関係強化を誇示する中露も、経済関係は「不均衡」
米中貿易戦争の行方がなお不透明な中、ロシア(露)の動向が重要になる可能性がある。習近平国家主席は2019年6月、露を訪問したが、そのタイミングは結果的に米中貿易協議が不調に終わった5月初と6月末のG20大阪サミットの間となり、両国が関係強化を誇示する様は各国の注目を集めた。
その後、軍事面では中国のミサイル警報システム開発への露の協力が再確認され、その関連で、両国はすでに6000万ドル相当の契約を署名。同盟関係構築もあり得るのではないかとの見方も出てきている。経済面では新華社が中露(ハルビン)経貿指数の発表を開始し、また人民元建露ソブリン債発行計画も再び持ち上がっている。さらに12月には、2014年に合意し建設が進められていた中露東ルート天然ガスパイプライン(シベリア東部→黒竜江省黒河市→上海、当面年間50億㎥、23年全面稼働後は年間380億㎥供給)による中国へのガス供給が開始された。しかし、中露の接近は政治経済両面で大きな不確実性も伴っている。
中国側統計によると、中国の対露輸出は2018年480億ドル(前年比12%増)、輸入591億ドル(同43%増)、総貿易量が1071億ドル(同27%増)と、ようやく1000億ドルの大台を超えた。13年の習訪露以降、両国貿易量を15年1000億ドル、20年2000億ドル規模にまで増加させるとの目標が掲げられてきたが、その後の貿易量は目標ほど伸びてこなかった(図表1)。
19年1~9月の貿易総額は前年比3.7%増で、現在は2000億ドル目標の達成時期を24年に後ろ倒しすることが両国の共通認識になっている。露にとって中国は2010年以降一貫して最大の貿易相手国だが(18年露総貿易の15%が対中)、中国にとって露の比重が大きく高まる傾向は見られず(一貫して輸出シェア2%弱、輸入シェア2~3%で推移)、10番目の貿易相手国にすぎない。
中国がもっぱら露からエネルギーを輸入し、露に消費材や工業製品を輸出するいわゆる片務的貿易構造を是正することも両国の懸案だが、18年対露輸入のうち石油等鉱物燃料やその関連製品の割合は73.5%、木材・木材製品、木炭が6.3%で、これら資源関係だけでなお80%を占める。他方、対露輸出のうち衣類等労働集約型消費財の比重は低下傾向にあるものの、電気機器・ハイテク製品・機械類とその部品、原子炉、ボイラー、医療機器がなお60%を占めている。
また、中国は露の投資環境について以前から、露側の、①労働力不足、②複雑な市場への中国側の理解不足、③法制度や市場の未整備などがネックになっているとしている他、露に進出する中国企業は成果を急ぐあまり、露の法制度や国情、市場について十分な調査をしないため、不必要な損失が発生しているとの指摘がある(18年12月20日付中俄資訊網、および19年3月1日付環球財経に掲載された中国国際問題研究院論考)。
中国の対外投資に占める露の割合は露のクリミア侵攻直後、一時的に2%にまで上昇したが、その後1%を切る水準で推移している(図表2)。香港等を通じる迂回投資の調整をしても2~3%程度のもようだ(米国Heritage Foundation推計)。分野別では、資源採掘、農林牧・漁業関係で投資先の7割近くを占める。他方、露の対中投資は18年5660万ドルと17年比倍増だが、なお中国に流入している外国投資全体の0.04%とほとんど無視し得る規模だ(中国商務部外資統計)。
中国は対米貿易戦争に、露は西側諸国の経済制裁に直面
中国は先行き不透明な対米貿易戦争に直面し、露はクリミア侵攻以降、西側諸国からの経済制裁を受けている。両国はイランやシリア情勢など国際関係問題で、対米という観点から似たような立場をとることが多い。
国内経済面では、中国が資源を確保して安定成長を目指す一方、露は経済制裁に直面する中で、製造業を中心に実体経済の強化を通じて、24年までに世界5位の経済体になることを目指している(18年大統領令「24年までの国家戦略発展と任務」)。
こうした両国が置かれた複雑な国際関係と国内経済状況から、当面両国が接近を図ることには必然性がある(図表3、4)。しかし上述の通り、ここ数年の両国の経済関係はその期待や大方の予想ほどは拡大しておらず、さらに以下のような不確実要因がある(ボイスオブアメリカ華字版19年6月7日付報道他)。
①「一帯一路」の象徴的共同インフラプロジェクトであるモスクワ・カザン間高速鉄道は、中国が資金と技術を供与して建設を進めるとして、両国が盛んに宣伝してきたが(14年に覚書締結。中国がそのシルクロード基金や政府系政策金融銀行を通じて60億米ドルを融資し、18年着工、24年開通予定とされていた)、露内には建設費や利用者数などから見た経済合理性、中国に対する警戒感から反対意見が多く、プーチン大統領もモスクワ・サンクトペテルブルグ間高速鉄道の建設を優先するとしている。露大統領府はモスクワ・カザン間の建設は25年以降に考慮されるとしているが、24年にプーチン大統領の任期が満了し、25年はロシア国内政治面で大きな変化が予想されることを考えると、これは「人を愚弄した」説明と言われている。黒龍江大橋や同江大橋の例を見ても、合意してから実際に建設されるまでには膨大な年月がかかっており、本プロジェクトも協力文書が署名されていても、実施されるかどうかは別問題。露内ではモスクワ・カザン間は高速道路にする代替案もある。
②人民元とルーブルの直接交換を促進し、米ドルへの依存を弱めることは両国の長年の懸案で、19年6月習訪露の際に署名された協力文書も本件に触れている。この関連で、16年一時議論されたが実現していなかった人民元建の露ソブリン債発行が19年末か20年初にも予定されている。露ガスプロムバンクによると、現在約2兆ルーブル(302億米ドル)のルーブル建債券を外国投資家が保有しているが、その中に中国人投資家はいない。18年5月に中国人民銀行が人民元適格国内機関投資家(RQDII)の制度を再開したことも相まって(15年後半から資本流出抑制策の一環で停止していたもの)、人民元建債券発行で中国人投資家の露市場に対する関心が高まることが期待されている。外貨準備面では、露中央銀行は18年440億ドル相当の人民元を購入する一方、1000億ドル以上の米ドルを売却、18年央時点で670億ドル相当の人民元を保有(人民元の割合は17年9月末1%→15%と大幅に上昇)。これに対し、米ドルの割合は同期間46.2%から22.6%に低下している。しかし、露の貿易決済の70~90%はなお米ドルで行われており、人民元が決済に使用される割合は2%、中露2国間貿易に限っても、人民元、ルーブルの使用割合は各々14%、7~8%に止まっている。露財務省は露の銀行の為替リスクヘッジ手段が限られていること、両国間貿易が基本的に国有企業間で行われており、取引コストを節減するというインセンティブに乏しいといった点を指摘している。また、人民元とルーブルの直接決済システムの開発も長年の懸案事項だが、あまり進捗していない。
③19年6月習訪露の際、米国が安全保障上の脅威としている中国通信機器大手の華為(ファーウェイ)が、露通信企業MTSと共同で第5世代(5G)通信網を開発するとの合意があったが、これに対し、露内では賛否両論あり、ネットを含めた情報空間を規制する傾向の強い中国との協力に警戒感を示す声がある。
(後編に続く)