多額の連帯保証が残る事態も⁉「自力」の会社売却が難しい理由

2019年2月、経済産業省が発表した調査によると、今後10年間で、70歳を超える中小企業経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人、日本企業全体の3分の1が後継者未定といわれています。本連載では、そのような「後継者問題」に悩むオーナー社長のために、中小企業M&Aの専門家である坂本利秋氏が事業承継対策について解説します。今回は「会社の売却」がテーマです。

早く売りたい気持ちが相手に伝わると、足元を見られる

何を売りたいかによって、売却に要する時間はもちろん異なります。たとえば、トヨタ自動車株は取引所ですぐに売却でき、トヨタ車も1週間程度あれば売却可能でしょう。不動産も価格とエリアにもよりますが、6ヵ月あれば売却できそうです。

 

それでは、会社の売却にはどれくらいの時間がかかるかというと、1年程度要するのが一般的です。肌感覚では、売却した会社のうち90%が6ヵ月から18ヵ月の間におさまります。ですから、売却期日がある程度決まっているのであれば、逆算して動く必要があります。

 

商売の常ですが、早く売りたいという気持ちが相手に透けて見えると、足元を見られる、つまり安く売却せざるを得なくなりますので注意ください。

 

ここからは「売活」の初期段階で重要な支援会社の選び方の話をしましょう。

 

1.支援会社を使う

 

そもそもM&Aの支援会社を使わず、当事者間のみで売買を行うケースもありますが、おすすめしません。

 

支援会社を利用するメリットは、大きく2つ。

 

1つ目は、売却で失敗しないためには、会社売却に関する専門的な知識と経験が必要となるためです。買い手側が、ノンネームシート、IM、CA、MOU、DDなどという専門用語を使った説明をすると、ほとんどの経営者が内容も理解できません。残るはエイヤで断ってしまうか、モヤモヤを残しながら買い手の条件を飲むかの2択です。一生に一度の最後の決断がこれでいいはずがありません。

 

また、両当事者に知識がない場合には、売り手社長の個人連帯保証の解除が契約に盛り込まれない等の致命的なミスも散見されます。株式を3億円で売却できても、会社の借入5億円の個人連帯保証が残ったままという意味です。株式売却後に経営へ一切タッチできず、しかし新社長が経営に失敗した場合には、個人に5億円の返済請求がくる。いくら何でも理不尽でしょう。

 

2つ目は、経済性ではなく、わだかまりの問題です。売り手は1円でも高く売りたいのは当然ですが、買い手も1円でも安く買いたいのです。

 

そうなると、買い手は売り手企業のあら捜しをしてでも、価格を引き下げようとします。両社長が懇意だとして「お宅の会社は、粗利率が当社より5%も低いからこんな価格では買えませんよ」と買い手社長から直接言われたらカチンと来ませんか。もっと激しいバトルもあります。

 

最後にどうにか条件が合意されて、会社を売却できたとしても先方社長とわだかまりが残るのは確実です。最悪なのは、バトルの末に売却が流れたケースです。相手が取引先であれば、わだかまりが残ったまま取引継続か、もしかすると取引が停止になるかもしれません。

 

支援会社を利用するデメリットは、費用だけといってよいでしょう。それでも、売買金額の5%程度が一般的です。消費税未満の金額で先のメリットがあるのですから、支援会社を使うことを強くおすすめします。

「仲介会社」を使ってはいけない理由とは?

