店「うどん・そば桂」だった。奥行きが1mほどしかない、舞台のセットのような薄っぺらい店舗建物が倒壊する様は往年のドリフターズのコントの一幕を思わせ、ニュースやネットで盛んに取り上げられた。
「店の倒壊によってガス漏れが発生し、危険だということで高円寺駅前が通行止めになりました。消防車やパトカーが駅前に集まり、一時は騒然としたものです」と、当時を振り返るのは近隣住民。コントのような状況とは裏腹に、現場はかなり緊迫していたようだ。
風がどんなに強かろうと、そう簡単に台風で店舗が倒壊してしまうとは俄かに信じ難いが、当時のニュース映像などで確認すると、店舗の基礎工事が行われていないようにも見える。つまり、建物が地面に完全に定着していないわけで、これでは強風に煽られれば倒れかねない。実際、かつての同店の利用客も「以前から、強い風が吹くとミシミシ音がして恐かったんですよ」と話す。
杭を打っていないため撤去もしやすかったのか、10月1日未明に倒壊したのにもかかわらず、同じ日の午後には店舗のあった場所は完全に更地と化していた。
そんな「桂」が開業したのは、今から38年前。店主は薮田桂二さんで、店舗倒壊時は76歳だった。最近の立ち食いそば屋は、生麺の十割そばや揚げたての天ぷらを提供するハイグレードなところも増えているが、同店は茹で麺と揚げ置きの天ぷらを出す昔ながらの立ち食い店。それでも地元で長らく人気を誇っていたのは、麺に特徴があったから。
「極太の田舎風そばで有名でした。中野駅前に『田舎そばかさい』という立ち食いの超人気店があるのですが、当時そこと同じ村上朝日製麺所の麺を使っていたんです。同製麺所は美味い麺を作るということで、そば好きやラーメン好きの間では有名です」
そう話すのは、関東中の店を食べ歩いているという立ち食いそばマニア。田舎そばとは、そばの実の外殻の一部を挽き込んだ色が黒く太いそば。そばの味が濃く、モチモチした食感が特徴だ。茹で麺で、この手のそばは珍しいという。
もちろん、ユニークな店舗建物も注目を集めた。約3坪の広さしかない同店は、カウンター4席のみ。歩道にはみ出して、小さなテーブルと椅子が置かれており、天気がいい日は外で食べることもできた。一般的な店舗はカウンター席の奥に厨房があるのに対し、同店は奥行きが1mほどしかないため、店舗の右手が厨房で、左手がカウンター席という横長の変則的な間取りだった。
それにしても気になるのが、同店ができた経緯。だが、建物の登記は見つからず、発見できた登記は換地処分されて1959年から所有者が変わっていないという敷地の土地12m²の登記のみ。換地処分とは、土地改良や区画整理のために土地の権利関係が変わった場合、その土地の代わりに他の土地を与えたりする行政処分のことだ。
「あの土地は確か、道路の拡幅でセットバックした残りの地面じゃなかったかなあ」と話すのは、古くからの地元住民。
セットバックとは、建物の敷地と接する道路の幅が4m未満である場合、道路の中心線から2mの線まで敷地や建物を後退させること。それが事実かどうかはさておき、薮田さんはこの土地をひと目見て、立ち食いそば屋に格好の立地だと惚れ込み、土地を借りて営業を始めたのだという。
だが、最小の店舗面積で最大の利益を上げようとコストパフォーマンスを追求した薮田さんの思惑は、台風の猛威の前では仇となった。店舗倒壊後、薮田さんは店の再開を試みるも、まもなく再建を断念する旨の張り紙を残して廃業してしまった。
駅構内やその近くに立地する立ち食いそば屋は、その多くが鉄道会社系列のチェーン店。「桂」のような個人経営の立ち食い店は、いまや稀な存在だ。同店の廃業は、大手資本の後ろ盾がない個人店だったゆえの悲哀を感じさせる。
※ 本記事は、書籍『クソ物件オブザイヤー』(KKベストセラーズ)より一部を抜粋、再編集したものです。
全宅ツイ