日本のビジネスマンが「紙に触れている時間」は、1日3時間

帳簿や記録など、これまで紙で保存しておいた情報をデータ化する「ペーパーレス化」。ペーパーレス化が進む海外諸国と比べ、日本は遅れを取ってしまっているといえます。対して、自社は先駆けてペーパーレス化に取り組めていると思っていたら、間違った方法を行ってしまっているケースも。本記事では、ペーパーレス化普及に取り組む横山公一氏が、日本におけるペーパーレス化の現状を解説します。

見積書、提案書、請求書…「紙」である必要は?

私がペーパーレス化の推進を訴えるのは、まさに今がペーパーレスへとシフトしていく絶好の機会だと考えるからです。

 

少子化によって今後も人材不足が続く中、日本企業は軒並み業務の効率化を迫られています。短時間で、より有益な業務を数多くこなし、利益を上げていく。それができるかどうかによって、企業の成績は大きく左右されていきます。生死を分けてしまう、と言っても過言ではないでしょう。そして業務の効率化は一朝一夕で達成できるものではありませんし、何かのツールやシステムを入れたからといって、実現できるものでもありません。業務全体にわたる、幅広い範囲で効率化を考えなくてはならないのです。

 

何度も言いますが、AI、RPA、ブロックチェーンなど、ICT環境は大きな規模でかつスピーディーな速度で変革していきます。それらの変革に対応するためには、何は無くとも前提として、ビジネスデータをペーパーレス化・電子化することが大前提になります。

 

ただ、ペーパーレス化には時間がかかります。時間というよりも、数段階のステップを踏んでいく必要があるのです。

 

<ペーパーレス化のステップ>

①資料や通知など、社内で使う資料をデジタル化する

②社内での保存用書類をデジタル化する

③税務書類や各種申請書、届出書などをデジタル化する

④他社とやりとりする書類をデジタル化する

 

 

まず会議用の資料や回覧など、日常的に社内で使う書類をペーパーレス化し(①)、次にこれまで書類として保存していたものをペーパーレス化します(②)。次に行政とやりとりする税務書類などをペーパーレス化して(③)、さらに他社と取り交わす書類もペーパーレス化していきます(④)。当然、法的要件をすべて具備した形、デジタルデータを原本化した状態でです。

 

①は最も手軽に始められますし、②もさほど難しいものではありません。③については、まだまだ遅れている面はあるものの、税務関係の届出などはペーパーレスで手続きできるよう、行政の対応が進んできました。④は相手があることなので簡単ではありませんが、まずは見積書や提案書、請求書あたりからペーパーレス化を進めていって、ゆくゆくは契約書もデジタル化できると良いでしょう。

 

企業の効率性、生産性を高めたいという狙いもあって、政府は積極的にペーパーレス化を推進しています。法的な制度整備もされていますし、ペーパーレス化により印紙税が不要になるなど、メリットも用意されています。

コスト削減が効率化を果たし、生産力の向上に繋がる

ペーパーレス化によって何が変わるのか。どのようなメリットが生まれるのか。ここであらためて整理しておきましょう。

 

<ペーパーレス化によって生まれるメリット>

・経費削減

・生産性の向上

・内部統制の強化

 

この三つは、ペーパーレス化によって生まれる最も大きなメリットです。しかも、それぞれがお互いにリンクする部分も持ち合わせています。では具体的にどのようなメリットがあり、どのような変化が起こるのか。その具体例を、それぞれに見ていきましょう。

 

ペーパーレス化で得られる最も分かりやすいメリットが、コストの削減です。これには直接的なコストと間接的なコストがあります。

 

●直接的なコスト

印紙税、プリンタの稼働数(用紙・インク)、紙での流通コスト、保管コストなど

 

●間接的なコスト

各種書類の作成・管理に関わる人件費

 

これだけ? と思われるかもしれませんが、これはあらゆる業種、ほとんどの企業で実感できる、ペーパーレス化によるメリットでしょう。「プリンタの稼働が減る」あたりは「その程度のことを…」と思われるかもしれません。ですが状況によっては、これも決して馬鹿にできないレベルの話になります。

