家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。亡き母親名義の実家を売却したいが、名義の書き換え等をしなかったため、現在の権利者は自分と義兄の2名に…。近年起こりがちな問題ですが、どのような対処法があるのでしょうか?不動産専門の弁護士が解説します。※本記事は、弁護士法人横浜パートナー法律事務所の山村暢彦弁護士の書き下ろしによるものです。

「広すぎる実家を処分したい」という、よくある相談

相続にまつわる案件にかかわっていると、意外なことが躓きの原因になっていることを知り、驚くことがあります。また、問題自体はシンプルでも、時間が経過することで収拾がつかない事態へと進展する場合もあるため、注意が必要です。

 

数年前に取り扱った相続関連の案件で、印象深かったものをご紹介したいと思います。

 

相談があったのは、実家の売却についての案件でした。そもそもは、不動産会社に寄せられた「母親が亡くなったので、広すぎる実家を売ってしまいたい」という依頼で、亡くなった母親の長男からの話が発端でした。権利関係の問題があるため、不動産会社を介しての弊所への依頼となったのです。

 

調査してみると、母親が亡くなったのはしばらく前で、その際の相続発生時に必要な処理がなにもされておらず、問題の実家は「そのままでは売れない不動産」になっていました。ただ、所有者が死亡したあとに相続人から放置されている不動産は多く、それ自体は決して珍い話ではありません。最初に不動産会社から弁護士に相談があったときには、「よくある、シンプルな相続問題」という印象でした。

 

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しかし、よくよく話を聞いてみると、母親には相談者である長男のほか、長女(姉)もおり、母親が亡くなったあとに相続の手続を完了させず放置していたところ、その長女(姉)も亡くなってしまったため、結局、長男と、長女の配偶者が、それぞれ50%ずつ実家の不動産を共有している、という状態になっていることが判明しました。

 

母亡き後、実家は相談者&義兄の共有となっていて…

それでもなお、法律的にはシンプルな話で、相談者は長女の旦那さんから半分の権利を譲ってもらい、実家の権利を100%にすれば売却できる、というものです。当初は「本人同士で話をするように」とアドバイスするだけに留めたのですが、しばらくのち、長男の方から困り果てた様子で、「どうやっても埒が明きません、弁護士のほうで話をまとめてもらえませんか?」という依頼が入りました。

 

くわしく話を聞いてみると、長男の方は、

 

①家の半分の権利を、市場価格の半分より安く譲ってもらうよう、義兄に交渉してほしい

②相続手続やそれらにかかる費用、税金等について、どうしても義兄の理解が得られない

 

という意向・状況であることがわかりました。

 

筆者からは、「安く譲ってもらうのは、相手次第だから保証できませんが、手続が複雑で話が進まないならば、間に入って調整しますね」と伝えて代理人となり、話を進めていきました。

 

長女の旦那さんと話をしてみると、実家の権利にはあまり関心がない様子で、「自分も相続する実家がありますし…」と、と金銭的なこだわりは見せませんでした。ただ、しきりに言っていたのは、費用の心配です。

 

「相続には手続費用がかかると聞いています。税金などの支払いが発生するのは嫌なので、それらの費用がかからないように、長男のほうでもってほしいです」

 

ということでした。筆者の想像とは異なり、亡き奥様の実家の不動産の価値には頓着しておらず、こだわっていたのは「手持ちのお金を出したくない」という1点だけだったのです。正直なところ、「なるほど、こういうところでも手続が停滞するのだなぁ」と筆者自身も勉強になりました。

 

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今回の相続手続では、まず、①母親が亡くなったためにその登記を移す必要があり、次に②亡くなった姉の登記を移す必要があります。さらに今回の話がまとまれば、③長女の配偶者から長男に登記を移す必要があります。

 

これらには、すべて登録免許税と、司法書士の費用がかかるのですが、その話を長男さんが上手く説明できなかったようです。さらに、よく言われる相続税がどうなるのかの説明が必要でした。

 

今回、実家の不動産も査定額で2000~2500万円程度で相続税が発生する状態ではなかったのですが、それらの調査と説明も必要な案件でした。

相続後に放置すれば不動産の権利は強制的に分割される

結局、今回のケースでは、弁護士である筆者が代理人として話すことで、特段問題はなく、スムーズに解決できました。もっとも、相続手続自体は、慣れていない方には当然複雑ですし、今回の案件のように、どんな家庭でも生じうる問題なのだということを、改めて認識することとなりました。

 

現在では、相続が発生すると法定相続人(一般的には子どもや孫)へと相続されていきます。昔の家父長制度とは異なり、長男だけに不動産を相続するのではなく、きょうだい間の平等を実現するのが、現在の相続制度です。

 

ただ、今回のケースを見れば明らかなように、相続が発生すると、遺言書などで対策をしていない限り、強制的に権利が分割されてしまうため、遺産分割協議や登記といった手続きを踏まないと、不動産の権利が際限なく細分化され、最後には「塩漬け不動産」ができあがってしまいます。

 

本件では、長男と義兄の2人に権利が分割されていたのみだったため、しっかりと100%の不動産に整理することができました。しかし、もっと年月が経過して、相談者の子どもの世代になったら、はたして権利者はどれほど増えるでしょうか。

 

最近では、本件のような状況が繰り返されて権利の細分化が進んだ、処理しきれない不動産が生まれています。同時に、空き家問題も大変な勢いで増加しています。

 

どのような事情であれ、不動産の共有や権利の分割は避けたほうがよく、早めの権利の整理が重要です。そしてそれが、ゆくゆくは空き家問題の抑止にもつながっていくのです。

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)

 

山村法律事務所

代表弁護士 山村暢彦

 

 

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