※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2014年6月20日に公開、2019年12月25日に加筆の上再掲載されたものです。

「市場の効率性」は関係あるか?

運用業界にとって不都合だが、強力な事実がある。(事実1)アクティブ運用の平均はインデックス運用に劣る、(事実2)優れたアクティブ運用を「事前に」見分けることはできない、の2つだ。

 

これは、米国などの外国でも、あるいは日本の投資信託などでも変わらない。2つの事実を論理的に組み合わせると、「アクティブ・ファンドに投資することは経済合理的ではない」という反論できない結論が出る。これは、手数料がより高いアクティブ運用を売りたい運用業界にとって不都合だし、対面営業の証券会社のセールスマンのような手数料の高い投資信託を売りたい人々にとっても具合が悪い。

 

では、なぜアクティブ運用は、インデックス運用に勝てないのか。

 

よくある説明は、市場が効率的で、株価は情報を短期間に織り込んでおおむね正しく形成されており、アクティブ運用にはチャンスがないのだ、とする金融論の教科書で「市場の効率性」と呼ばれる概念を持ち出すものだ。

 

確かに、情報が瞬時に反映して株価が常に正しく形成されているような世界では、アクティブ運用にチャンスがないことは分かる。

 

しかし、内外の株式市場では頻繁に大規模なバブルが発生するし、現実に、個々の銘柄のリターンが大きく異なる事から見ても、市場全体のレベルでも、個々の銘柄の株価のレベルでも、「市場が効率的なので株価形成はおおむね正しい」とする世界観に違和感を覚える人が多いだろう。

 

「私どもは、株式市場が常に効率的だとは考えていません。アクティブ運用には、十分チャンスがあります」とアクティブ運用者やファイナンシャル・アドバイザーなどにいわれると、うなずいてしまいたくなる。だが、これは、「市場が効率的」という極端な状態を対立仮説に祭り上げて、反感を上手く引き出した、アクティブ運用側の作戦なのだ。

 

筆者の思うに、たぶん市場は「効率的」ではない。しかし、市場が効率的であるか否かは、インデックス運用とアクティブ運用の優劣にほとんど関係ない。

 

残念なことに、市場が非効率的であるとしても、アクティブ運用側がダメな理由が少なくとも2つあるのだ。

11人のファンドマネジャー・モデル

状況を分かりやすく説明するために、投資家は、11人のファンドマネジャーだけで、彼らが運用パフォーマンスの競争をしているという状況を考えてみよう。この中の、1人が(ミスター・アベレージと名付けよう)、アクティブに運用する残り10人(アクティブ10人衆と名付ける)のポートフォリオを知ることができて、彼らの「平均」(以下、正確には金額加重平均)のポートフォリオで運用することに決めたらどうなるだろうか。

 

架空世界「11人のファンドマネジャーだけの市場」

 

ミスター・アベレージの身に起こるのは、以下のような状況だ。

 

(1)単年のパフォーマンスでは、ほぼ毎回「無難」な結果が出る。順位の期待値は11人中6番前後だ。相対的にひどく悪くはなりにくいので、スポンサーからクビにされるリスクはごく小さい。

 

(2)残りの10人はお互いに持ち株を売買するが、ミスター・アベレージは売買の必要がない。長期的には売買に掛かる手数料が無い分だけ、ミスター・アベレージのパフォーマンスが有利になる。長期的には、11人中6位よりもかなり上位に来る公算が大きい。

 

(3)ミスター・アベレージのポートフォリオは、傾向として他の10人よりも投資銘柄とウェイトが分散化されたものになるので、「シャープ・レシオ」(金利を超過するリターンをリターンの標準偏差で割った比率)パフォーマンス指標による評価で有利になる。

 

(4)加えて、ミスター・アベレージの運用手数料が、他の10人のアクティブ・マネジャーたちよりも安いとしたらどうだろうか。ミスター・アベレージは顧客が得るリターンで見たパフォーマンス評価上ますます有利な立場に立つ。

 

そして、ミスター・アベレージのポートフォリオは、全上場銘柄で構成し時価総額ウェイトで作った株価指数に連動するインデックス・ファンドと同じだ。

市場が非効率的でも強い!