 

たとえば医薬品開発の現場では、多くの試験・治験を繰り返して製品化を進めますが、その過程で提出する報告書が、今もデジタル化されていないそうです。そしてその紙の量が、年間換算すると山一つを丸ごとはげ山にしてしまうほどの、膨大な木材を使っている、といいます。この件についてはさすがに時代に逆行しますから、各種のデータを電子保存するよう、厚生労働省が制度作りに動いているところだそうです。

 

紙を多く扱う会社では紙のコスト、それを流通させるための切手代などの通信費、紙を保管するための地代や外部倉庫を使用する際のコストなどが、かなりの金額になるのではないでしょうか?

 

また企業規模にもよりますが、企業がより直接的に実感できるのが印紙税でしょう。

 

高額な印紙税となると金銭消費貸借契約、不動産売買契約に関するものです。

 

会社間での取り交わす書類…たとえば契約書、中でも金銭消費貸借契約や不動産売買契約などには、高額の印紙の貼付が義務付けられています。契約金額によって額面は異なりますが、決して安いものではありません。契約件数が増えていけば、積もり積もってかなり大きな金額になります。大手の不動産会社などでは、年間数億円に達することも珍しくありません。

 

ところが電子契約では、印紙の貼付が不要なのです。そもそも印紙は「紙の原本に貼るもの」であって、紙の原本を作らない電子契約では貼付の必要はありません。1年間に印紙税として支出している金額は会社によって大きく異なるはずですが、ここが削減されるというのは大きなプラスです。

 

行政側としては、ペーパーレス化によって印紙税収入が減ってしまうのは一時的には痛いことかもしれません。ですが「印紙税が不要」というメリットによってペーパーレス化が多くの企業で実践され、コストを削減して事業の効率化を果たせば、企業の生産力は向上し、売上が伸び、税収も増える…ということになります。さらにそれが国全体に広がっていけばどうでしょう?

 

一企業だけでなく、国全体が活力を増していく。それがペーパーレス化によって実現するのです。

数字に表れない「間接的なコスト」こそ効率化のカギ

前項で挙げた「間接的なコスト」ですが、これは数字に表れるものではありませんので、意識しにくいかもしれません。ですがこの間接的コストこそ、業務効率化のポイントです。

 

たとえば紙の書類は、現物をどこかに保管しておかねばなりません。進行中の業務資料であればデスクの上にポンと置いておけばいいでしょうが、あまりに数が増えてくると「どこに何があるのか分からない」ということになり、探し回るのに10分かかった…ということが起こります。この10分間は、明らかに人件費の無駄使いです。

 

また契約書などの重要書類は金庫や鍵付きのキャビネットに保管しておくことになりますが、そこが総務の奥まった一室であれ資料室であれ、そこまで持って行かなくてはなりません。さらに閲覧制限がかけられている重要書類となると、閲覧申請をして、承諾を受けて、担当者の立会いのもとに書類を出して…という、厄介な手続きを踏むことになります。この一連の作業にもすべて、人件費がかかっているのです。

 

それよりも、最初から情報をデジタルデータとしておき、アクセス権を設定したほうが、はるかにスマートですし手間と時間の削減にもなります。もちろん金庫も鍵付きのキャビネットも不要ですし、書類を閲覧するのにわざわざ第三者が立ち合う必要もありません。ペーパーレス化によって、書類の管理に関わるコストを限りなくゼロに近づけることができるのです。

「作業効率」が業績を左右する時代…導入は不可欠

役員クラスは別として、現場に近いビジネスマンは資料や書類の作成に手を取られることが多いものです。

 

ミーティングの資料を印刷して綴じ、参加者に配る。顧客資料をまとめてプリントし、保管しておく。営業実績をプリントにまとめ、上司に報告する。各部署から渡される資料に目を通し、書き込む…。私の聞いたところでは、日本のビジネスマンが「紙に触れている時間」は、1日3時間にもなるそうです。もちろん、その時間すべてが無駄だというわけではありませんし、資料を読み込む時間などは、ペーパーレス化したからといってゼロになるわけでもありません。

 

