比喩ではなく「人生100年時代」が現実となった日本。誰もが年齢には抗えず、認知症患者数も右肩上がりに増えています。しかし、貯蓄額の約7割は60歳代以上の世帯が保有しています。もし資産家の高齢者が認知症になった場合、その財産は一体どうなってしまうのでしょうか。本記事では、富裕層の資産運用に数多く携わってきた幻冬舎アセットマネジメントの冨中則文氏が、高齢者の資産防衛の選択肢について考察・提案します。

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金融庁レポートで議論された「認知症リスク」の問題

令和元年6月3日に公表された、金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書、「高齢社会における資産形成・管理」ですが、世間を大いに沸かせた「年金2000万円」問題だけでなく、もうひとつ重要なテーマが議論されていました。それは「認知症リスク」についてです。

 

高齢社会における資産形成・管理についての議論でフォーカスを当て、今後5年、10年と高齢化が進んでいくなか、高齢者の金融資産をどの様に資産形成・管理していくか、金融庁も重要な課題と位置づけています。

 

●日本の超高齢化社会の現状

高齢者数:3461万人、総人口に占める割合は27.1%

男性…平均寿命:81.09歳  健康寿命:71.19歳

女性…平均寿命:87.26歳  健康寿命:74.21歳

出典:高齢者数…総務省統計局、2016年、平均寿命…厚生労働省「完全生命表」2017年、健康寿命…「公正科学審議会地域保健健康増進栄養部会資料」2014年

 

日本人は年々長寿化しています。1950年頃の男性の平均寿命は約60歳でしたが、現在は約81歳まで伸びています。現在60歳の人の約4分の1が95歳まで生きるという試算もあり、まさに「人生100年時代」を迎えようとしていることが、統計からも確認できます。

 

(注)割合は、推計時点の60歳の人口と推計による将来人口との比較。1995年推計では、100歳のみの将 来人口は公表されていない (出典)国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計」(中位推計)より、金融庁作成
60歳の人のうち各年齢まで生存する人の割合 (注)割合は、推計時点の60歳の人口と推計による将来人口との比較。1995年推計では、100歳のみの将来人口は公表されていない
(出典)国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計」(中位推計)より金融庁作成

 

(出典)厚生労働省「第22回完全生命表」、「平成29年簡易生命表」より金融庁作成
平均寿命の推移 (出典)厚生労働省「第22回完全生命表」、「平成29年簡易生命表」より金融庁作成

 

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2025年には認知症の人が約700万人前後まで増加

近年、認知症の人の増加が顕著となっています。

 

2012年の65歳以上の認知症の人は約462万人、65歳以上の約7人に1人とされ、また、正常なもの忘れよりも記憶などの能力が低下している状態といわれる、いわゆる軽度認知症の人の数は約400万人と推計されています。これらをあわせると、65歳以上の4人に1人が、認知・判断能力に何らかの問題を有していることになります。

 

さらに、今後の高齢化とあいまって、2025年には認知症の人が約700万人前後まで増加すると推計され、これは65歳以上の約5人に1人が該当することになります。

 

80歳から84歳では認知症の有病率は、男性は約6人に1人、女性は約4人に1人、85歳~89歳ではこの割合は倍増し、以降の年齢でも認知症の有病率が増加しています。

 

(出典)都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 :平成23年度総括・分担研究報告書 厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業(朝田隆ほか)より、金融庁作成
年齢別の認知症有病率の推移 (出典)都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 :平成23年度総括・分担研究報告書
厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業(朝田隆ほか)より金融庁作成

 

金融資産のほとんどは高齢者が保有

下記の図表から、貯蓄額の約7割は60歳代以上の世帯が保有していることがわかります。

 

(出所)第一生命研究所:総務省「全国消費実態調査」、日本銀行「資金循環統計」より試算
世帯主年齢階層別個人金融資産額(2017年度末) (出所)第一生命研究所
    総務省「全国消費実態調査」、日本銀行「資金循環統計」より試算

 

また、下記の図表は、認知症患者の保有する金融資産額について実績値と将来値の試算を行ったものです。2015年時点では 127兆円、2030年度時点では 215兆円に達すると試算されています。家計金融資産全体に占める割合は将来的にも上昇が見込まれ、2030年度には 10.4%と1割に達する見込みです。

 

(出所)第一生命研究所 (注)マクロの家計金融資産額(実績は日本銀行「資金循環統計」、予測は第一生命経済研究所作成
認知症患者の保有する金融資産額(推計と将来試算) (出所)第一生命研究所
(注)マクロの家計金融資産額(実績は日本銀行「資金循環統計」、予測は第一生命経済研究所作成

 

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これまで、日本の高齢化社会の現状、認知症の問題、高齢者の金融資産の保有状況などを見てきましたが、ここからは高齢者の金融資産の管理、承継にどのような問題が発生してくるかを考えていきましょう。

高齢の認知症罹患者の資産管理の問題

もし、あなたが重度の認知症となってしまったら…? 高齢等の理由により、あなたが認知症を罹患し、その症状が重くなると、ご本人が資産管理・運用・処分について判断できなくなり、所有する資産の有効活用もできなくなってしまいます。

 

一方、銀行や証券会社などの金融機関は、顧客を認知症と判断した場合は口座を凍結し、その後の売買をストップします。
 

現状、金融機関において、高齢者の資産管理・運用・処分のために使われている制度に「代理人制度」「成年後見制度」がありますが、認知症の対策としてはさまざまな問題を抱えた制度と言わざるを得ません。

 

●代理人制度

親に代わって取引ができる取引代理人として子が登録し、代わりに管理・運用を行う制度です。通常、年1回の面談等で親本人の同意の意思確認が必要になるため、認知症が発症してからは利用できなくなる点は十分注意が必要です。現在の運用では、目先の収益を重視するあまり、定期的な本人の意思確認が十分に行われずに継続されているケースもあるようですが、今後、高齢者取引のコンプライアンスの重要性を考えると、より厳格な運用が必要になると考えられます。

 

●成年後見制度

成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」がありますが、いずれも本人の財産の保護という観点から判断を行います。そのため、積極的な運用や、保有金融資産の相場を見ながらの売買といった、積極的な財産の活用ができなくなります。また、成年後見制度の準備には2~3ヵ月かかり、家庭裁判所への申請、実行後の監督など実効性に改善の余地があります。

 

 

重要なのは、高齢者の資産の管理・運用・処分と承継

上記のことから見ても、超高齢社会の日本では「資産の管理・運用・処分」と「資産の承継」に関する問題の解決策が、今後一層必要となります。

 

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 金融資産を抱える高齢者自身の悩み・不安・不満 

事業・資産承継の悩み

判断能力の低下への不安

相続発生時の不安

金融機関の対応への不満(高齢者ルール等)

 

 高齢者のご家族等の悩み・不安 

変な商品を購入していないか、また、騙されてないか?

保有している商品等を理解しているか?

本人の判断能力が衰えたときにどうしたらいいか?

 

 高齢者の家族等が実際に困ること 

認知症になってしまったとき、成年後見制度での対応しかできない

死亡したとき、相続終了時まで預金や証券取引口座が凍結されてしまう


 

超高齢社会に問題となる資産管理と承継の問題を解決する方法のひとつに、「民事信託」の活用があります。民事信託とは、一定の目的に従い、家族間(等)で、財産の管理・運用・処分をする制度です。

 

民事信託の具体的な内容とその活用方法については、次回記事で詳述します。

 

 

冨中 則文

幻冬舎アセットマネジメント IFA事業室 室長

 

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