ペーパーレス化で「損をする」ことはなくても…
ペーパーレス化はほぼすべての企業で効果を発揮するものですから、導入して損をするということはないはずです。
ただしペーパーレス化を導入するのなら、より効果的な形で行うべきです。ペーパーレス化で「損をする」ことはなくても、導入に失敗する、あるいは導入したものの無駄になってしまう、ということはあり得るからです。そして導入に失敗する要因の多くは、次の五つです。
【導入失敗の要因】
●ペーパーレス化の目的が不明確
●経営層のコミットメント不足
●非現実的な導入プラン
●専門的知見、特に対応すべき法令・ルールに対する知見の欠如
●目的とミスマッチなシステムを選定してしまう
他にもこまごまとあるのですが、大きなところでいえばこの五つです。逆にこの五つをクリアしてしまえば、あなたの会社はスムーズにペーパーレス化を進めることができます。それは決して難しいことではありません。
アナログの無駄を削減して業務を効率化し、生産性を高め、コストも削減できるペーパーレス化。
まずは「取締役会議事録の電子化」から
さてここで、ペーパーレスシステムの導入に関連して、導入前後の注意すべきポイントや私自身が気づいたこと、考えていることについて、補足しておきましょう。
ペーパーレス化は「働き方改革」と同様、業務のあり方を大きく変えるものです。このような変革を組織全体で行うためには、経営トップのリーダーシップが欠かせません。しかし現場の作業負荷を身にしみて知っているマネージャーがいくら力説しても「役員クラスがなかなか腰を上げてくれない」ということもあります。そうした事例は、私自身も数多く目にしてきました。導入すれば一気に効率化できるのに、上がOKを出してくれない、というケースです。
そんなときは、まずペーパーレス化による「分かりやすいメリット」を見せることが重要です。私がお勧めするペーパーレス化のファーストステップは「取締役会議事録」の電子化です。
企業の役員は年配の方が多く、ITリテラシーがあまり高くない場合もあります。また保守的な意識が働いて「まあ、良いものだというのは分かるけど、現状でも困っていないから」などと、変化を避けようとする、ということもあるでしょう。
ですが議事録の内容を参加者全員が確認して電子署名をして…という作業は、手元のスマートフォン一つでできてしまいます。簡単ですし、手間も時間もさしてかかりません。
実際に体験してもらって「なんだ、ペーパーレス化って簡単だし、便利じゃないか」と役員たちがそのメリットを実感してくれれば、しめたものです。そこを足がかりに、軽減されるであろうコストや時間を示しつつペーパーレス化のメリットをアピールすれば、「よし、じゃあやろう!」という方向に誘導することも難しくないはずです。
実際に取締役会議事録の承認作業からペーパーレスシステムを使い始め、経営陣を納得させてトップダウンでペーパーレス化を進めていく…という企業は増えています。
既存のアナログ情報は、外部委託でデジタル化する
ペーパーレス化によって情報をデジタル化すると、さまざまなメリットを享受することができます。ですがここで問題になるのが、ペーパーレス化以前の、紙に記録された情報をどうするかということです。
結論からいえば、紙に出力した過去の情報は、すべてデジタル化しておきたいところです。そうすれば過去からの長期にわたる企業の変化を俯瞰できますし、ビジネスプランの作成にも大いに役立ちます。顧客に紐付いた情報であればなおのこと、できるだけ早いうちにデジタル化し、ペーパーレスのワークフローの中でいつでも活用できるようにしておくべきでしょう。
ただ、少々僭越ながら忠告させていただくならば、この「既存データのデジタル化」という作業を自社内で処理しようとすると、まず失敗します。あるいは、いつまで経っても終わりません。
私が知っている範囲では、こうした場合に経営者あるいは担当者の方が考えることはほぼ同じです。
「日常業務の合間に進めればいい」
しかし数百枚、数千枚にも及ぶ書類をスキャンする、あるいはスプレッドシートに入力していく。その作業は、はたして「日常業務の合間に」できるものでしょうか。できるはずがありません。結果「手が空いたら少しずつやっておこう」と思いながら、いつの間にか忘れ去られてしまう、という結果に終わってしまいます。
また時間を作って作業するにしても、すべてを終わらせるまでに、どれほどの時間と労力がかかるでしょう? それを人件費に換算したら、いかほどのコストになるでしょうか?
