全員で約600万円も得に…長女と二女に相続をさせなかったワケ

本記事では、相続税申告200件以上を経験した相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の天満亮税理士、竹下祐史税理士が、実例をもとに「相続対策」について解説します。今回は、遺産分割協議の工夫で節税することに成功した事例を見ていきます。

長女と二女に年間500万円ずつの生前贈与を実行

親御さんにご相続が発生してしまった場合に、「何も節税対策をしていなかった」、「今さら何もできないから、どうせ多く税金を払うしかないんでしょう?」とあきらめ顔でおっしゃる方々がよくいらっしゃいます。

 

しかし、ご相続が発生してしまった後でも、諸々の状況を踏まえて遺産分割協議の内容を工夫すれば、税金を抑えられることがあります。

 

ここでは、あえて長女と二女に相続をさせなかったことにより、相続人全員で合わせて約600万円も税金が減り、なおかつ、相続をしなかった長女も二女も損をしなかった、という事例をご紹介したいと思います。

 

奥さまは既に亡くなっていて、その後、ご主人(3億円以上の規模で財産をお持ち)が亡くなりました(2次相続)。

 

相続人は長男、長女、二女の計3名。長男様ご家族は、今回亡くなったご主人とずっと同居しており、長女と二女は既に結婚して家を出ています。代々の地主さんということもあり、長男への本家相続は既定路線で、それについて長女と二女は基本的に合意しています。

 

とは言え、今回亡くなられたご主人は、せめてお金は少しでも長女と二女にもあげたいということで、現金で年間500万円ずつの生前贈与をしていました。贈与税の非課税枠(年間110万円)を超えているので、もちろん贈与税(9.7%相当)もきちんと払っていました。

 

そして長女と二女への生前贈与をちょうど3年間実行した後に、ご主人は亡くなられてしまいました。

 

相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象になる

ご主人は長女と二女に贈与をしていたので、現金3000万円(=500万円×2名×3年)は既にご主人の財産ではなくなっていましたが、亡くなられる直前3年以内の贈与財産は相続税の課税対象となる、というルールがあるため、相続税の課税対象となってしまいます。

 

【参考】国税庁タックスアンサーNo.4161「贈与財産の加算と税額控除」より

相続などにより財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します。また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されることになります。

 

まあでもそれは仕方がない、前払いしていた贈与税は相続税の計算上控除されるので、相続税との二重払いになるわけでもないし、粛々と遺産分割協議をまとめて申告と納付をしよう、ということで話し合いは進みました。

 

長女と二女は、生前贈与分も含めて手残り(税引き後)1500万円くらいもらえれば充分ということなので、残り(全体の9割相当)は長男の取得で良いということになりました。そこで、長女と二女は生前贈与だけでは手残り1500万円には足りないので、生前贈与とは別に、さらに相続で500万円ずつの現預金を受け取る、という内容に決まりました。

 

この場合、相続税の課税対象は、生前贈与の3000万円も加算して約3億3000万円となり、相続税の合計は約6400万円となります。生前に納付した贈与税はここから控除されるので、結局、税金の総額が約6400万円ということです。ちなみに長女と二女には、生前贈与3年分と今回の相続を合わせると、税引き後で約1600万円ずつの現金が残ることになります(以下、「ケース1」という)。

「相続しなければ」3年以内贈与は関係ない?

ここで、前述のタックスアンサーを再度、見てみましょう。

 

出だしを見ますと、「相続などにより財産を取得した人が、~」とあります。「子が、~」でもなければ「法定相続人が、~」でもありません。

 

要するに、相続などにより財産を取得した人でなければ、子であっても、法定相続人であっても、この規定の対象外になるということになります。

 

つまり今回でいいますと、長女と二女が、遺産分割協議による「相続」により500万円ずつを受け取らなければ、生前贈与の合計3000万円は、そもそも相続税の課税対象に入れなくて良い、ということになります。なぜなら、「相続などにより財産を取得した人」ではありませんから。

 

そうすると、相続税の課税対象は、生前贈与の3000万円を除いて約3億円まで減り、相続税の合計も約5500万まで減ります。しかし生前贈与時に長女と二女は贈与税(2名合計で約300万円)を払っており、これは控除もされずに払いっぱなしのままなので、結局、贈与税と相続税を合わせて税金の総額は約5800万円ということになります(以下、「ケース2」という)。

 

「ケース1」での税金総額は約6400万円、「ケース2」での税金総額は約5800万円なので、約600万円も得したこととなります。

 

しかしこのままですと、「ケース2」での長女と二女は「相続」では現金をもらえていないので、この二人の手残りは減っていることとなります。生前贈与3年間合計1500万円ずつに対し、贈与税3年分(約150万円)を差し引くと約1350万円なので、「ケース1」の場合の約1600万円にはもちろん、最低限の希望の1500万円にも届いていません。

 

そこで、長女と二女の希望に届くために、遺産分割協議とは別枠で、つまり「相続」の土俵の外で、長男から、長女と二女に年間100万円×3年ずつ贈与をすることにしました。この金額であれば非課税枠内なので贈与税がかかりません。長女と二女の手残りは「ケース1」よりも少し多い約1650万円ずつになります。長男様は今後3年間で600万円(=100万円×2名×3年)が出ていきますが、それでも「ケース1」よりは相続税がかからないので手残りは多くなります。

 

すなわち、遺産分割協議の工夫とその後の適切な贈与を組み合わせることにより、誰も手残りを減らすことなく、全員で約600万円も得をした、ということになったのです。

 

 

税理士法人ブライト相続 税理士
天満 亮

税理士法人ブライト相続 税理士
竹下 祐史

税理士法人ブライト相続 税理士

東京都江東区出身。2004年、金井公認会計士事務所入所。中小企業者の法人税、所得税及び消費税申告業務を中心に、資産税業務、月次経理業務、給与計算業務その他幅広く従事。2012年、税理士法人レガシィ入社。200件超の相続税申告、相続税還付、遺言その他相続対策コンサルティング業務、相続セミナー講師、税制改正プロジェクト等に幅広く従事した後、2019年税理士法人ブライト相続開業。

著者紹介

税理士法人ブライト相続 税理士・公認会計士

東京都国立市出身。2006年、監査法人トーマツ入社。上場企業の財務諸表監査、内部統制監査、上場支援、M&Aアドバイザリー業務等に従事。2012年、税理士法人レガシィ入社。200件以上の相続税申告、生前の相続対策、事業承継対策、家族信託・遺言作成コンサルティングなどの資産税業務に従事。2019年に税理士法人ブライト相続を開業。

著者紹介

連載実例で解説!相続専門税理士が教える「あなたに合った」相続対策

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