●米国とイランの対立による中東情勢の緊迫化を受け、年初の金融市場はリスクオフの動きが強まる。
●今回の状況を地政学リスク発生時に確認すべき3点でみるといずれも問題なく過度な警戒は不要。
●米イランとも軍事衝突は念頭になく市場は落ち着きを取り戻すとみるが両国の動きは当面要注意。
米国とイランの対立による中東情勢の緊迫化を受け、年初の金融市場はリスクオフの動きが強まる
米国とイランの対立による中東情勢の緊迫化を受け、年初の金融市場はリスクオフ(回避)の動きが強まっています。米国は1月2日、イラン革命防衛隊の精鋭組織、コッズ部隊を率いるカセム・ソレイマニ司令官を空爆で殺害したと発表しました。イランはただちに報復措置をとる構えをみせましたが、米国もイラン関連の重要施設52カ所への反撃を警告するなど、激しいにらみ合いが続いています(図表1)。
1月3日の米国市場では、ダウ工業株30種平均が前日比233ドル超下落し、米10年国債利回りは1.8%を割り込んで1.78%台で取引を終えました。為替は円が対主要通貨でほぼ全面高となり、ドル円は一時1ドル=107円台までドル安・円高が進行しました。また、WTI原油先物価格は大幅高となり、1バレル=63ドル台を回復しました。リスクオフの流れは週明け1月6日も続き、日経平均株価は朝方、400円超の大幅続落となりました。
今回の状況を地政学リスク発生時に確認すべき3点でみるといずれも問題なく過度な警戒は不要
一般に、地政学リスクなど、市場で予期せぬ悪材料が発生した場合、確認すべきは次の3点です。すなわち、①「金融システムへの影響」、②「流動性への影響」、③「他国・他地域への影響」です(図表2)。いずれに関しても、影響なしと判断できれば、その悪材料に起因する市場のリスクオフの動きは一時的であると考えられ、過度な警戒は不要となります。
そこで、今回の米国とイランの対立をこの3点から確認してみます。両国の対立は、直接的に主要国の銀行機能を阻害するものではなく、また、主要市場の流動性を枯渇させるものでもないため、①と②については、影響なしと判断できます。③については、イラン周辺諸国への影響が懸念されるため、やや注意が必要ですが、少なくともアジアや中南米諸国などに飛び火するものではなく、深刻な影響はないと考えられます。
米イランとも軍事衝突は念頭になく市場は落ち着きを取り戻すとみるが両国の動きは当面要注意
次に、米国とイランの事情を考えます。米国では11月に大統領選挙を控え、トランプ米大統領は再選を狙っています。そのため、イランに対し強硬姿勢は維持するものの、本格的な軍事行動に踏み切るという判断は、容易ではないと思われます。一方、イランは米国の制裁によって国内経済が悪化しており、また軍事力では米国に及ばないことなどを勘案すれば、基本的に米国との軍事衝突は念頭に置いていないと推測されます。
したがって、米国とイランの対立は威嚇の応酬にとどまり、大規模な衝突には至らないとの見方が広がれば、金融市場は次第に落ち着きを取り戻すとみています。ただ、それでも政治的、軍事的な問題は総じて見通しにくい部分が多く、今後の米国およびイランの動向は慎重にみておく必要があると考えます。そのため、金融市場もしばらくは神経質な動きが続くと予想されます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「米・イラン緊迫」…金融市場の混乱はいつまで続くのか?』を参照)。
(2020年1月6日)
市川雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト