今回は、離婚のときに、いちばん気になる「お金」にまつわる素朴な疑問について、世田谷用賀法律事務所の代表者、弁護士の水谷江利氏がお答えします。
「離婚」といえば「養育費」と「慰謝料」だと思っている方は多いのではないでしょうか。今さら聞けないお金のことについて、整理してみましょう。
さらに、慰謝料と財産分与の違い、退職金や年金について、具体的にみてみます。
離婚=慰謝料ではない
離婚のときに取り決めるお金のことには、(1)子供に対する「養育費」、(2)これまでの財産を2人で分ける「財産分与」、(3)精神的損害に対して別途払われる「慰謝料」があります。そのほかに、厚生年金を分割する「年金分割」の手続きもあります。
「慰謝料」は必ずしも、すべての離婚で問題になるものではありません。
「不貞」や「DV」など、心や体を傷つける行為が結婚の過程で起こり、そのために離婚に至った場合に、はじめて発生するものです。
相手方に不貞行為や暴力などがあった場合に発生します。また、不貞の慰謝料については、不貞相手にも同様に請求できますが、二重取りができるわけではありません。
精神的苦痛を慰謝するための損害賠償ですから、離婚理由が「性格の不一致」や「価値観の相違」、「セックスレス」などの理由だけでは必ずしも請求できません。
相手が不貞を否定した場合に裁判で慰謝料を認めてもらうには証拠が必要になるため、失敗しないためにもプロに相談しましょう。なお、不貞による離婚に伴う慰謝料請求権の時効は、離婚が成立してから3年間とされており、注意が必要です。
慰謝料と財産分与の違いとは?
夫婦間の「財産分与」とは、婚姻後に形成された夫婦の共有財産を分配することです。預貯金や共有不動産、保険などが当てはまります。それぞれの貢献度に応じて分配すべきこととされていますが、分与の割合は1/2ずつが基本です。芸能人の離婚ゴシップなどで「慰謝料数千万」みたいに報道されているのは、実際には厳密な意味での「慰謝料」ではなく、財産分与としてのものであることが多いです。
財産分与は基本的には、離婚原因とは関係なく離婚に伴う夫婦間の財産関係の清算=清算的財産分与として行われます。ですから、たとえ離婚の原因を作った妻からであっても、離婚について合意ができる以上は、夫から財産分与を受け取ることも可能となります。
そのほか専業主婦や高齢者、もしくは病気の場合など、離婚により元配偶者が困窮する場合には、扶養的な意味での財産分与が認められる場合=扶養的財産分与があります。また、慰謝料としての意味を含む場合=慰謝料的財産分与もあります。
特に不動産を伴う財産分与については、計算の仕方で分与額が変わることもあります。さらに、お金ではなく「不動産を譲ってもらう」、「居住権を認めてもらう」など、さまざまな解決方法があります。
なお、財産分与の請求には、離婚してから2年以内という期間制限があるので気をつけましょう。
退職金や年金分割はどうなる?
財産分与と関連して、退職金や年金についても気になるところです。熟年離婚が増えてきた昨今、この2つは今後の生活の糧になる場合が多いので、特に注意が必要です。
退職金について分配を受けるには、支給が確実であると見込まれていることが必要になります。また、全額が対象ではなく婚姻期間に応じた金額が対象となります。
年金の分割は、婚姻期間中の『厚生年金の払込保険料』に応じて原則1/2の割合で分割することができます。
平成19年(2007年)以降に結婚した方は「3号分割」により、3号被扶養者は一律2分の1の分割を受けることができます。これ以前の場合は「合意分割」により、当事者間の合意が必要になります。
年金分割をすると「将来受け取る年金の半分がなくなる(もらえる)の?」と思う方も多いようですが、そうではありません。2階建ての年金の1階部分である『国民年金』や、3階部分である『厚生年金基金・国民年金基金』は対象外となります。また、厚生年金部分についても、婚姻期間中の納付実績に対して分割するので、将来受け取る予定の年金の半分を分割するわけではないことに注意が必要です。
なお、年金受給資格が実際に発生するのは納付済期間が25年以上であることが必要ですので、せっかく分割したとしても、納付期間がそれ以上ないとそもそも受け取れないこともありますから注意しましょう。
年金分割の請求も離婚が成立してから2年までの期間制限にかかります。
以上のように、請求するにも時間制限がありますので、知らなかったでは済まされない内容です。
水谷 江利
世田谷用賀法律事務所 弁護士