「遺言書を書いておけばいいんでしょ?」「お金少ないし、子どもたちが何とかしてくれる」…相続のシーンでは、こういった声が多く聞かれます。しかし、安易な生前対策をした結果、骨肉の「争族」が発生してしまう例は後を絶ちません。そこで本連載では、税理士法人レディング代表・木下勇人氏の書籍『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版)より一部を抜粋し、相続の基礎知識を解説していきます。

突然「相続人」になってアワアワしてしまう前に

相続は決して他人事ではありません。両親が亡くなったら相続をする側となり、自分自身が死んでしまったら相続をさせる側になります。実際に私の父は45歳という若さで突然亡くなり、私は19歳で相続を経験することになりました。

 

こういった突然の相続は誰にでも訪れる可能性があります。もしも、あなたが突然相続人になったらどうしますか? 相続は人生でそう何度も経験することではありません。だから「相続は難しい」と感じてしまうのです。

 

本連載では、そういった時のために、相続について知っておきたい基本的な知識をお伝えします。「自分の場合はどうだろう」と考えながらお読みください。

 

相続なんて考えたこともなかったけど…
相続なんて考えたこともなかったけど…

 

◆相続とは?

 

相続とは、ある人が亡くなったとき、その人が生前に所有していた財産を次世代が受け継ぐことを言います。財産を受け継ぐ人を「相続人」、相続させる人(つまり亡くなった人)を「被相続人」といいます。

 

◆相続財産の種類(何が財産になるのか?)

 

相続財産には次のようなものがあります。

 

●金融資産・・・現金、預貯金、小切手、株式、投資信託、国債、売掛金、貸付金など

●不動産・・・土地、建物など

●その他の資産・・・貴金属、骨董品、絵画、ゴルフ会員権、特許権・著作権等の権利、車など

●債務(マイナスの財産)・・・借入金、保証金など

●みなし相続財産・・・被相続人(亡くなった人)固有の財産とは言えないが、被相続人が亡くなったことで、相続人のものになった財産のことを「みなし相続財産」と呼び、相続税を計算する際には、相続財産として扱います。代表的なものとして、死亡保険金や死亡退職金があります。

 

◆相続できるのは誰?(誰が相続するのか?)

 

財産を受け取れるのは、民法で定めた「法定相続人」です。遺言がある場合には、遺言で指定された人「受遺者(じゅいしゃ)」も相続で財産を受け取れます。

 

◆財産を分ける方法(どれくらいの割合で相続するのか?)

 

相続には、おもに以下の方法があります。

 

●遺言による相続・・・被相続人の「遺言書」に従って相続します。

●遺産分割協議による相続・・・相続人全員で話し合って、どうやって分けるかを決めます。法定相続分(民法で定められた割合)で分けても、法定相続分以外で分けても構いません。

 

遺言書がある場合は、原則として、遺言書に従って相続します。遺言書がない場合は、遺産分割協議による相続になります。

相続のスケジュール

「単純承認・限定承認・相続放棄」…相続3パターン

◆相続する方法(どこまでの範囲を相続するのか?)

 

相続は預金などのプラスの財産を受け継ぐだけでなく、借入金などのマイナスの財産(負債)も譲り受けることになります。そこで、どこまでの範囲を相続するのかを相続人が選ぶことができます。相続する方法には3つのパターンがあります。

 

●単純承認・・・プラスの財産もマイナスの財産(債務)も、すべて相続することをいいます。借入金なども、相続人が支払わなければなりません。また、連帯保証人などの地位も引き継ぎます。

 

●限定承認・・・相続によってもらったプラスの財産を限度として、マイナスの財産(負債)を相続することをいいます。限定承認には相続人全員の合意が必要です。自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所に「限定承認申述書」「財産目録」などを提出して手続きをします。

 

●相続放棄・・・プラスの財産もマイナスの財産も、どちらも相続しないことをいいます。相続放棄は限定承認とは異なり、他の相続人と相談することなく行えます。

 

ただし、同順位全員(例えば子供全員)が放棄すると、直系尊属(父母)が相続人となり、直系尊属(父母)がすでに他界又は相続放棄すると、兄弟姉妹が相続人となってしまいます。そのため、借金のほうが多く、借金から免れたい場合には、配偶者を含め子供、父母、兄弟姉妹が順次に相続放棄するか、全員が同時に相続放棄する必要があります。

 

自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」などを提出して手続きをします。

 

◆相続の手続きには「締め切り」がある

 

相続に関するさまざまな手続きには期限が設けられています。例えば相続税の申告手続きを忘れると、無申告加算税(申告書を提出しないことについての罰金)や、延滞税(税金を期限までに納めない場合にかかる利息のような罰金)など、余分なお金がかかることもあります。

 

◆「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」って、いつ?

 

限定承認や相続放棄は3ヶ月以内に行うのですが、その起算日を“自己のために相続の開始があったことを知ったとき”といいます。「えっ!? 亡くなった日じゃないの?」と思われるかもしれませんね。多くの場合は、亡くなった日になるのですが、それだけではないのです。

 

相続人には優先順位があります。先の優先順位の人が相続放棄を行うと、相続放棄がなかったときには相続人ではなかった人が相続人になります。

 

例えば、故人の妻とその子供全員が相続放棄をすると、第2順位である父母が相続人になります。嫁と孫が夫の両親と仲が悪かったりすると、その事実を知らないことも考えられますよね。この場合、両親の「相続の開始があったことを知った日=妻と子供全員が相続放棄をしたことを知った日」となり、必ずしも亡くなった日と同じ日ではないのです。

 

 

木下 勇人

税理士法人レディング 代表

 

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