米中貿易戦争の先行きが不透明ななか、急接近する中露。しかし、両国間には長い国境紛争の歴史があり、また両国は資源豊富な中央アジアを巡り地理的に競合する関係にある。双方の「関係強化」が実質を伴ったものか、慎重な見極めが必要だ。米中対立の影で、露の役割は「鍵」となるのだろうか。なお、本稿は筆者自身の個人的見解、分析である。

両国の専門家たちが指摘する、経済面の不確実性

前編『米中対立の一方で…中露が「関係強化誇示」の実態と真意』では、米中貿易戦争のさなかに親密ぶりをアピールする中国とロシアについて考察を進めた。

 

中露の関係に関しては、中国の専門家からも、例えば以下のような問題点が指摘されている(19年5月13日付経済観察網に掲載された社会科学院名誉学部委員論考、3月27日付社会科学院露東欧中亜研究所報告他)。

 

①18年に中国が露から輸入した原油は7149万トン(前年比19.7%増)で原油輸入総量の15.47%。16~18年3年連続で露は中国にとって最大の原油供給国。しかし、資源価格は需給関係、国際政治情勢など様々な要因で大きく変動する可能性があり、資源への過度の依存は貿易関係を不安定化させる。資源や産業構造面で両国間に大きな差異があるため、様々な中間財の貿易を通じて産業協力が進む基礎がない。

 

②経済協力を主導しているのが市場ではなく両国政府であること。このため、大型インフラ建設や資源開発協力が中心になる傾向が強く、加工型製造業、イノベーション産業、サービス業等の分野での協力が進みにくい。

 

③露は西側制裁を受けて以降、極東、アジア太平洋地域を重視するいわゆる東方戦略の下で、中国からの直接投資を期待するようになった。しかし元来、露は経済主権や安全保障に対し異常に敏感で、基本的に外国からの直接投資を歓迎しない傾向があり(13~16年、露国内総投資に占める外国からの直接投資はわずか0.5~1.1%)、直接投資を通じる産業協力は進みにくい。

 

④露は「東方戦略」の下でアジアや極東を重視するとしているが、その経済関係の重心はなお欧州市場にある。また東方戦略の対象は中国だけでなく、日本、インドなど露にとって重要な協力パートナーは数多く、戦略の行方は中国にとって大きな不確実要因。

 

さらに露の中国問題専門家(露国立国際関係学院中国研究センター所長)は、両国の発展モデルや経済に対する考え方には次のような大きな差異があり、それが協力深化を妨げる要因になっていると指摘している(米華字メディア多維新聞19年6月14日付報道)。

 

①露の経済改革には旧ソ連以来一貫性がない。そもそも、中国は工場を国有化した後、元の経営者に経営を任せ報酬も支払ったが、旧ソ連では国有化後、元の経営者は追放されただけという点で、改革の起点から大きく異なる。

 

②露には中国のように途上国であることを強調し、その特権を享受しようという意識はない。また元来、中国には強い商業文化があるが、旧ソ連、露にはない。それ故、露に中国の発展モデルを模倣する意識はなく、また仮に模倣しようとしても不可能。

 

③(必ずしも経済問題に限らないが)中国が時間をかけて諸問題を解決しようとするのに対し、露は争って直ちに解決しようとする傾向がある。

 

関係強化に立ちはだかる政治・軍事面の問題

両国は6月の習訪露の際、2国間文書としては初めて習政権が2017年の党大会以降、好んで用いている「新時代」の文言を冠した声明「新時代全面戦略協力パートナーシップの発展」を発表し、両国関係を一段高いステータスに引き上げようとしたかに見える。しかし経済面同様、政治・軍事面でも以下のような点を考えると、関係強化が直ちに進むか慎重に見る必要がある。

 

