中小企業のM&A…売手企業は勇気を持って「情報開示」を

2019年2月、経済産業省が発表した調査によると、今後10年間で、70歳を超える中小企業経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人、日本企業全体の3分の1が後継者未定といわれています。本記事では、「後継者問題」に悩むオーナー社長のために、中小企業M&Aの専門家である坂本利秋氏が、会社の売却スケジュールとその留意点について解説します。

複数の買手候補から、多くの質問が届いてしまい…

前回まで、買手候補への打診方法について解説しました(関連記事『会社を売りたい…絶対に選んではいけないM&A支援会社の特徴』参照)。今回は、打診先から反響があった後の対応についてお話します。

 

①打診先からの反響と追加質問への対応


打診時に使用した匿名シートは先述のとおり、売手企業の最低限の情報を開示したもので、絶対に企業が特定されない内容になっています。それでも、業種、商圏、規模から買手候補が自社の買収方針に合致するかの判断ができるのが匿名シートの価値です。

 

皆さんが売手専門の支援会社と契約していることを前提としますが、匿名シートは売手専門の支援会社から、買手の支援会社、さらに買手候補へとリレーされます。買手候補が匿名シートに興味を持つと、さらに検討を進めるために必ずいくつかの重要な質問が出てきます。この段階では、複数の買手の支援会社へ声を掛けることが一般的ですから、複数の買手候補から複数の買手支援会社を通して、多くの質問が来ることになります。

 

よって、売手専門の支援会社の大事な仕事の一つが、これらの質問をリスト化し、似たような質問は一つにまとめる、回答の必要性が低いものは優先順位を下げることです。あまりよろしくない支援会社だとこの辺りの交通整理ができず、そのまま売手企業へ丸投げすることもありますので注意しましょう。

 

必ずといってもいいほど、出てくる質問をいくつか紹介します。

 

●売手の社名


●具体的な売却価格の目安、もしくは下限


●方法は100%の株式売却のみか


●売却後の代表者の希望処遇


●直近3期の主要顧客、外注先の上位5社の社名とその金額


●所有不動産リストと時価情報


●直近の組織図、運営体制


●従業員リスト(匿名、雇用形態、給与、年代、保有資格など)


●退職金規定有無と退職金の積立状況


●借入金(金融機関、長短の分類、金額、返済実績、担保有無等)

 

一部は回答せずでもいいですが、買手の詳細検討にはどうしても必要な情報ですから、可能な限り回答するのが基本姿勢といえます。


回答の仕方は主に2種類あります。


1.質問回答表を作成し、そこに都度回答を記入


2.企業概要書(IMとも呼ばれます)をあらかじめ作成

 

企業概要書は、想定される質問への回答をあらかじめ資料としてまとめたものです。


少し変ですが、一般的な会社概要に売却希望価格、主要取引先、匿名での社員リスト等を追加したものが、M&Aの世界でいう企業概要書のイメージです。


中小企業の売却支援の現場では、売手がある程度以上の規模だと企業概要書を作成するのが一般的になってきます。

 

②機密保持契約の締結


当然ですが、ここでは必ず社名を明かしますし、財務データなども開示しますので情報漏洩対策が必要になります。企業概要書や個別質問への回答前に、必ず秘密保持契約書を締結します。他にも機密保持契約書、NDA、CAといったりしますが一緒と考えて構いません。双方で秘密・機密の保持を約束し、漏洩時には損害賠償するぞ、まで盛り込まれたものです。

 

これらの双方での約束形式だけでなく、機密保持誓約書等のように買手から売手へ一方的に差し入れることもあります。さすがに、これを忘れる売手支援会社はないとは思いますが、自衛のために必ず秘密保持契約の締結を確認してください。

 

打診後の回答が一通り終わると、今度は買い手候補がそれぞれ資料と回答を分析した上で、正式に買収意向の有無と金額などを表明する工程に移ります。各社で決裁機関が異なりますが、取締役会、投資委員会等で正式に決定し、買手企業の代表者名で意向表明書という紙が提出されることが一般的です。買手候補も相応な人数と時間をかけて検討し、さらに代表者名で書面提出しておりますので、絶対に恥をかくわけにはいきません。恥とは、提出したものの、売手から瞬時に断られる事態です。

 

よって書面提出前に内々で、買手の支援会社を通じて、売却希望額には届きませんがこの金額でも検討可能ですかと聞かれることが多々あります。このように買手が意向表明を出すには、相応の労力とそれなりの覚悟が必要ということを売手も覚えておいてください。

 

売手企業「情報開示したくない」買手企業「恥をかきたくない」
売手企業「情報開示したくない」買手企業「恥をかきたくない」

情報開示しなければ虎子を得ず?

③虎穴に入らずんば虎子を得ず


それでも、売手企業が極端に情報開示に消極的なことがあります。情報漏洩を心配するのもよくわかりますが、このような企業へは意向表明が出にくいものです。情報が少なくそもそも金額算出ができないケースの他、悪い情報を隠蔽しているかもしれないからこれ以上検討に時間をかけるのは止めようとなります。

 

思い出してください。信頼のおける売手専門の支援会社と契約をし、打診リストを精査してNG候補先は削除し、さらに機密保持契約を締結したはずです。売却を進めるなかで情報開示は不可避です、慎重ながらも勇気を持って進みましょう。

 

大事なことを失念していました。匿名シートによる打診から意向表明までの目安は1ヵ月間です。規模が大きい会社、回答が遅い場合等はもう少し伸びることがあります。

 

【まとめ】


●匿名シートのあとには詳細情報の開示が不可避


●機密保持契約は必ず締結

 

●虎穴に入らずんば虎子を得ず
 

 

坂本 利秋

認定事業再生士(CTP)

株式会社喜望大地 常務執行役員

 

認定事業再生士(CTP)
合同会社スラッシュ 代表

東京大学大学院工学系研究科卒業。日商岩井(現双日)にて、数千億円の資産運用を経験。その後、ITベンチャー企業に転身。国内初SNS企業の財務執行役員に就任し、その後上場企業に売却、30代で三井物産子会社の取締役に就任し企業成長に貢献、グループ売上高1,000億円の上場IT企業の経営管理部長として企業再生を行う。

中小企業の経営者のためだけに徹底的に支援したいという思いから、2009年より中小企業の売却、事業再生支援を行う。トップ地銀から指名され、複数の戦略融資先の取締役に就任、ハンズオンでの支援を行う。

著者紹介

連載「後継者問題」に悩むオーナー社長のための事業承継対策

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