2.支援会社を選ぶ

 

新聞で目にするような大企業同士のM&Aの裏側では、支援会社が間違いなく動いています。ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、野村証券、みずほ銀行などの専門部隊が売り手もしくは買い手の支援をしています。

 

ここで重要なポイントが2つあります。1つは有名な大企業が支援をしていること。もう1つは、仲介のように売り手、買い手双方を同時支援することはなく、売り手が買い手のどちらか一方のみを支援していることです。

 

仮に、筆者個人がメガバンク同士のM&Aで双方支援(仲介のこと)をしたとします。無事合併が成功して、初めての売り手側の株主総会が開催されました。

 

「社長にお聞きします。ゴールドマンサックス等の会社ではなく、あえて個人に依頼した合理的な理由を説明してください」

 

「株主としては1円でも高く売ってほしい、相手は1円でも安く買いたいという状況で双方支援はおかしいんじゃありませんか。いわゆる利益相反でしょう。そんな契約を誰の責任で締結したんですか?」

 

こんな風に荒れること必至で、間違いなく社長は退任でしょう。多くの大企業の社長がオーナー社長でなく、サラリーマン社長ですから安全策を取ります。

 

つまり支援会社は一流企業を選びます。もし、支援会社を原因とする不具合が起きても、あの会社に依頼しても発生したならまあ仕方ないかとなります。少なくとも社長の首は守れそうです。同様に、株主の利益を守るのが経営陣の仕事ですから、利益相反の可能性のある仲介会社に依頼することはあり得ません。万が一、筆者個人に仲介を依頼したら、社長退任は当然として、株主代表訴訟まであり得ます。

 

今度は、大企業同士のM&Aでなく中小企業のM&A市場を見てみると、仲介支援のほうが一般的です。残念ながらゴールドマンサックスは、中小企業のM&A手数料では採算が合わないため登場しません。

 

売り手が中小企業でも、買い手が大企業というのがよくある組合せですが、ここで皆さんが仲介会社のコンサルタントだと思ってください。中小企業は生涯たった1度の取引で、買い手の大企業は将来にわたり何度も取引が期待されます。いうなれば、中小企業はスポット客、大企業は継続客です。さて、どちらが重要客でしょうか。

 

もう1つ。中小企業はM&Aに関する知識がほとんどありませんが、大企業は専門部隊を持つほど知識・経験が豊富です。どちらが手ごわいですか。

 

仲介会社のコンサルタントはおそらく個人予算が設定されており、少しでも多くのM&A手数料を稼ぎたいはずです。自身の実績最大化のために優遇すべきは中小企業ですか、大企業ですか? 完全に中立というコンサルもいらっしゃるかと思いますが、大企業に肩入れしてしまいがちではないでしょうか。少なくとも、大企業に肩入れするインセンティブはありそうです。

 

M&A業界に限らずですが、知識もないスポット客と、知識も豊富な継続客に同じ条件は出さないですよね。継続客を優遇するのは、当たり前に行われています。大企業を優遇するとは、すなわち実力値より低い価格で売買がなされることにつながります。中小企業から見たら、損をするということです。

 

前置きが長くなりましたが、中小企業の売却でも、仲介でなく売り手側だけの支援をする会社を選ぶべきです。仲介と比べるとまだまだ数は少ないですが、探せば必ず何社かあります。

 

【まとめ】


自力での売買は勧めない。支援会社を積極的に使おう

支援会社は仲介でなく、売り手のみを支援する会社を選ぶこと

 

 

坂本 利秋

認定事業再生士(CTP)

株式会社喜望大地 常務執行役員

 

認定事業再生士(CTP)
株式会社喜望大地 常務執行役員

東京大学大学院工学系研究科卒業。日商岩井(現双日)にて、数千億円の資産運用を経験。その後、ITベンチャー企業に転身。国内初SNS企業の財務執行役員に就任し、その後上場企業に売却、30代で三井物産子会社の取締役に就任し企業成長に貢献、グループ売上高1,000億円の上場IT企業の経営管理部長として企業再生を行う。

中小企業の経営者のためだけに徹底的に支援したいという思いから、2009年より中小企業の売却、事業再生支援を行う。トップ地銀から指名され、複数の戦略融資先の取締役に就任、ハンズオンでの支援を行う。

著者紹介

連載「後継者問題」に悩むオーナー社長のための事業承継対策

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