M&Aの「譲渡価格を計算する」7つの方法
M&Aでは、売手会社はできるだけ高く売りたいのに対して、買手会社はできるだけ安くていい会社、将来性のある事業を買いたいと思っています。そこで、交渉をしながら最終的にお互いに満足のできる譲渡価格をFIXしていくのです。M&Aの譲渡価格を計算する方法は、主に7つあります。
【中小企業向け】
1 時価純資産価額法
中小企業のM&Aで最も多く使われているのは「時価純資産価額法」です。時価純資産価額法とは、会社の「もし今売ったらいくらになるかという、資産」から「もし今支払ったいくらになるかという、負債」を差し引いた「純資産」の時価相当額で会社の値段を算定する方法です。しかし、純資産だけで算出すると、利益が出ている会社も、赤字が出ている会社も同じ金額が出てしまうため、将来見込まれる利益を時価に逆算して、純資産に追加して調整します。
ここでいう将来見込まれる利益は、「営業権」「のれん代」などと呼ばれ、帳簿に載っていない売手会社のブランド力、収益力、技術力、優良な顧客などを指します。
なお、営業権は年買法を使っていて、この先3~5年は実績の収益力と同じ収益が得られるとして、先取して営業権として買収対象とする考え方をします。
たとえば、実績の収益が2,000万円であった場合、営業権は2,000万円×3年で6,000万円とみなします。
時価純資産価額法は、下記計算式で算出することができます。
会社の概算価格=純資産の時価(資産の時価-負債の時価)+営業権
なお、ここで注意したいのは、「もし今支払ったいくらになるかという負債」の項目です。この負債の中に現状帳簿に記載されている借入金だけではなく、「退職金」や「リース」など、将来に支払うであろう負債も含まれます。
では、以下の条件で会社を譲渡する時の概算価格を計算してみましょう。
資産:6,000万円
負債:4,000万円
営業権:2,000万円×3年
このような会社の場合、会社の概算価格は以下のように8,000万円になります。
会社の概算価格=6,000万円−4,000万円+2,000万円×3年=8,000万円
2 簿価純資産法
簿価純資産法は、賃借対照表を使って、資産から負債を差し引いて「純資産」を算出する方法です。財務諸表があればだれでも簡単に計算できますが、中小企業では正しい情報が記載されていなかったり、作成されていなかったりするケースも多いため、時価純資産価額法で算出する必要があります。
【上場などの大企業向け】
3 DCF法
大企業では最も使われている計算方法です。DCF法による株式価値算定は、今の会社のキャッシュフローに将来の収益性を加味して、有利子負債などのリスクを差し引くことで企業の価値を算出します。会社の将来性を加味することに重心を置きますので、予測できる範囲内の項目になるため、その前提条件の設定によって、算定価格が左右されます。
4 市場株価法
市場株価法は、上場されている会社が対象となります。一般的には、取締役会決議の前日株価を基準に、「1ヵ月平均」「3ヵ月平均」「6ヵ月平均」を使われるケースが多いです。
なお、算定期間中に新しいサービスのリリースがあるなどプレスリリースの発表がある場合、株価の変動に対する影響を見ながら、算定期間を再度決めることになります。
5 取引事例法
取引事例法とは、売手会社で過去にあった株式の取引実績に基づいて評価を行う方法です。この方法を採用する場合、過去の取引価格が妥当かどうかを検討する必要があります。
6 配当還元法
配当還元法とは、受け取る配当金から計算する方法です。配当還元法は、「1株当りの配当金/利回り」で計算しますので、安定配当型の会社であれば安定しているため計算しやすいですが、業績連動型の会社だと配当金の想定は非常に難しくなるでしょう。一般的には少数株主を対象とした売買に使われる場合が多いです。
7 収益還元法
収益還元法とは、将来得られるであろう利益を基づいて計算する方法です。収益還元法には、「当期純利益をベースとする考え方」と「税引き後の営業利益をベースとする考え方」といった、2種類の計算基準があります。
なお、将来の収益を予想するのが難しい、事業計画がない、という場合は、過去の事績ベースで想定することが多いです。一般的に収益還元法は将来にも安定した収益が得られる、成熟した業界で使われます。
「譲渡価格を左右する」6つの要素
では、実際に価格を計算する時にその価格を左右する要素にはどのようなものがあるのでしょうか。有利に交渉するために、以下の要素を把握しておく必要があります。
1 会社のビジョンと経営者の人間性
買手会社は、買収する会社のビジョンと経営者の人間性を見ています。中小企業の場合、経営者の人間性で会社のカラーが分かるので、買収後スムーズに統合ができるのかどうかを判断する一つの要素になっています。
2 事業の将来性
買手会社は、自社の事業をさらなる拡大のため、新規事業の開拓などを理由に事業を買収するケースが多いです。ただ目の前の利益、需要性だけではなく、将来的に拡大できる事業なのか、シェア獲得できるのかなどを判断しています。
3 クライアント
買手会社からにすれば、クライアントが多い会社は買収後もそのまま取引ができ、安定して会社の経営を引き継ぐことができるという判断ができます。
4 人材
少子高齢化の影響などを受け、どの業界も人材不足といわれています。人材不足という理由で会社の買収を検討している会社も多くあります。すでにノウハウも技術力もある人材を多く抱えている会社は、買手会社にとっては非常に魅力的な条件になります。
5 技術力
特殊な技術力を持っていたり、業界トップレベルの技術力を持っていたりする会社を買収することによって、買手会社は時間もお金も有効活用することができます。
6 顧客情報
顧客をたくさん抱えている会社は、買収後も安定した売上を得られることになります。特に新規参入を検討する買手会社は、新規開拓は最も難しい課題です。すでに顧客がある売手会社を買収できれば、最初の難関を超えたことになります。
「赤字会社」でも「売却」できるのか?
赤字会社は売却ができないと諦めている経営者も多いのではないでしょうか。実は赤字会社はその赤字になる理由によって、十分に売却できる可能性があります。
たとえば、技術力があるのに、営業力がないから売上が赤字だった場合、営業力が強い会社に売却することによって、その赤字を改善できると見込まれたら、売却ができるといえるでしょう。
実際に赤字会社でも売却ができた実例たくさんありますので、諦めずにまずは一度専門家に相談してみるといいでしょう。