①旧ソ連崩壊後、中国は上海協力機構(SCO)を主導し、また近年では「一帯一路」構想を推進しているが、その根底には、エネルギー面で露への過度の依存を避けること、なお露の影響が強い中央アジア諸国との関係を強化し、露とこれら諸国との間にくさびを打ち込みたいという強い思惑がある。他方、露側にも中国がSCOを主導し、中央アジアへの影響力を拡大しようとしていることに対し強い警戒感がある。

 

②中国は東シナ海や南シナ海で日本や東南アジア諸国と領土問題を抱えているが、露はこれに対し中立を表明。他方、中国は露のクリミア併合に対して公式には支持を表明しておらず、ウクライナにはその領土保全を支持。またウクライナは引き続き中国にとって主要な武器供給源でもある。同じく露と領土問題を抱えるジョージア(旧グルジア)に対しても、中国はその独立と主権支持を表明。中国は自国内にウイグル族やチベット族など少数民族の分離独立運動を抱えている関係上、以前から「歴史的に中国は一貫して、各国の主権、独立、領土保全を尊重している」とし、いかなる分離独立運動にも反対する立場を採っていることが背景にある。

 

③露は自ら進める「ユーラシア経済連合」と「一帯一路」の連結を検討すると述べるに止まり、なお正式には「一帯一路」計画への参加を表明していない。中国が「一帯一路」で関係を強化しようとしている中央アジアは旧ソ連の一部で、歴史的に露の影響が強い地域であり、同じく「一帯一路」の対象となっているアフリカ諸国を含め、露にとって主要な武器供給先でもある。多くの露地元メディア、また中国の専門家も、両国の軍事同盟はお互い手足を縛られるだけで不必要であり、情報、科技、金融などの分野での技術的な協力促進、あるいは「文書のない事実上の同盟」で十分との認識を示している(11月4日付FT中国語版他)。

 

④露は米中貿易戦争を中立の立場から傍観している状況にある。中国との多くの協力プロジェクトを担当するある露側幹部は、「米中貿易戦争を受けて、露が中国に対し何か支援するといった計画は全くない」と述べている。また、北極での共同科学調査や「氷上シルクロード」構想は6月習訪露でも再確認されたが、露は中国からの投資を期待しているだけで、実は北極に対するこれまでの露の「盟主」としての地位が脅かされることに大きな不満を持っている(上記ボイスオブアメリカ華字版)。

 

⑤両国の先進国と途上国のような片務的貿易構造から、露内では以前から「露は中国の属国か」といった声まであり、一貫して、台頭する隣国中国に過度に依存すべきでないとの声がある。

中米対立の影で、露の役割が鍵となるか?

両国間には周知の通り、旧ソ連時代から2005年に至るまで、長い国境紛争の歴史があり、また両国は資源豊富な中央アジアを巡り地理的に競合する関係にある。イデオロギーの面でも同じというわけではない。欧米、特に米国との関係で、その時々の情勢に応じて、中国は露を、そして露は中国を、お互いにどう利用すれば自国の利益を最大化できるかを常に考えながら行動してきた。多くの海外政治学者が両国の関係を「同床異夢」「策略的」と呼ぶゆえんだ(19年10月3日付香港経済日報)。

 

他方、中国内では「両国関係は現在あらゆる面で歴史上最も良好」(19年10月9日の旧ソ連に遡っての国交樹立70周年記念行事での栗戦書党常務委員発言他)、「露は中国の発展を支える資源供給基地にすぎない」「中露協力では政熱経冷が歴史的宿命」(上海国際問題研究院19年6月9日付時評)などの見方が交錯している。

 

当面、中露が関係強化を誇示していくことは間違いないとしても、それが実質を伴っていくかは慎重に見る必要がある。経済のグローバル化の程度など諸条件の違いを考えると安易な類推は危険だが、かつて冷戦時代、表に出る米ソ対立の影で中国が隠れた大きな「変数」であったように、中米の対立の影で露の役割が鍵になるかもしれない。

 

 

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