アジアで最も注目されている国、「ベトナム」。社会主義国でありながら、驚異の経済成長を遂げてきた。訪越外国人数、貿易収支等、多くのマクロ指標は右肩上がりであり、今後のさらなる発展に期待が高まる。そこで本連載では、キャピタル アセットマネジメント株式会社が、ベトナムの最新事情を紹介していく。

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多くのマクロ指標で「過去最高値」を記録

<好調なベトナム経済>

 

2019年のベトナムの経済成長率は7.02%(ベトナム統計総局)となり、アセアン諸国の同規模(ベトナムのGDPは約28兆円)、あるいはそれ以上の経済規模をもつ国々のなかでは、頭一つ抜きん出たものであった。

 

2009年以降、加工貿易中心の産業構造への転換が進み、GDPの内訳は約35%が工業・建設業、約42%がサービス業、約14%が農林水産業となっているが、工業に含まれる製造業(構成比16.5%)が成長を牽引している(前年比+11.29%)。

 

世界銀行が年初に発表した予測では、2020年の世界全体の経済成長率は「+2.5%」と、昨年発表の数字(+2.7%)から下方修正された。アジアは+5.7%と比較的高い水準の成長が予測されているが、そのなかでもベトナムは+6.5%と突出した数字となっている。現在、日本人投資家の注目度が高い中国(+5.9%)、インド(+5.8%)の数字を凌ぐ成長予測だ。

 

ベトナム経済のファンダメンタルズの好調さは、マクロ指標のなかにはっきりと表れている。

 

GDP:7.02%(2年連続7%台)

CPI(消費者物価指数):2.79%(3年ぶりの低水準)

小売売上高:+11.9%(2005年以降連続二桁成長)

訪越外国人数:1,801万人(過去最高を更新)

貿易額(輸出額+輸入額):5,170億ドル(過去最大額)

貿易収支:99.4億ドル(過去最大額)

外貨準備高:800億ドル(過去最高を更新)

 

といった具合に、多くのマクロ指標が過去最高値を記録している。

製造業中心の産業構造により、安定した経済を維持

ベトナムに好調な経済成長をもたらしたのは何か? 現代のベトナム経済の特徴は以下のようである。

 

過去の日本と同様に、「加工貿易」を中心とする産業構造であり、同じアセアンではタイに近い。タイが通貨バーツ高で輸出不振に陥っているのを横目に、世界の製造業者がベトナムに工場を設け、製造・輸出拠点としている。海外直接投資(FDI)として海外からの資金が流入し、工場が続々建設されるなど、雇用の創出に貢献、外貨の蓄積と通貨の安定にも大きく寄与している。

 

新興国と呼ばれる国々のなかには、天然資源の輸出に経済の多くを依存し、国内経済が産品の市況動向に大きく左右される例も多い。一方、ベトナムの製造業中心の産業構造は、安定した経済発展を期待できる。

 

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もちろん、自由貿易主義のもと構築されたFTAネットワークを利用するためだけに、多くの外資資金が集まっているのではない(関連記事『脅威の成長を遂げたベトナム…「解放された社会主義国」の底力』)。ベトナムの労働人口の豊富さ・質のよさ・コストの安さ・政治的安定度の高さ等が、さらなる人気を呼び寄せているのだと考えられる。

 

経済力を含めた国力の維持・拡大には、人口の多さは不可欠な条件だとされるが、ベトナムの総人口は約9,621万人(4月1日現在、2019年の国勢調査)で、東南アジアではインドネシア、フィリピンについで3番目、世界でも15番目の多さである。過去10年間で1,040万人も増加しているのだ。

 

総人口に占める15~64歳の国民(『生産人口年齢』と呼ばれる、生産・消費の両面から経済成長の原動力となりうる人々)の比率は68%で、依然として労働人口が豊富な「人口構成の黄金期」にある。

 

教育水準も高く、特に数学・理工系に強い。太平洋各国の大学代表で争われるABUアジア・太平洋ロボットコンテストで、ベトナム代表は常勝国であり、過去開催された18回のうち、最多の7回も優勝している(中国代表は5回、日本代表は2回の優勝)。

 

半面、労働コストについては近時上昇傾向ではあるが、依然中国の約半分の水準である。現状、人材が枯渇している日本のIT関連企業は、ベトナム人の人材確保に躍起になっている。ベトナム人労働力の質の高さは、すでに日本の産業界でも広く認められているのだ。

 

また、アセアンにおけるベトナムの経済的優位性を語るうえで、「政治的な安定」は欠かせない要因だろう。

 

フィリピンやインドネシアの経済は、数年ごとの選挙で選ばれる大統領の個性・力量に大きく左右されているのが現実であり、政策の一貫性、持続性に不安がないとはいえない。また、タイのように拮抗した政治勢力が併存すると、政治的対立が長く続き、やはり政策等の一貫性が心配される。クーデターで社会が一転するような事態もなくはない。

 

この点、ベトナムの「柔軟な」社会主義は大変有利である。党が指導力を発揮するため、政策の一貫性に優れており、かつ状況変化にも柔軟・迅速な対応を取りやすい。国内での政争は他国同様にないわけではないが、経済成長重視の基本姿勢はブレない。ベトナム経済の強さの秘訣である。

 

以上の点は、今後もベトナムの経済成長の伸びしろが大きいことを示しており、同国が外需・内需を交えた経済発展を持続できる可能性を示唆しているといえよう。

2016年以降、「ベトナムドン」は極めて安定

<為替・インフレの安定について>

 

2006年頃からベトナム株式投資を始めた方のなかには、為替下落によって、大きく円建てベースの投資パフォーマンスが落ちた人もいる。株価は上昇したものの、為替で負けた結果になっている。これは、急速な工業化の発展でインフレが加速する一方、外貨準備が脆弱であったために、通貨ドンが急落したためだ。

 

しかし、2016年以降の通貨ドンは極めて安定しており、今後も以下の理由により堅調な動きが予想される。

 

インフレが加速し通貨ドンが急落した過去も
インフレが加速しドンが急落した過去も

 

まず、インフレが2014年以降落ち着いている。金融機関の貸付伸び率のコントロールや、公共料金の上昇抑制等によって、2019年のCPIは過去3年で最低水準にまで下落している。

 

一方、貿易収支は4年連続で黒字を維持、2019年も99.4億ドル程度の黒字であった。貿易黒字と海外直接投資(2019年は認可額約380億ドル)によって外貨の蓄積が進み、通貨危機が生じた場合の自国通貨防衛に必要な外貨準備高も、800億ドルに達している(通常は平均月次輸入額の3倍が安全性の目安とされる。昨年の平均月次輸入額は約211.3億ドルで、2019年末の同外貨準備高は、この3ヵ月分である634億ドルを超える水準だ)。

 

ベトナムの為替レートは、貿易相手国の通貨の動きを考慮して国家銀行が為替変動幅を定め、ベトナムドンの実勢レートを考慮しながら、一定水準を保つように決められるが、事実上は、米ドルの動きと連動するドルペッグ制に近い。このことから、ベトナムドンの対円レートは、ドル円レートに近い動きになると予想される。

 

ベトナムは、通貨操作に関する米国の監視対象国となっていることから、国家銀行がドン安誘導をすることは難しいとみられ、むしろドン高を予想する者もいる。

 

 

キャピタル アセットマネジメント株式会社

 

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