ですが現状と比べれば、その時間はペーパーレス化によって大幅に削減できるはずです。

 

また別の調査では、ビジネスマンが仕事中の「探し物」に費やす時間は年間150時間にも及ぶといいます。これは「書類に触れる時間」とは異なり、まったくの無駄な時間です。1日の就業時間を8時間とすると18.75日。ほぼひと月分の出勤日数に相当する時間を無駄にしている計算になります。

 

日本では未だに多くの書類が紙媒体で管理されています。そのため検索性が悪く、「あの資料、どこにあったっけ?」とデスクやキャビネットを探し回ることもしばしば。顧客ごと、あるいは種類ごとにファイルで分類してもかさばりますし、「その他」のファイルばかりが増えてしまう…という結果になりがちです。

 

ここをデジタル化すれば検索性は一気に高まり、目当てのファイルに一瞬でたどり着くことができます。空いた時間を別の作業に使うことができ、時間も手間も削減され、業務効率を高めることができるのです。

 

今、日本企業のほとんどは慢性的な人手不足に陥っています。少子化が進み、若い働き手の絶対数は減るばかり。総務省統計局が発表している人口ピラミッドを見ると、2015年の時点で20歳から15歳までの人口がほぼ横ばい状態、14歳から0歳までの人口は年齢が若くなるほど減少傾向で推移しています。2018年の時点ですでに人材不足は深刻ですが、あと5年もすれば今以上に新卒人口は減り始め、人材不足にさらに拍車がかかるということになります。

 

[図表1]日本の人口ピラミッド (「平成27年(2015年)国勢調査(抽出速報集計)」総務省統計局)
[図表1]日本の人口ピラミッド
(「平成27年(2015年)国勢調査(抽出速報集計)」総務省統計局)

 

この状況で、これからどうやって業績を上げようというのでしょうか? 今、エネルギッシュに客先を走り回っている中堅営業マンは、10年、15年後も同じように動けるものでしょうか?

 

その点を考えただけでも、あらゆる場面での効率化は必須だと気付くはずです。そのためにはペーパーレス化の導入が必要不可欠なのです。

「紙の方が安全だ」という考え方は、もはや非常識

程度の差こそあれ、企業には「閲覧・操作できるメンバーを限定したい」という機密情報があるはずです。「機密」というととてもいかめしい表現ですが、社員の給与額や人事評価などは簡単に知られてはいけない情報ですし、他社との提携や合併に関する情報など、経営トップとその案件に関わるごく少数の人間以外には知られてはいけない情報もあります。

 

これらの情報を紙媒体で管理しようとすると、かなりのコストと手間がかかってしまうのはすでにお話しした通りですが、ペーパーレス化を実現すれば、最初の設定で万全の体制を敷くことが可能です。セキュリティの万全なサーバーにデータを保管しておき、必要なメンバーにのみアクセス権限を与えておけばそれで良いのですから。

 

「でも、デジタルデータだと流出の危険があるじゃないか」

 

そうした考えを持つ方もおられるでしょう。確かにその懸念はもっともです。報道を見ていると、外部からのハッキングだとか攻撃だというニュースが目立ちますが、実は情報セキュリティ事故の大半は「内部犯行」です。社内の人間がUSBを使って会社の機密情報を抜き取り、転売する、または自らの利益のために利用するといったことが起きています。

 

また、紙で保存された書類の誤廃棄や盗難も多く、デジタルだとか紙であるとか関係なく事故は起きています。しかも紙の文書が盗まれた場合や誤廃棄や無断でコピーがとられたとしても、エビデンスが残りづらいため、盗まれたことや情報がなくなったこと自体に気づかないこともあります。紙がデジタルデータよりも安全かというと、一概には言えないのです。

 

「紙の方が安全だ」という考え方は、もはや非常識であると、私は考えます。

「安全性」を追求するなら、ペーパーレス化が不可避

インターネットの草創期には、不正アクセスによる情報流出がひんぱんに起こっていました。ですがデータを守るセキュリティ技術も、日進月歩で進化しています。ことに顧客からのデータを預かるデータセンターでは、考えられる限りのセキュリティとバックアップ体制を整えています。彼らにとっては何が起こってもデータを守る堅牢性と信頼性が、そのまま自社の価値になるのですから、そこには充分以上の手間とコストをかけます。各企業が自前で用意する「自社サーバー」の比ではありません。

