ペーパーレス化は「産業革命」に匹敵する変化だが…
私たち人類はその知恵と努力を傾けて、多くの変革をもたらしてきました。中でも産業の分野では、数度にわたって歴史的な変化を起こしています。
蒸気機関の発明は工場の動力源になるだけでなく、蒸気船や蒸気機関車を生み出し、海と陸の交通を大きく発展させました。石油と電力の利用は世界を明るく、スピーディに変える力を発揮しました。さらにITの登場により、ビジネスは急速に加速し、私たちの生活はより便利で快適なものになりました。
ペーパーレス化は、これら一連の変革に匹敵するものであり、まさに「産業革命である」と私は捉えています。
ですが一連のできごとを振り返ってみると、そこに大きな違いがあることが分かります。それは、変革のスピードです。
最初の変革である蒸気機関は、17世紀頃から多くの試作品や模型が作られ、実用化されたのは18世紀に入ってから。それが船や機関車として広く普及するようになったのはさらに後で、実にゆっくりと発達・浸透していきました。石油や電力にしても、おおよそ100年ほどかけて実用化され世界中に普及していきました。つまり、人々が十分についていけるスピードで、変化が進んでいったのです。
ところがITの登場によって、この変化のスピードが様変わりしていきます。
急速な変化についていけるかどうかが「格差」となる
インターネットが登場し、それとともに一般家庭にPCが普及してきて、多くの人々にとってPCが身近なものになりました。同時進行で通信インフラが整備されていくと、多くの企業がネットを使って情報発信したり、商品の販売やサービスの提供を行うようになりました。「ほしい情報がすぐに見つかる」「家から出ずに買い物ができる」その便利さに人々は惹きつけられ、それがさらなるネットサービスの充実へとつながっていきました。
この循環が短期間のうちに行われたのがIT革命でした。その流れは今も休むことなく動き続け、ペーパーレス化への波となってビジネスシーンに押し寄せています。
この急速なスピード感についていくのは、少々たいへんかもしれません。ですがここを乗り越えられるかどうかで、その先に大きな開きができてしまうでしょう。
ここ数年、日本では「所得格差」という言葉がひんぱんに使われています。国民全体の貧富の差が広がり、二極化しつつある、というのです。これを他人事のように感じていてはいけません。企業でも「変革の波に乗れるか乗れないか」によって、その先に大きな格差が生まれる可能性があるのです。
大きな変化を受け入れるには、「意識の改革」が必要
少々、脅かすような物言いをしてしまいました。ですがこれは、皆さんに危機感を持っていただきたかったからです。
私は企業のペーパーレス化について講演会や講習会を行ったり、経営者の方々に個別にお会いしてお話ししたりする機会がとても多いのですが、ほとんどの方が、私の話を理解し、賛同してくださいます。
「確かにそうだ、今後はそういう社会になるな」
ところが実際にアクションを起こすかというと、皆さんなかなか腰が重いのです。なぜなのでしょう? すでにお話しした「日本的情緒」もあるのでしょうが、そこには「意識の変革ができない」ということも影を落としているかもしれません。何らかの大きな変化を受け入れるとき、人は意識の変革を迫られます。
「買い物は地元のスーパーで」という意識を持つ人にとっては、ネット通販など思いもよらないでしょう。「わざわざ送料を払ってまで、馬鹿らしい」と思うかもしれません。ですが地元のスーパーに置いていないものが欲しいとなれば、この人は電車に乗って、大きなショッピングセンターまで買いに出かけるのです。電車賃と時間を使って。そしてあれこれ探し回ったあげく、ようやくお目当ての品物を見つけ、再び電車で帰ってきます。
それならネットで検索して買ったほうが、はるかに効率が良いではないですか。ほんの数分で買い物が終わりますし、空いた時間で別のことができます。
IT革命とペーパーレス化への変革は、きわめて短期間のうちに起こりました。そのため多くの経営者が、意識の変革が追いつかないまま「導入したほうが良いことは、分かっているんだが…」とばかり、為す術なく右往左往しています。
まずは、その意識を変えることです。
今後も企業として生き残るためには、業務の効率化は不可欠だ。そのためにペーパーレスの導入は必須だ。そこまで理解できれば、「ペーパーレス化は必然の流れだ」と感じ、その一歩を踏み出さない理由はない、と考えるはずです。
横山 公一
ペーパーロジック株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
公認会計士・税理士