米トランプ大統領は今年5月に中国からの輸入品に対する関税引き上げを表明した際に、「米国に支払われた関税はコストに影響せず、中国が負担してきた」といったことを主張していました。今回のNY連銀の調査レポートはトランプ大統領の主張に疑問を投げかけています。なお、同レポートはスタッフの自由な意見表明であり、政策への反映は別である点への認識は必要です。
ニューヨーク連銀:調査レポートで関税を払うのは中国に疑問を呈する
ニューヨーク(NY)連銀は2019年11月25日付けで公表した調査レポート(Liberty Street Economics)でトランプ米政権による中国製品への関税負担が中国側だけではなく米消費者にも回っていることを指摘しています。
NY連銀は同様のトピックを同調査レポートで5月にも取り上げていますが、今回は中国からの輸入品の価格が安定していることなどを論拠として、米トランプ大統領が繰り返す、中国が関税を払っているという主張に疑問を呈しています。
どこに注目すべきか:関税負担、CBP、輸入品価格、マージン縮小
米トランプ大統領は今年5月に中国からの輸入品に対する関税引き上げを表明した際に、「米国に支払われた関税はコストに影響せず、中国が負担してきた」といったことを主張していました。今回のNY連銀の調査レポートはトランプ大統領の主張に疑問を投げかけています。なお、同レポートはスタッフの自由な意見表明であり、政策への反映は別である点への認識は必要です。
トランプ大統領は年初に「財務省に中国から数十億ドルが流れ込んでいる。以前は微々たる額だ」といった発言をしています。確かに、財務省が把握する関税額は、関税を引き上げた(18年7月)頃から急増しています(図表1参照)。
問題なのは、これを誰が払って(負担して)いるかです。
米国が中国から製品を輸入する仕組みを振り返ると、関税は米国を通関する時点で課せられます。米税関国境警備局(CBP)が輸入業者(大抵は米国企業)に通関から10日以内に関税支払いを義務付けるからです。
同レポートは中国が関税を負担し、関税引き上げ後も価格競争力を保つには2割(1.25×0.8)程度の値引きが必要と見られます。しかし、中国から米国への輸入品価格を18年6月以降でみると、約2%の低下で、他の地域と大差ない点を指摘しています(図表2参照)。輸入品価格の引き下げが限定的なのは負担に様々なパターンがあるためです。
同レポートが指摘する輸入価格安定の背景の一つはマージンの低下です。関税引き上げの価格転嫁をあきらめ、利益を縮小させることです。この場合、中国輸出企業や、米国企業などが関税を負担することが想定されます。
中国企業の製品の競争力が高い場合、現地価格を変更することなく中国が輸出するケースでは、米国が関税を負担する可能性が高いと思われます。
その他のケースも紹介されていますが、ポイントは関税引き上げを負担するのは、マージン縮小のケースでは主に中国製造業、もしくは米国輸入卸売り、または小売業者などで、中国製品の競争力が高い場合は主に米国家計が負担する可能性が高いことです。なお同レポートは負担割合などの詳細なデータを示していません。図表1にあるように関税収入データの把握は簡単な一方、関税負担の分布や行き先を知ることが容易ではないことが、関税負担の議論を複雑、もしくは不毛な論争としているようです。政策に関わるポイントだけに、今後も事実に基づいた議論を期待したいところです。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『トランプ大統領「関税負担は中国」との主張、NY連銀が疑問視』を参照)。
(2019年11月27日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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