 

またエストニアのICTインフラの基幹を支える「ブロックチェーン」という技術も、デジタルデータの信頼性確保に大きく貢献しています。

 

ブロックチェーンについて語るとそれだけで一冊の本になってしまうのですが、その概略を述べると、多くの情報をひとまとまりのブロックにまとめ、それを鎖のように連結させたひとつながりのデータを作ります。

 

各ブロックの中にはそのブロックがいつ作られたかを示すタイムスタンプが捺され、どのブロックと連結しているかの情報が暗号のような数値となって記載されています。もしもブロック内のデータを改変すると、この連結部分の数値がまったく違うものに置き換わってしまうため、データ改竄(かいざん)されたことがすぐに分かります。アクセスログを併用すれば、その改竄を「いつ・どの端末から行ったのか」ということも明らかになるでしょう。

 

このブロックの連鎖を複数のサーバーで共有しておけば、中央集権的な管理者が不在でもデータの信頼性と安全性を保つことができる、というわけです。

 

[図表2]ブロックチェーン
[図表2]ブロックチェーン

 

ブロックチェーンから発展したスマートコントラクトなら、文字通りさらにスマートで能動的です。この場合、決済や所有権移転などの取引がなされると、その内容がデジタルデータとしてブロック内に保持されます。そして問題なく取引されれば、自動的に決済や所有権移転が行われます。決済機関も手続きをする者も不要になってしまう世界です。

 

このように、新たな技術は次々と開発され、デジタルデータの安全性は今も向上し続けています。紙媒体で情報を管理・保管していても、それがコピーされたり改竄されたりという可能性はありますし、そうなった場合、デジタルデータのように追跡することができません。しかし十分なセキュリティをかけた上でデジタルデータで管理・保管すれば、データの改竄に対して抜群の強度を発揮します。近年、日本では省庁や大企業でのデータ改竄という不祥事が頻発していますが、ペーパーレス化によって、そうした不祥事を抑え込むことも可能です。

 

財務省での文書改竄問題に関しては、2018年3月19日の参議院予算委員会でも取り上げられ、安倍首相自身が行政文書の電子決裁について「誰がいつアクセスし、どのような更新を行ったか、すべての履歴が残ることになるため、決裁文書を適正に保存する観点から有意義」と答弁しています。

 

「安全性」を追求するのであれば、「ペーパーレス化」は避けて通れない道なのです。

 

 

 

横山 公一
ペーパーロジック株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
公認会計士・税理士

 

ペーパーロジック株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
公認会計士・税理士 

1991年、監査法人トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務、関与先のABS発行の会計税務等を担当。
1999年、創業メンバーとして金融特化型の会計事務所を設立、代表パートナーとして同社を取扱ファンド数1,500、管理金額4兆円へと成長させ、金融特化型会計事務所としては国内最大手にまで成長させる。ファンド管理のスペシャリスト。

<略歴>
・学習院大学法学部政治学科卒業
・公認会計士 税理士
・一般財団法人日本情報経済社会推進協会 インターネットトラスト研究会委員
・一般財団法人日本情報経済社会推進協会 電子契約ワーキンググループ委員
・監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)出身

著者紹介

連載オフィスの生産性革命!電子認証ペーパーレス入門

本連載は、2018年10月13日刊行の書籍『オフィスの生産性革命! 電子認証ペーパーレス入門』(TCG出版)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

オフィスの生産性革命! 電子認証ペーパーレス入門

オフィスの生産性革命! 電子認証ペーパーレス入門

横山 公一(著)、久野 康成(監修)

TCG出版

「ペーパーレス化」=「PDF化」だと勘違いしていませんか? 「書類のPDF化」を、「法令準拠」と「データのデジタル化」と併せて行うことでこそ、真のペーパーレス化が実現可能なのです。 本書では、正しいペーパーレス化…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