アナログデータのデジタル化は、デジタルならではの検索性や加工性を最大限に活用するために行うものです。つまり、それまで完全に埋もれていた情報を叩き起こし、縦横に使い切るための下準備です。もちろん早期に完了できれば、それに越したことはありません。それを思えば、少々のコストをかけてでも、外部委託してデータ化するのが最も確実な近道だと考えます。
ペーパーレス化の進化で、何が生まれるのか
ここから先は、実際の導入事例とはまったく関係がありません。ですがペーパーレス化が今以上に一般的になり、多くの情報がデジタルデータとして保存・管理されるようになると、そこにはこれまでになかった環境やサービスが登場します。新たな世界にふさわしい新たな価値観も生まれてくるでしょう。そんな近い将来に起こりうるできごとのいくつかを最後にご紹介しておきます。
いずれも私一人のアイデアではなく、また実現に向けて動いているものもあるために、詳しくご紹介することはできません。しかしその概略や考え方に触れるだけでも、今までにない利便性や従来のビジネスの枠にとらわれない自由な可能性を感じ取っていただけることでしょう。
◆遺産分割までカバーする、デジタルアセット
個人向けの資産管理・運用、いわゆるアセットマネジメントサービス。このうちの管理機能だけを抜き出して、アプリケーション化したものです。誰もが手軽に使えるスマホアプリの形にまとめておけば、いつでも自分の資産状況とその詳細が分かります。
キャッシュや有価証券、投資信託、不動産。それら資産の詳細な内容と評価額、また各種契約書や登記簿の内容もひと目で確認できます。クリック一つでバランスシートを作れたり、負債があれば今後の返済計画をチェックできたりもします。
「いや、わざわざ管理するほどの資産なんてないよ」という方も多いと思いますが、このアプリの便利ポイントはそこだけではありません。
自動車保険や生命保険、医療保険の内容も入力しておけますから、更新や書き換えの際にあちこちの引き出しを探し回る必要がありませんし、事故の際も安心です。
また法律との兼ね合いがクリアできれば、このアプリをベースに遺言状を作成しておき、遺産分割や生前分与のシミュレーションを行うこともできます。電子署名とタイムスタンプで守られていますから、改竄の心配もありません。
個人に関わるすべての資産、契約を紐付けて管理できれば、人生の節目節目で実に有効に活用できるのではないでしょうか。
◆ビジネスデータの電子化とブロックチェーンの活用
商品、サービスの受発注、資産の売買、業務委託・受託など、すべてのビジネス取引は、基本的に次の様なフローに基づいています。
まず取引を行う意思を固め、複数の取引候補者の中からコストの面、取引条件の有利性などを考慮し相手方を選出します(①、②)。実取引のフローに移ってからは、各フェーズのステータスを当事者間で紙による文書で確認し合います(③〜⑥)。その後、決済に移行し会計処理がなされます(⑦〜⑩)。
このような取引において、特に少額かつ反復継続して行われる取引については、我が国でもEDIなどの電子商取引が使われはじめています。しかしながら、ほとんどの領域で未だペーパーレス化が進んでおらず、紙の文書のやりとりが大半です。
既述した通り、紙の帳票、書類、報告書などビジネス文書の授受・保存に関しては規制緩和が進み、251の法律において、紙保存に代え、電磁的記録での保存等が認められています。
電磁的記録での授受・保存のためには、テクノロジーの要素要件としては、現行法制度上、認定事業者のタイムスタンプとPKI(Public Key Infrastructure)基盤活用の電子証明書の二つがメインとなっています。
“秘密鍵”“公開鍵”を用い改竄可能性を排除する点ではブロックチェーンと同じですが、スマートコントラクト技術などの発展性は望めないのが現状です。
商取引において、取引の内容、条件、相手先などの基本要素は上記図表の①〜⑩各フェーズを通して共通であることから、ブロックチェーン、スマートコントラクト技術を活用することにより、現状、手作業で行っている処理の大半の自動化が可能となります。不動産取引などであれば、所有権の移転や決済処理などが人の手を介さずに行うことができるようになります。
◆仮想通貨ベースの金融プラットフォーム
現在、世の中に流通している貨幣は、かつて等価値の金地金との交換を保証する証として発行されていました。そうした歴史的な背景のためか、あらゆる取引において現金が最も強く、安全性も高いと認識されてきました。銀行は人々のニーズに応えるために多くの支店を設け、大量の紙幣・貨幣を管理するためのスペースと労力を割くことになりました。そしてその対価として手数料を徴収する、という仕組みが一般的になりました。
しかしブロックチェーン技術によって守られた仮想通貨では、紙幣や貨幣といった現物が存在しません。そのため通貨を管理するためのコストを非常に小さく抑えることができます。当然、各種の手数料もグッと低くすることが可能です。
このことは、従来の金融システムとは離れた、新たな金融プラットフォーム建設の可能性を示唆しています。
格差社会といわれる現代、国と国との間にも大きな富の格差が存在します。そのため海外に出稼ぎに出て、祖国の家族に送金するという人々は、数え切れないほどいるはずです。そして海外送金の際には必ず手数料を差し引かれます。これが、ところによっては10%近い高率であるケースがあるのです。
従来の金融システムではさまざまな面でコストが積み上がりますから、この数字も致し方ないのかもしれません。ですが管理コストの低い仮想通貨ならば、送金手数料をもっと安く…たとえば1%程度にまで下げることも可能かもしれません。そうすれば、海外で稼いだお金をより多く、故郷で暮らす家族の豊かな生活や、祖国の発展のために役立てることができます。
横山 公一
ペーパーロジック株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
公認会計士・税理士