さて、前記の(1)から(4)が生じるに当たって「市場が効率的」であることが説明に使われていないことに気づいて欲しい。ミスター・アベレージのようなインデックス運用は、市場が効率的であってもなくても強いのだ。

 

運用業界にとって不都合な2つの真実のうち、アクティブ運用の平均がインデックス運用に勝てない(事実1)は、必然的に起こる。

 

アクティブ運用ビジネスにとって真の問題は(事実2)の方なのだ。11人のファンドマネジャー・モデルに即していうなら、(A)アクティブ10人衆の中で安定的かあるいは予測可能な優劣があるか否か、(B)仮に予測可能な優劣があるとしても第三者がこれを見分けることができるか、の2点が問題だ。

 

仮に市場が効率的であれば、アクティブ運用のチャンス自体が存在しないのだから、(A)が成立しないことが自明だ。

 

一方、市場が効率的(株価形成が正しいという意味で)でなくとも、アクティブ10人衆の持つ情報や能力に差が無い場合、彼らはランダムに勝ったり負けたりする可能性が大きい。

 

また、曲がりなりにも運用のプロであるアクティブ10人衆がお互いの優劣が分からずに戦っている状況下で、「運用を他人に任せよう」と考える素人投資家やファイナンシャル・アドバイザーなどが、10人衆のうち、次に勝つ確率が大きいのは誰かを見分けられる能力があると考えることにはリアリティが乏しい。

 

仮に、10人の中に安定した優劣関係があって、第三者がこれを知るようになると、資金は優秀なファンドマネジャーのところにだけ集まって、他のファンドマネジャーは遠からず失業するだろう。

 

しかし、そのような事は、現実には起こっていない。

 

完全な証拠固めができた訳ではないが、市場は非効率的であり株価の間違い(ミスプライシング)は頻繁に起こっているが、運用者の能力はこれを直ちに修正できるほど高くなく、かつ運用者間の優劣は安定せず、第三者に運用者を見分ける能力などない、といった状況が、日本の株式市場でも、米国をはじめとする外国のマーケットでも実態に近いのではないかと思われる。こう考えると現実の全てに得心がいく。

 

加えて、こうした状況下で、まして手数料が低廉で売買コストが小さいのだから、インデックス運用がアクティブ運用に勝ちやすいことは明白だ。

 

加えて、11人のファンドマネジャー・モデルで考えていただくと、運用パフォーマンスの競争にあっては、「ライバルの平均」を持つ事が有利であり、特別に有利な情報が無い場合のセオリーであることがお分かりいただけよう。現実に、アクティブ運用は、ビジネス的な利害からも、「ライバルの平均(となるポートフォリオ)」を意識して行われている。

 

付け加えると、大きな年金基金などが、アクティブな運用者をたくさん雇った場合、彼らが運用するポートフォリオの合計はインデックス・ファンドに近づいていく。例えばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような巨大基金が十数社ものアクティブ運用機関を雇うとすると、それは実質的に委託金額の大半がインデックス運用で代替可能な無駄であり、多くのアクティブ運用者により高い運用手数料を払っているとすると、それは運用会社に対する慈善事業に近い。

 

ともあれ、読者は、インデックス運用の優位性は、市場の効率性の正否のような高尚な(?)議論とは別次元の、もっと頑健な原理によって成立していることを理解されたい。

 

【追記】

 

インデックス運用が有利なのは、(1)運用ゲームにおいてライバルの平均を持つことの有利性と、(2)余計な経費(信託報酬も、ファンド内の売買コストも)が掛からないこと、の2点によるもので、巷間よく言われる「市場の効率性」は無関係だ、ということが本稿で言いたいことです。

 

現実の市場は非効率的だと思いますが、アクティブ運用の側にこれをコンスタントに利用できるスキルがないのが現実でしょう。もっとも、そんなに凄い「スキル」が本当にあるなら、もったいなくて他人のお金なんか運用できない!

 

山崎 元

楽天証券経済研究所

 

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2014年6月20日に公開、2019年12月25日に加筆の上再掲載されたものです。

 

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